
「夫の性欲が減退しているという悩みは、男性更年期が原因の可能性もあります」と話す薬剤師の山形ゆかりさん。「夫の性欲がなくなっちゃって…」とお悩みの方もいるかもしれません。そこで、性欲減退に関わる男性更年期と効果が期待できる治療法や食事、漢方薬について教えてもらいました。
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男性の性欲減退の原因
男性の性欲の減退は、「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)」の症状のひとつである可能性があります。LOH症候群は、男性ホルモンであるテストステロンの低下が原因で起こるため、いわゆる男性更年期と呼ばれています。
テストステロンは、がっしりとした男性らしいとされる体形や性欲を司るホルモンです。加齢やストレスによって、テストステロンの分泌量が低下すると、さまざまなLOH症候群の症状を引き起こしやすくなります。
LOH症候群の症状は性欲減退から始まり、徐々に活力の低下や肥満、抑うつ、睡眠障害などが起きます。そして、最終的に勃起障害につながることが多いようです。早めに対策することで、症状の悪化を防ぎ、性欲を取り戻しやすくなります。
性欲を正常に戻すには
夫の性欲を正常に戻したいと考えていても、性問題は夫婦間で話しにくいと感じる人も多いのではないでしょうか。まずは、性欲減退の原因がLOH症候群なのかを、性問題に触れずに確認するのがおすすめです。たとえば、「40代以降は男性も更年期症状がでる可能性があるんだって! 心配だから、一度セルフチェックしてみたら?」と、これから紹介する方法をすすめてみましょう。

LOH症候群かどうかセルフチェックをする
LOH症候群かどうかをセルフチェックするには、男性更年期障害質問票(AMSスコア)を使います。
AMSスコアとは、精神・心理、身体、性機能についての17問に、1「なし」、2「軽い」、3「中等度」、4「重い」、5「非常に重い」の5段階で点数をつけ、合計点数で更年期症状の程度を判断する方法です。
以下は、日本泌尿器科学会・日本 Men’s Health 医学会 「LOH症候群診療ガイドライン」検討ワーキング委員会『加齢男性性腺機能低下症候群診療の手引き』(https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/30_loh_syndrome.pdf)に掲載されているAMSスコアの質問票です。以下の質問になし、軽い、中等度、重い、非常に重いの5つの中からあてはまるものを回答。順に1~5点となる。
・総合的に調子が思わしくない(健康状態、本人自身の感じ方)
・関節痛や筋肉の痛み(腰痛、関節痛、手足の痛み、背中の痛み)
・ひどい発汗(思いがけず突然汗が出る。緊張や運動とは関係なくほてる)
・睡眠の悩み(寝つきが悪い、ぐっすり眠れない、寝起きが早く疲れがとれない、浅い睡眠、眠れない)
・よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
・いらいらする(当たり散らす、些細なことにすぐ腹を立てる、不機嫌になる)
・神経質になった(緊張しやすい、精神的に落ち着かない、じっとしていられない)
・不安感がある(パニック状態になる)
・体の疲労や行動力の減退がある(全般的な行動力の低下、活動の減少、余暇活動に興味がない、達成感がない、自分をせかせないと何もしない)
・筋力の低下
・憂うつな気分(落ち込み、悲しみ、涙もろい、意欲がわかない、気分のむら、無用感)
・「絶頂期は過ぎた」と感じる
・力尽きた、どん底にいると感じる
・ひげの伸びが遅くなった
・性的能力の衰え
・早朝勃起(朝立ち)の回数の減少
・性欲の低下(セックスが楽しくない、性交の欲求がおきない)
以上の項目を合計し、26点以下は正常、27〜36点は軽度、37〜49点は中等度、50点以上は重度に分類されます。

ただし、AMSスコアのセルフチェックでわかるのは、LOH症候群の可能性があるかどうかです。LOH症候群の正確な診断には、採血でテストステロン値を調べたり医師の診察を受けたりすることが必要です。
テストステロン補充療法を受けてみる
AMSスコアの点数が中等度以上だった場合、「更年期の不調は、病院で治療を受けたらよくなることが多いみたいだよ」というように、夫に医療機関の受診を促すとよいでしょう。
LOH症候群に対する医療的な治療として、テストステロン補充療法(TRT)がよく使われます。テストステロン補充療法とは、飲み薬や塗り薬、注射によって、テストステロンを補う治療方法です。この治療を少なくとも6か月以上受けると、AMSスコアが改善する傾向にあります。
性欲減退を予防する食事
「テストステロン補充療法には抵抗がある」という人は、テストステロンの材料になる「DHEA」やDHEAを分泌する副腎の疲労回復に効果的な栄養素(ビタミンC、ビタミンE、亜鉛)が含まれる、ヤマノイモ科に属する長芋や自然薯などを食べましょう。

なお、生活習慣の乱れやストレスによって副腎が疲労するとDHEAの分泌量は低下するため、ストレスを減らしたり生活習慣を改善したりすることも大切です。
また、DHEAは女性ホルモンのエストロゲンの材料にもなるため、これから旬を迎える自然薯を夫婦で食べて、一緒に更年期対策をするのもよいでしょう。
性欲減退には漢方薬も役立つ
性欲減退の対策には、漢方薬を活用するのもひとつの手です。漢方薬は、医薬品としての効果や安全性が認められており、泌尿器科などの医療機関でもLOH症候群に対して用いられています。
LOH症候群の原因として、加齢やストレス、生活習慣の乱れなどによる男性ホルモンの減少が考えられるので「血流をよくし、生殖泌尿機能を回復させる」「体を温め、内臓の機能を回復させる」といった作用がある漢方薬を選びましょう。

おすすめの漢方薬
・八味地黄丸(はちみじおうがん)
老化によって衰えた腎(漢方の考え方で、エネルギーが蓄えられているとされている場所)の働きをよくして生殖泌尿機能を回復させることで、加齢による体のだるさや男性更年期の不調にアプローチします。疲れやすい、手足が冷える、尿量が少ないもしくは多いなどの症状がある人に用いる漢方薬です。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
八味地黄丸の処方に、水分代謝をよくする生薬と痛みを取り去る生薬を加えた漢方薬です。八味地黄丸同様に老化によって衰えた腎の働きをよくして内臓の機能を回復させ、加齢による体のだるさや男性更年期の不調にアプローチします。八味地黄丸と同じ適応ですが、とくに腰痛や下半身のしびれ、むくみのある人に用いる漢方薬です。
漢方薬を始める際の注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれた人:薬剤師・山形ゆかりさん

やまがた・ゆかり。薬剤師、薬膳アドバイザー、フードコーディネーター。病院薬剤師として在勤中、食養生の大切さに気付き薬膳の道へ。牛角・吉野家ほか薬膳レストラン等15社以上のメニュー開発にも携わる。「健康は食から」をモットーに健康・美容情報を発信する「Medical Health -メディヘル-youtubeチャンネル」(@medicalhealth–7900)で簡単薬膳レシピ動画を公開するなど精力的に活動している。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でも薬剤師としてサポートを行う。