健康・医療

進化する「更年期のフェムテック」医療で心と体の悩みは解決できる「性欲低下」も

白衣に紫のカーディガンを羽織った関口由紀さん
人生100年時代を健やかに過ごすために関口さんが考えていることとは?
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「フェムテック」と聞くと、生理や妊活など若い女性のための言葉のように思われがちですが、更年期以降の世代へ向けた医療やテクノロジーも発達し始めています。そこで、日本フェムテック協会の代表理事を務め、「90歳まで、人生の現役をめざしましょう」と掲げる医師の関口由紀さんから、更年期以降の世代の心体トラブルやフェムテックについて教えていただきました。

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人生100年時代!フェムテックが解決する健康課題

フェムテックはFemale(女性)+Technology(技術)の造語ではあるものの、テクノロジーに限らず、女性が自分自身の体のことを学んで、よりよい方向へ向かうことすべてを内包した言葉です。そして、現在は更年期世代の需要に応じたフェムテック分野の広がりが期待されています。

閉経後も輝く女性のためのフェムテック

「女性特有の課題を解決していくためのフェムテック。これまでは生理、セックス、不妊の3つの問題が大きかったのですが、今は人生100年時代になり、生理のあるうちの健康問題だけがフェムテックではないという意識が広がってきています」(関口さん・以下同)

白衣に紫のカーディガンを羽織った関口由紀さん
フェムテック分野の広がりについて語る関口さん
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更年期のトラブルや、更年期後を指すポスト更年期の問題をどう解決するかというのは、生理、セックス、不妊の3つの問題と比べるとまだ手つかずの面が多いそうです。しかし、需要の増加につれて、治療だけでなく意識やケアについても考え方を変えていこうというのが、フェムテックが今着手していることのひとつだといいます。

体のトラブルだけでなく、精神的な問題も治療で解決

更年期以降は尿もれなどの体のトラブルだけでなく、心の問題も起こります。

「フェムゾーン腟・外陰部・肛門周り)のトラブルだけでなく、性的意欲の低下や、出かける意欲などの外向性の低下も更年期以降に起こる症状の一つです。私のクリニックに訪れる患者さんは女性ホルモンの分泌が急激に減少して起こるGSM(閉経関連尿路生殖器症候群)や、性的な意欲の低下についての問題を抱えているかたが多いです。どちらもクリニックでの治療で解決できることがあります」

医者にかかる女性
気になる症状は、年齢のせいと諦めずに医師に相談してみて(Ph/photo AC)
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日本人女性がGSMに気付きづらい理由

GSMは、特に日本人女性は重症化してから医療機関を訪れる人が多いのだそうです。

性交渉をしていないと気づきにくいGSM

GSMは人種に関係なく女性に発症する疾患ですが、海外と比べて日本人が気づくのが遅いという理由について、関口さんはこんなケースを教えてくれました。

「なぜかというと、GSMは性交渉をしたときの不調や不快感によって気づくことが多いからです。65歳以上の日本人女性で性交渉がある人は15%で、同じ年齢のスペイン人女性の割合は85%だという研究結果があります。それだけ日本人のほうが自覚しづらい状況にあるといえます」

ベッドからはみ出る2人の足裏
65歳以上で性交渉がある人の割合は、スペイン人女性が85%なのに対して、日本人女性は15%ほどだという(Ph/photo AC)
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タブー視をやめてフェムゾーンは自身でチェックを

性交渉をしなくても、自分で外陰部を触れたり、見たりしていれば異変に気づくことができますが、日本には、自分で陰部を触ったり見たりすることに抵抗を感じる女性がいます。「日本の女性はもう少し、自分のフェムゾーン(腟と外陰)の状態に目を向けるべきです」と関口さん。

「日本の女性の一部には、自分の夫と産婦人科医以外は触るものではないという刷り込みを受けている人がいて、タブー視されているんですよね。でもフェムゾーンは自分の体にある自分の“持ち物”なのですから、直接触って状態を知っておくべきなんです」

性的意欲は閉経後もあっていい

性交渉について、年齢を重ねたらなくなるもの、閉経後も意欲があるのはおかしいかも…と思うのも、日本の歴史が作ってきた刷り込みだと関口さんは話します。

白衣に紫のカーディガンを羽織った関口由紀さん
日本の歴史が作ってきた刷り込みが女性に与えている影響について語る関口さん
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自分からパートナーを誘うことも必要

また、更年期を迎えてテストステロン(男性ホルモンの値)が減少し、意欲がなくなることもあります。無理にする必要はありませんが、したいと思うことは年齢に関係なく、おかしなことではないといいます。

「日本では特に、表面上は夫婦ともにセックスをしたくないと言い、婚姻関係を続けているという人が多い。でも、そうはいっても男性はテストステロンが女性の4〜10倍あるので、セックスをしたいという気持ちがあるのが正常です。女性は、パートナーからの刺激がなくてもときどきはしたいと思う人も正常ですし、普段はしたいとはまったく思わないのも正常です。

だから、男性から『したい』と言われて応えることは、いくつになっても正常なことで、安心していいんです。しかし中高年になると体調で、男女ともしたい時としたくない時があります。もしパートナーに一度拒否されたとしても、2~3か月に一度くらいは『そろそろしない?』と言ってみましょう。時間が経てばパートナーの気持ちが変わることもありますし、言ってみないと始まりません。言わないでずっと離れたままで、もうしないということが、一番よくないことです」もちろん、しばらくしたくなくても、したいと思った時は、女性のほうから誘うことも必要です。

背中合わせでベッドに寝る男女
パートナーとのコミュニケーションを振り返ってみて(Ph/photo AC)
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意欲の低下には医療やグッズなどで解決を

性欲が落ちている女性は、テストステロンが減少していることが多いそうです。意欲が湧かないことに問題を感じているのであれば、テストステロンの投与治療で回復する可能性が高いと関口さんは話します。また、性交痛により性交渉を避けている人にも解決の糸口があるのだとか。

「性交痛があって性交渉ができずにいる人は、無理にするのではなく、痛みの緩和につながるグッズを利用してもいいと思います。痛いのを我慢して無理やり性交渉をしていると、だんだんとしたくなくなってきますよね。だからこそ、きちんと性交痛を直してから性欲に関する治療をしないと、性的意欲は上がりません。まず痛みがなくなるのを前提として、意欲を上げたいという人は、それから治療の相談をしてみましょう」

◆教えてくれたのは:一般社団法人日本フェムテック協会代表理事・関口由紀さん

一般社団法人日本フェムテック協会で代表理事をつとめる医師の関口由紀さん(アタリデータ)
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女性医療クリニックLUNAグループ理事長、(株)フェムゾーンラボ社長、女性泌尿器科医師、医学博士、経営学修士、横浜市立大学客員教授、日本泌尿器科学会専門医、日本東洋医学会専門医、日本性機能学会専門医、日本排尿機能学会専門医。2006年に横浜元町女性医療クリニック・LUNAを開業。2022年に女性のためのインターネットサイト「フェムゾーンラボ」を開設し、『女性のからだの不調の治し方』(徳間書店)など著書も多数。www.luna-clinic.jp

撮影/小山志麻 取材・文/イワイユウ

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