年齢を重ねるにつれて、食事を楽しめなくなったと感じている場合、もしかすると味覚障害によって味の感じ方が変わっている可能性があります。味覚障害は、加齢だけでなく栄養不足による影響も考えられます。日々の食事を楽しむために、味覚障害の原因や予防につながる食材、漢方薬を薬剤師の山形ゆかりさんに教えてもらいました。
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味覚障害の原因
味覚障害(味覚変化)になると、味を感じづらくなる、濃く感じる、本来のものと違う味に感じるなどの症状が現れます。また、口に何も入れていないのに味を感じたり、何を食べてもおいしくないと感じたりすることも味覚障害の症状といえます。
味覚障害は食事の楽しみが損なわれ、食欲の減退による栄養不足の原因にもなるため、気になる症状がある場合は、早めに対処しましょう。
加齢による変化
食べ物に含まれる味の物質が舌にある味覚センサーの味蕾(みらい)に運ばれ、その情報が脳へ送られて味として認識するという、口と神経と脳の連携プレーによって、人は味を感じます。
味蕾の機能や数、味の物質を運ぶための唾液の分泌機能、脳へ信号を送るための神経機能なども、加齢の影響で老化します。それによって機能が低下することで、味を感じにくくなる可能性があります。
口腔内の環境や全身疾患の影響
口内炎など口腔内が荒れたり炎症が起きたり口腔内の環境が悪化することも、味蕾の働きが低下する一因です。また、義歯の使用で咀嚼回数が減り、唾液の分泌量が低下したり、口呼吸によって乾燥したりすると、口腔内の粘膜が傷みやすくなり、味蕾が味を感じる物質がスムーズに届かなくなります。
亜鉛不足
亜鉛は味蕾の新陳代謝に欠かせない栄養素で、不足すると味蕾の数の減少や機能の低下、神経障害が発生する可能性があります。
糖尿病や腎不全などの全身疾患があると、味蕾の健康を保つのに欠かせない亜鉛の尿中排出量が増えたり、血中亜鉛濃度が低下したりすることがあります。また、亜鉛の吸収を阻害する薬を服薬している場合に、副作用で味覚障害を訴える人も少なくありません。
味覚障害の予防・改善方法
味覚障害の治療は、ほかの疾患や薬の影響がある場合をのぞいて、亜鉛の摂取が中心となります。亜鉛を摂取することで、加齢や全身疾患などの影響で機能が低下した味蕾の新陳代謝を促すことで、味を感じやすくなります。
亜鉛を多く含む食材を献立に取り入れたり、亜鉛の吸収を阻害する食物繊維や添加物を含む加工食品を多くとり過ぎないように注意しましょう。また、亜鉛を効率的に吸収できるように、胃腸機能を整えることも重要です。
胃腸障害や口腔内の異常など何らかの理由で食事から十分な亜鉛が摂れない場合は、サプリメントや亜鉛製剤から摂取する方法もあります。商品によって有効成分の含有量や吸収率など違いがあるので、専門家に相談してから使用するようにしましょう。
味覚障害を予防する食材
亜鉛を多く含む食品は、かきやしらすなどの魚介類、レバーや豚肩ロースなどの肉類、焼きのりやカットわかめなどの藻類、きな粉や油揚げなど大豆製品、ごまやアーモンドなどの種実類などです。
とくに、かきには100g(約5粒)あたり14.0mg(文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html)と、成人女性が1日に必要とする1.75倍(厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf)の量の亜鉛が含まれています。
亜鉛は吸収率がおよそ30%と低く、そのままでは吸収されづらい栄養素ですが、たんぱく質と一緒に摂ると吸収率が高まることが知られています。亜鉛の摂取を重視する際は、たんぱく質を豊富に含む魚介類や肉類、大豆製品から摂るのが効率的です。また、クエン酸やビタミンCは亜鉛の吸収を促すので、柑橘類や酢類などの食品と合わせることもおすすめします。
日常の食事で亜鉛の過剰摂取になる可能性はほとんどありません。しかし、サプリメントや亜鉛製剤を規定量を上回って摂り続けると吐き気、嘔吐、下痢、頭痛などの症状や、銅の吸収が阻害されることで貧血が起こる可能性があります。
亜鉛の安全な摂取上限値は成人で40mg(厚生労働省「eJIM 亜鉛」https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c03/12.html)とされているため、サプリメントや亜鉛製剤を使用する場合は自己判断はせず、専門家の指導のもと規定量を守り使用しましょう。