
いくら頭で「集中しよう」と思っても、なかなかうまく集中できないということはよくあります。実は集中して物事を進めるには、ポイントがあるそうです。集中力をぐっとアップさせるポイントについて、『自律神経の名医が教える集中力スイッチ』(アスコム)を上梓した順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんに教えてもらいました。
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集中したいときに「早起き」が有効な理由
集中したいときにまず意識すべきポイントは「早起き」です。早起きをし、午前中にきちんと時間を作ることが、集中して物事を進めるためには非常に重要です。
「夜型生活を送っているかたや、朝が苦手なかたには頭の痛い話かもしれませんが、早起きが私たちに与えてくれるメリットは、枚挙にいとまがありません。こと『集中』ということに関していえば、いいことだらけです」(小林さん・以下同)
午前中は集中のゴールデンタイム
人間には「集中力が高まりやすい時間」があります。それが午前中です。9時から10時くらいに仕事を始めるとすれば、そこから昼食までの時間がゴールデンタイム。効率的に物事を進めるのであれば、このゴールデンタイムに集中できる態勢を作るようにしましょう。

「また、ゴールデンタイムが訪れてから『さぁ、何をしようか』と考えたりするのは絶対にNGです。あらかじめ、すべきことを決めておきましょう。前日から計画を立てていても、決して早すぎるということはありません」
集中している人がいるところに身を置くと集中力アップ
集中したいときの2つ目のポイントは、「集中している人がいるところに身を置く」ことです。これは、目の前にいる人に共感する脳の神経細胞である「ミラーニューロン」の効果により、集中している人が近くにいると、自分も集中しやすくなると考えられるためです。
「学生時代に自宅で勉強するよりも、図書館や塾の自習室で勉強をしたほうが集中できたというのも、ミラーニューロン効果かもしれません。つまり、集中したいときには、すでに集中している人のそばで作業をするのがひとつの手段なのです」
シングルタスクで集中する
マルチタスクで一気に作業をこなしていくことができれば理想的ですが、集中して物事を進めたいときには「シングルタスク」がベストです。
「マルチタスクは集中力の低下をまねき、作業効率のアップ、生産性の向上にはつながりません」と小林さん。複数のことを同時に行おうとすればするほど、そしてその時間が長くなればなるほど、集中力は途切れ、生産性は下がってしまいます。

そもそもマルチタスクは、同時に作業をこなしているようでいて、実は脳がものすごいスピードで複数のタスクを瞬時に切り替えているだけ。しかし、その切り替え作業は脳を大きく疲弊させます。
「脳が疲れると、自律神経が乱れます。そして、自律神経が乱れると、集中力や判断力が低下します。結果的に、ミスや物忘れが多くなり、作業効率は落ちます」
適度に休憩を取り入れる
気付いたら集中力が切れ、ダラダラと作業をしてしまっている、という経験は誰でもあるのではないでしょうか。そういうときの対策としては、きちんと休憩を取り入れること。

「あらかじめ、何時に休んで、何時に昼食をとるといった時間割を作って、計画的に仕事を進めるのがよいでしょう」と小林さん。休憩を取り入れる方法として小林さんがすすめるのは「ポモドーロ・テクニック」を活用すること。ポモドーロ・テクニックとは、集中する時間と休憩時間を繰り返すことで仕事のペースを生み出す時間管理術です。
《ポモドーロ・テクニック》
【1】タイマーを25分に設定し、作業を開始する
【2】タイマーがなったら、5分程度の休憩をとる
【3】4~5回に1回は、15~30分の長めの休憩をとる
「ポモドーロ・テクニックは、『今から25分間はこれをやればいい』と時間を区切ってタスクを絞ることで集中することができ、結果、生産性も上がるという時間管理術です。シンプルだからこそ実践しやすく、効果につながりやすいといわれています」
スマホは集中力を低下させる
集中して物事を進めるためには、集中を阻害するものについても知っておく必要があります。特に注意しておくべきものは「スマートフォン」。2019年に大阪産業大学の山本晃輔准教授が発表した研究結果によると、講義中、自由にスマホを使用できる状況下で約10分間の動画を2本流し、視聴後に動画の内容に関して回答を求めるという実験を行ったところ、スマホへの依存傾向が高い学生ほど、「侵入思考(意図に反する望まない思考)」の抑制・制御が難しいことを示唆する結果になったそうです。

「とくに若い世代は、ネットニュースにSNSにソーシャルゲームにと、つねにスマホに視線を送り、さまざまな情報を得ようとしている人が多いです。この『あれもこれも』となってしまう状態が、1つのことに集中する能力を減退させる一因になっていると考えられます」
情報過多でリラックスの時間が減少
スマホの台頭による情報過多な社会では関心ごとが多くなり、つねに情報のアンテナを張っている状況に身を置くことになり、心身ともにリラックスできる時間は少なくなってきているといえます。
「せわしない生活を送っていると、脳が興奮状態から抜け出しづらくなってしまい、結果として自律神経が乱れることになります」
SNS依存が自律神経を乱す
リラックスできる時間が減少する状態に拍車をかけるのがSNS依存です。SNSではネガティブな情報が入ってきやすいうえ、返信内容やタイミングに関する相手への気遣いなどが余計なストレスを生みます。
「自律神経が乱れる最大の要因は、ストレスです。つまり、SNSに依存すればするほど、自律神経は乱れていきます」
集中して物事を進めるためには、集中するためのポイントを押さえることに加え、集中を阻害する大きな要因となってしまうスマホ依存を防ぐことも大切と言えそうです。
◆教えてくれた人:順天堂大学医学部教授・小林弘幸さん

こばやし・ひろゆき。順天堂大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任。「腸のスペシャリスト」として、順天堂大学に日本初の便秘外来を開設。著書に『お医者さんがすすめるバナナの「朝食化」ダイエット』(アスコム)、『医者が考案した「長生きみそ汁」』(同)など。