
ただ跳ぶだけで体重が減り、血圧も下がり、「見た目も若返る」との声もあるなど注目を集めているのが「8秒ジャンプ」。高血圧専門医が考案・実践している、健康寿命延伸とアンチエイジングの扉を開く、この超簡単運動の極意を教えます。
元気に長生きするには血圧を上げないこと!
高血圧専門医の伊賀瀬道也さんが考案した「8秒ジャンプ」は、8秒間に16回ジャンプするだけのシンプルな運動だ。
「私自身、もともとダイエット目的で始めたもので、途中からはジャンプする時間を8秒から1分に延ばして毎日こつこつ続けたら、1年後には体重が10kg減りました。
驚いたのは、遺伝的に高血圧だった私の血圧が150かmmHgら正常値の130 mmHgに下がったこと。ジャンプの思わぬ効果に着目し、高血圧の患者さんにも指導したところ、多くのかたに効果がありました」(伊賀瀬さん・以下同)
日本では心血管系の疾患による死亡者数が死因の第2位(※令和4年(2022)「人口動態統計(確定数)の概況」より)を占めており、高血圧が重要な危険因子の1つであるという。つまり、元気に長生きするには、血圧を上げないことが重要だ。
「これまで血圧が高くなかった女性も、更年期以降は注意が必要です。というのも、女性ホルモンは動脈硬化を防いで血圧を下げる働きがありますが、閉経によって分泌が低下し、血圧が上がりやすくなります」
高血圧を改善するためには、塩分を控えるなど食生活の見直しも大事だが、もっとも効果があるのが運動だという。
「運動をすると、血管が広がって全身の血流がよくなり、さらに血圧を調整する自律神経も整うため、血圧が下がります。
特にウオーキングやジョギングなどの有酸素運動が推奨されていますが、天候に左右されますし、年を重ねると関節に痛みが出たりして難しい人も多いでしょう。
ジャンプは有酸素運動でありながら、足や腹筋、背筋も使うため、筋トレの要素もあり、効率のいい運動なのです」
加えて、日頃から自分の血圧を把握しておくことも重要だ。現在、最高血圧140 mmHg以上、最低血圧90 mmHg以上で「高血圧」と判定されるが、高血圧による疾病リスクが高いこともあり、2019年から「降圧目標値」の設定がより厳しくなっている。

「ちなみに、この降圧目標値は医療機関で測った場合の値。医療機関だと緊張して血圧が上がる人が多いため、家庭内測定の場合は、これより5mmHg引いた数値が目標値となります」
目標値は年齢によっても変わり、たとえば75才未満の家庭内測定での降圧目標値は、最高血圧125mmHg、最低血圧75mmHgとなる。あくまで目標値だが、これを念頭に置きつつ、対策に励みたい。

ジャンプが血管の若返りを促す!
ジャンプでなぜ血圧が下がるのか。伊賀瀬さんは以下のように解説する。
【1】ふくらはぎへの刺激で血行がよくなる
「『第二の心臓』といわれるふくらはぎを動かすことで、血管(動脈)に適度な振動が伝わり、血液の循環がよくなります」
【2】血管を広げる物質が出る
「ジャンプで血管に振動を与えると、一酸化窒素(NO)という物質が出ます。実はこの物質に、血管を広げる働きがあるのです」
【3】肺機能の強化
「8秒ジャンプは息が少しはずむ程度の強度があり、これで心肺機能が強化され、血液を全身に送り出す力が強まります」
【4】血圧を上げる物質を抑制
「近年の研究により、頭が軽く上下に振動する運動(軽いジョギングや早歩き)を行うと、脳内の組織液(細胞間を満たす体液)が動き、血圧を上げるたんぱく質『アンジオテンシン受容体』の発現が抑えられることがわかってきました」(※国立循環器病研究センター、東京大学など13の共同研究グループが2023年に発表。)
8秒ジャンプの効果は、血圧の降下だけではない。たとえば、細胞の隅々に酸素や栄養を運ぶ毛細血管が加齢により消えてしまう「ゴースト血管」は、肌荒れや抜け毛など老化の要因になるといわれているが、ジャンプによってゴースト血管が復活し、血管の若返りを促すという。
「8秒ジャンプは、跳んだときと同じ場所に着地するのがポイントです。その姿勢を維持するため、おのずと腹筋や背筋に力が入り、お腹の引き締めやヒップアップにもつながります」
さらに、着地でかかとに刺激が加わる際、骨をつくるホルモン群が活性化するため、骨の強化にも役立つという。骨粗しょう症リスクが高まる中高年女性にはぴったりだ。
自分のリズムでまずは2週間続けよう
ジャンプを始めるにあたり、いきなり跳んでしまうとひざや足首を痛めたり、転倒してけがをする恐れもある。
「それを防ぐためにも、ジャンプの前に、上記のウオーミングアップで足をほぐしておきましょう。
まず、『8秒1セット』を確実に跳べるまで頑張ってみてください。それができたら休憩を入れながら5セットを目指し、最終的に10セットまでいけると、運動効果がぐんと上がります。
私の場合、休憩なしの『1分ジャンプ』を2か月続けたあたりで体重が2〜3kg減りました。周りからも『やせたね』と言われ、それがモチベーションになって食事にも気をつけるようになり、1年で10kg減が叶いました。
とにかく2週間続けてみてください。何かしら変化を感じるはずです」
跳ぶリズムは、前述の通り1秒間に2回を目安に、8秒間に16回ほど跳ぶことだ。
「テンポよくイチ、ニ、サン、シと数えながら跳びましょう。ヴァン・ヘイレンの『ジャンプ』という曲が、ちょうどこのテンポ。前奏が約1分なので、私はこの前奏に合わせて跳んでいます」[※『ジャンプ』と同程度のテンポの曲(130BPM前後)に『夜に駆ける』(YOASOBI)、『Love me, Love you』(Mrs.GREEN APPLE)などがある]

初めのうちは1秒に1回でも、もっとゆっくりでもOK。自分のペースで、決して無理をしないことだ。
「姿勢を正してまっすぐ跳び、同じ場所に着地するのが重要なので、それが難しい人は、椅子につかまってかかとを上げ下げする運動から始めてみましょう。
逆に、8秒ジャンプが簡単にできた人は、もっと高く跳んでみたり、跳ぶ高さは低いままで1秒間に3回跳んでみたりと、運動強度を上げると、より効果的です。いずれも安全第一で行いましょう」
跳ぶときに呼吸は止めず、体調が悪いときは無理に行わないこと。楽しみながら続けるのがいちばんだ。