
健康のためにやせなくてはいけない。そう思ってはいても、病気や不調になって困るようなことがなければ、なかなか行動に移すことはできないもの。『「内臓脂肪がなかなか減らない!という人でも 勝手に内臓脂肪が落ちていく食事術』(アスコム)の著者で医師の齋藤真理子さんも、そんなひとりだったという。そこで導き出したダイエットを続けられない理由と、齋藤さんが考案した「齋藤式 満腹やせメソッド」について教えてもらった。
医師が実体験から語る「ダイエットが続かない理由」
「健康のためにはやせたほうがいい」と患者にいいながらも、仕事や子育ての忙しさを理由にダイエットを先延ばしにし、やせることができなかったという齋藤さん。なぜダイエットができなくなるのかという理由を書き出してみたり、同じ悩みをもつ人に聞いたりして、まとめたところ、主な理由は5つあった。
・効果が感じられず、モチベーションが続かなかった
・忙しくてできなかった
・やること自体を忘れてしまった
・きつくて続かなかった
・体調を崩した
2か月で6kgの減量に成功した齋藤さんは、上記を踏まえつつ“内臓脂肪が勝手に落ちていく体にする”ことがダイエットを続けるポイントだと語る。
そこで齋藤さんが導き出したのは、これらの条件をクリアした取り組みやすい、続けられる方法であればダイエットに成功できるということ。
「いろいろなダイエット法を試したり、続けられるように工夫したりした結果、『本当にこれはいい』とおすすめできる方法が、見つかりました」(齋藤さん・以下同)
「齋藤式 満腹やせメソッド」のやり方
齋藤さんは、「もちろん、大食いしても、今までどおり何をどれだけ食べてもやせるという夢のようなメソッドではありません」と語るが、「齋藤式 満腹やせメソッド」は挫折しにくく、忙しい人でも簡単に取り組むことができるダイエット法だ。

そのポイントは、満腹を感じながらもやせることができること。そして、やるべきことは3つだけと手軽なことだ。
【1】MCTオイル生活
【2】「満腹フード」を使ってラクに糖質を減らす
【3】「戦略的間食」をとる
これらを実践することで、内臓脂肪を減らすために必要な「脂肪燃焼体質になる」「血糖値を安定させる」という条件をクリアできるのだ。
ケトン体を生成して内臓脂肪を減らす
人間が活動する際にエネルギー源とするのは、糖質(ブドウ糖)と脂肪を分解して作られるケトン体の2つだ。
炭水化物を主食とする食生活では主に糖質がエネルギーとして消費されるが、体内の糖質が不足して飢餓状態におちいると、摂取した脂肪やたんぱく質、または体に蓄えられた脂肪から「ケトン体」という物質が生成され、糖質に代わるエネルギー源として使われる。
「このケトン体をエネルギーにすることを『脂質代謝』といい、糖質ではなくケトン体をエネルギーにできている状態を『脂肪燃焼体質』といいます」
炭水化物を極端に減らしたり、食事の内容を制限したりするダイエットは、短期間で効果が出やすい反面、リバウンドのリスクが高まる。そこで齋藤さんが提案するのが、MCTオイルを1日小さじ1/2程度取り入れること。体調をみて、1週間後に小さじ1/2を2回、3回と増やしていくのがいいそうだ。

「本来であれば、ケトン体はブドウ糖が不足すると、代わりのエネルギーとして肝臓で生産されますが、MCTオイルは分子構造が小さいため体内で素早く消化され、ケトン体を作りやすくすることができます」
ケトン体は、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーを作り出すミトコンドリアを活性化します。ATPが多ければ多いほど、体は活発に動きようになり、基礎代謝が上がる。
つまり、脂質からケトン体が生み出され、ミトコンドリアが活性化すると基礎代謝が上がり、さらに脂肪が燃えやすくなるという好循環が生まれるのだ。
「代謝が上がることが関係するのか、糖質だけを摂ったときよりも、MCTオイルを一緒に食べたほうが、糖質もエネルギーとして早く燃焼され、体脂肪になりにくいという研究結果もあります」
また、ケトン体には満腹中枢を刺激し食欲を抑える効果が期待でき、脂肪燃焼体質になることでイライラを静めるセロトニンを有効的に脳で使えるようになり、ストレス食いの衝動が減るなど、心の安定にもつながるという。
血糖値を安定させ、体脂肪がつくのを防ぐ
MCTオイルには、血糖値を安定させる効果もある。齋藤さんによると、それは「MCTオイルが『インスリン抵抗性』を改善してくれるからだと考えられている」から。
インスリン抵抗性とは、内臓脂肪が増えることによって、糖を脳や筋肉に運ぶというインスリンの働きが悪くなり、血糖値が上昇してしまうこと。必要な場所に届けられなかった血中の糖は脂肪に変換され肥満の原因となるが、インスリン抵抗性が改善されることで、脂肪がつく原因の1つである食後血糖値の急上昇をやわらげる効果も期待できるのだ。
さらに血糖値を安定させることを狙うのが、間食をとることだ。空腹の時間が長く、血糖値が下がった状態で食事をすると血糖値は急上昇しやすくなる。それを防ぐために間食を食べることを、齋藤さんは「戦略的間食」と呼ぶ。

「間食は、食後3〜4時間後にとるのがベスト。このあたりで、エネルギー源となる糖が体内で少なくなり、血糖値が下がった状態になります。ここで間食をとると、エネルギーと栄養補給ができ、血糖値をゆるやかに上昇させることができます」
ポイントは、そのタイミングで一度にとるのではなく、ちょこちょこ食べていくこと。食後3〜4時間後にとったら、そこからは空腹を感じた瞬間に少量を食べていくと血糖値を安定させるのに効果的です。
ちなみに、齋藤さんがおすすめする間食は、スープ(糖質が多くないもの)、茎わかめ(1日15g程度)、ミックスナッツ(1日70g程度まで)、カカオ70%以上の高カカオチョコレート(1日20〜25gまで)、バナナ(1本を1日5回くらいに分けて食べる)。
糖質を減らすのが苦にならない工夫で脂肪燃焼を効率化
とはいえ、糖質をいくらでも食べていいというわけではない。
「糖質はエネルギーに変わりやすくなるとはいえ、大量に摂れば、インスリンによって脂肪へと蓄えられます。つまり、糖質によって、脂肪はどんどん蓄えられ、その脂肪を脂肪燃焼回路が燃やしていくという状態になります」
極端な糖質制限はつらく続きにくく、リバウンドのリスクもある。そこで、齋藤さんは、できるだけ糖質を摂らない食生活をラクに続けられるかが大切だと話す。
そこで取り入れたいのが、「満腹フード」。糖質の多い主食を糖質以外のもので「カサ増し」したり、「置き換え」したりすることで、満足感をアップし、我慢やストレスを減らすことが期待できる。齋藤さんが教える「カサ増しフード」から、「ラク鶏ひき肉ご飯」の作り方を紹介します。

「ラク鶏ひき肉ご飯」の作り方
《材料》(3〜4食分)
米…1合、鶏ひき肉…200g
《作り方》
【1】お米を洗い、水(分量外)をメモリ1合分まで入れる
【2】鶏ひき肉を炊飯器に入れ、通常通りに炊飯する
【3】炊き上がったら、しゃもじで鶏ひき肉と米を混ぜ合わせる
【4】3〜4回分に小分けにする。その日に食べない分は冷凍保存も可能
そのほか、玄米と白米が1:1の玄米ハーフご飯や、サラダチキン、パンを食べるならライ麦パンにするなど、糖質オフを無理なく続けられる自分にあった「満腹フード」を見つけてみよう。
◆教えてくれたのは:医師・齋藤真理子さん

さいとう・まりこ。医療法人社団山本メディカルセンター理事長。医学博士、日本整形外科学科専門医。分子栄養学認定医。昭和大学医学部大学院卒業。2010年に山本メディカルセンターに入職し、皮膚科・形成外科を立ち上げる。その後、2016年に山本メディカルセンター2代目院長に就任する。テレビに多数出演するほか、分子栄養学の観点からカフェレストランのメニューの考案も行う。https://www.tansanmagic-jp.com/adviser/marikosaito.html