健康・医療

《日本人の5〜6人に1人が悩む糖尿病》たったひとつの“根本原因”と対処法 「体重2キロ増」が前兆の可能性も

ハートを描いた角砂糖
予備軍を含めると日本人の5〜6人に1人がかかっているとされる糖尿病(Ph/photoAC)
写真5枚

予備軍を含めると日本人の5〜6人に1人がかかっている糖尿病の前兆はわずかな体重の増加として現れることがあるという。第2回に続いて、全米シリーズ100万部、医学界の定説を覆したと評される医学博士・ジェイソン・ファン氏の著書『糖脂肪』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。【全3回の第3回】

* * *

高血糖──糖が「尿」に混ざる

脂肪は腹部につくだけでなく、本来なら脂肪を蓄積するようにはできていない器官にまで蓄積される。

肝臓や骨格筋が脂肪で肥大するとインスリン抵抗性が大きくなり、膵臓が血糖値を標準レベルに抑えようとインスリンの分泌量を増やしても効果はない。だが、話はここで終わらない。

膵臓が異所性脂肪で詰まると、正常に機能できなくなり、インスリンの分泌量が減る。

脂肪膵になってしまうと、血糖値を下げるためにインスリンの分泌量を増やそうにも増やせなくなり、血糖値が急激に上がって腎閾値を超え、症状が出る。糖が尿に排泄されるようになるのだ。

そして典型的な糖尿病の症状──頻尿、のどの渇き、体重の減少──が現れる。

高血圧──血中のインスリン値が高いとリスク63%増

高血圧はよく“沈黙の殺人者”と呼ばれる。なぜなら、症状は何もないのに、心臓発作や脳卒中を起こしやすくなるからだ。

ほとんどの場合は原因不明なため、特発性高血圧と呼ばれる。だが、高インスリン血症が大きな影響を与えている。

高血圧の患者には血中のインスリン濃度が高い人が多いと最初に研究者が気づいたのは、50年も前のことだ。

それ以降、欧州のインスリン抵抗性研究グループなどにより多くの研究が行われ、高血圧とインスリン濃度には関係があることがわかった。インスリン値が高くなると、それまでは標準的な血圧だった人でも高血圧になるリスクが倍になる。

過去の研究をすべて検証すると、高インスリン血症は高血圧になるリスクを63%も上げると推定できる。

『糖脂肪』(サンマーク出版)より
写真5枚

インスリンが血圧を上げるメカニズムはいくつかある。

インスリンは心拍出量──心臓の収縮力──を増やすとともに、腎臓のナトリウム(塩分)吸収能力を拡大させて、血流を増やす。また、インスリンは抗利尿ホルモンの分泌を促し、体が水分を吸収しやすいようにする。この塩分と水分を吸収するメカニズムによって血流が増え、高血圧となるのだ。

また、インスリンは血管を収縮させ、内部の圧力を高める。

心臓病、脳卒中、アルツハイマー病、そしてがんリスクまで高くなる

メタボリック・シンドロームの診断基準となっている項目のうち──高中性脂肪、低HDL値、中心性肥満、高血糖、高血圧──当てはまるものがひとつ増えるたびに、心臓病、脳卒中、末梢血管疾患、2型糖尿病、アルツハイマー病、がんなど、最近よくみられる代謝性疾患を起こすリスクが高まる。

いくつかの症状を同時に抱えることも多いが、すべての人にすべての症状が現れるわけではない。ある人は中性脂肪値が低いかもしれないし、ある人はインスリン抵抗性があって高血糖になるかもしれない、またある人は高血圧になるかもしれない。

だが、このなかのひとつの症状があれば、そのほかの症状が出る可能性は高くなる。なぜなら、根本原因はすべて同じだからだ。

「体重2キロ増」が前兆の可能性も

よくある例は、体重がわずか2キロ増えただけなのに、それが高インスリン血症やインスリン抵抗性といった異常を表す兆候だったというもので、そのうちにHDL値が下がったりすることがある。

体重計に乗ろうとしている女性の足元
「体重2キロ増」が前兆の可能性も(Ph/イメージマート)
写真5枚

その後、ほぼ同時期に高血圧や脂肪肝になり、中性脂肪値が上がったりする。

たいてい最後に現れる症状は高血糖で、2型糖尿病と診断されることになる。

スコットランドの西部で行われた冠動脈疾患の予防研究では、2型糖尿病と診断される前に、脂肪肝と中性脂肪の増加が認められるとされた。

脂肪肝は、メタボリック・シンドロームの初期にみられる。メタボリック・シンドロームの患者のほぼ全員に脂肪肝がみとめられる。脂肪肝があってメタボリック・シンドロームでない人は、ごく少数だ(図9-4参照)。

インスリン抵抗性と2型糖尿病がメタボリック・シンドロームを引き起こすことがないのは、それがメタボリック・シンドロームのひとつの症状だからだ。

メタボを引き起こすのは高インスリン血症である。この問題の元凶はフルクトースとグルコースの過剰摂取による高インスリン血症だが、特に問題なのはフルクトースのほうだ。

肥満や2型糖尿病といった症状を含むメタボリック・シンドロームは、お察しのとおり、糖を摂りすぎることが原因である。

「体重が増えないのにメタボ」という事例

肥満、インスリン抵抗性、膵臓のβ細胞の機能障害は、すべて防御機能が働いた結果、現れる症状だ。

肝臓に負担がかからないように、新しく作られる脂肪を脂肪細胞に取りこむ結果、肥満になる。

極めて稀だが、先天性の「リポジストロフィー」といって、脂肪細胞が欠損している疾患の患者をみればそれは明らかで、彼らは体重が増えないのに、メタボリック・シンドロームの症状──脂肪肝、高中性脂肪値、高いインスリン抵抗性──がある。

リポジストロフィーと同じ状態にしたネズミの場合、脂肪細胞のないネズミに脂肪細胞を移植し戻したところ、メタボリック・シンドロームが完全に治ったという。

脂肪細胞はメタボリック・シンドロームを引き起こすのではなく、メタボリック・シンドロームから体を防御しようとしているのだ。

「体重が増えないのにメタボ」という事例も(Ph/photoAC)
写真5枚

なぜそうといえるのか。脂肪細胞がなければ、脂肪は器官の中に蓄積されるしかなくなり、それがメタボを引き起こす。脂肪が脂肪細胞の中に蓄積されれば、代謝の異常は起きない。

つまり、肥満とは、高インスリン血症やインスリン抵抗性の根本原因から身を守る防御策の第一段階なのである。

同じように、インスリン抵抗性は、器官の内部に脂肪をためこまないように、脂肪が入ってくるのを体が防ごうとするから起こるのである。

肝臓は新たなグルコースが入ってくるのを拒む。なぜなら肝臓はすでにグルコースでいっぱいだからだ。それがインスリン抵抗性というかたちになって現れるわけで、これは防御策の第二段階である。

最後に「糖尿病」と診断される

最後の防御策は、膵臓がインスリンの製造をやめてしまうことだ。すると、血糖値が急激に上がって腎閾値を超え、糖尿病の典型的な症状が現れる。

だが、そのおかげで、体に害をもたらすほどの過剰なグルコースが体から安全に排出され、それ以上に代謝の異常が起こらないようになるわけだ。こうして、体は過剰なグルコースと過剰なインスリンという根本原因に対処するが、その代償として現れるのが糖尿病の症状なのである。

問題の本質は過剰な糖であり、体は必死でそれを尿に排出しているにすぎない。

私たちが問題だと考えている症状のすべて──肥満、インスリン抵抗性、膵臓のβ細胞の機能不全──は、じつは、たったひとつの根本原因「過剰な糖」に対して体が行っている対処法なのである。

根本原因がわかったのだから、この問題の解決法──そして2型糖尿病の解決法──は明らかだろう。

「糖の摂取を避け、インスリン値を下げること」だ。

糖の過剰摂取の問題、インスリンの分泌が多すぎる問題、異所性脂肪の問題を解決しないかぎり、この問題は大きくなりつづける。逆にいえば、根本原因に正しく対処さえすれば、2型糖尿病もメタボリック・シンドロームも、元に戻すことが可能である。

(了。第1回から読む)

◆教えてくれたのは:医学博士・ジェイソン・ファン(Jason Fung)さん

医学博士・ジェイソン・ファン(Jason Fung)さん(Ph:Macdonell Photograph)
写真5枚

医学博士。減量と2型糖尿病の治療にファスティングを取り入れた第一人者。その取り組みは『アトランティック』誌、『フォーブス』誌、『デイリー・メール』紙、「FOXニュース」などでも取り上げられた。ベストセラー『The Obesity Code』(『トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ』サンマーク出版)の著者。カナダ・オンタリオ州のトロントに在住。

●更年期の不調?症状が似ているので注意!「微小血管狭心症」の原因、予防法を解説

●42℃以上のお風呂はNG!寒暖差疲労を予防するカギは自律神経「部屋の温度」「入浴」「食事」で整える方法