
犬は毎年およそ10頭に1頭が、目の病気で病院にかかるといいます。犬種別にはシー・ズーやマルチーズ、パグなどが眼病を患いやすい傾向があるのだとか。犬がかかりやすい目の病気について、治療や予防の方法、病状が進んだときの飼い方などを、獣医師の内山莉音さんに教えていただきました。
犬に多いのは結膜炎
犬は7~8歳頃から目の病気にかかりやすくなり、10歳を超えると15%程度が動物病院を受診します。犬の目が充血していたり、目やにがたくさん出ていたり、目がかゆそうにしていたりするときは、目の病気にかかっているかもしれません。そのような場合は早めに動物病院に連れて行くことが大切ですが、どんな病気にかかりやすいのか、知っておいて心づもりをしておきたいものです。
内山さんによれば、「犬に多いのは結膜炎です」とのこと。
「白目のところを覆う半透明の膜を結膜といいます。まぶたの裏側で折り返して白目を覆い、黒目のふちまで続いています。この結膜に炎症が起きるのが結膜炎です。炎症は片目にだけ出ることもあれば、両目に起きることもあります。症状としては、白目が赤く充血したり、目やにや涙が出たりします。目がゴロゴロしたりかゆくなったりするので、犬自身が目を気にするような様子が見られることも多いです」(内山さん・以下同)

原因はウイルス感染や細菌感染、アレルギーなど、さまざまです。目を傷つけてしまったり、目に異物が入ったりして発症することもあります。また、他の目の病気に続いて起きる場合もあります。
「抗生剤や消炎剤などを含む点眼薬を使って治療します。また、原因によって内服薬や注射なども併用することがあります」
シニア犬は白内障のリスクが高い
結膜炎に次いで、犬に多い目の病気は、白内障だといいます。
「人間でも高齢者に多いのでご存じかもしれませんが、目の中にはカメラのレンズの役割を果たす水晶体という透明な器官があります。これが白く濁ってしまうのが白内障です。遺伝的な素因などがあって若くして発症する犬もいますが、多いのは加齢によって発症する老年性白内障です」
白内障が進行すると、水晶体がより白く濁って目が見えにくくなります。
「目が見えにくくなると、行動にも変化が出ます。柱や壁にぶつかったり、段差でつまずいたりしやすくなり、犬もそれが分かるので階段や暗所を嫌うようになったり、物音に過敏になったりします」
一度、白くなると元に戻ることはなく、数か月から数年かけて混濁の範囲が広がっていき、やがて目が見えなくなります。
根治は難しいけど、QOLを維持する道はある
混濁が不可逆的だという白内障は、どのように治療するものなのでしょうか。
「基本的には、点眼薬などを使って病気の進行を遅らせたり、症状を緩和したりすることになります。水晶体を取り除いて眼内レンズを入れるなどの外科手術をすればよくなる可能性がありますが、手技の難度が高く、できる病院は限られてきます。犬の白内障を積極的に治療するかは、病院の先生と相談するのがよいでしょう
命にかかわる病気ではなくとも、愛犬の目が見えなくなるのは飼い主さんにとってもショックなことです。
「そうですよね。ただ、犬はもともと人間ほど視覚に頼って生活していないので、目が見えなくなっても、これまでと同様の生活を送ることはできます。耳や鼻がいいですし、空間を認識する力もあります。飼い主さんは、環境を変えないように気を付けてあげてください。部屋の模様替えをしないで、目が見えていた頃と同じ状態にしておくとか、お散歩のコースも歩きなれたいつものコースにするとかいったことです」
早く発見して投薬を始めれば、病気の進行を遅らせられる
また、予防の方法はないものの、早く発見して投薬を始めれば、病気の進行を遅らせることができます。

「定期的な健康診断を欠かさないことが大切です。それから、黒目のところが白く濁っていないか、夕方になって周囲が薄暗くなると動きたがらなくなるとか、ものにぶつかるとか、視覚障害が起きている様子がないか、気をつけておくといいですね」
なお、同じく目が白くなる病気に核硬化症があります。加齢に伴って、水晶体の核が中心に向かって縮まって硬くなり、外から見ると黒目が白くなったように見えます。
「これもやはり元に戻すことはできないのですが、核硬化症だけでは視覚に影響はありません。白内障の併発がないか、注意して経過を見守りましょう」
どこかに目をぶつけて角膜炎になることも
内山さんが獣医師として患畜を診ているなかでは、白内障と並んで多いのが、外傷性の角膜炎だといいます。結膜炎と角膜炎は年齢による偏りなく、若い犬でも発症します。
「角膜は黒目のところを覆っている透明な膜です。この角膜が傷ついて、目が痛くて開けられなかったり、涙や目やにがたくさん出たりするのが角膜炎。ひどくなると角膜が白く濁ったり、正常な角膜にはない血管が生じたりします。角膜は複数の層でできていますが、深い層まで侵されると角膜潰瘍と呼ばれ、痛みも強くなります」
外傷性の角膜炎は、ペット同士のケンカや、どこかに目をぶつけてしまうことなどで起こります。

「顔がかゆくて机の角に顔をこすりつけていたら、誤って角が目に入ってしまうようなことが結構ありますね。シャンプーをしてドライヤーで毛を乾かしたあとなどは、目の表面も乾燥しているので、余計に傷つきやすかったりします。私は犬種ごとの発症率に偏りがあるようには感じないのですが、いわゆる短頭種は目が大きかったり出っぱりぎみだったりする分、目のケガが多いという見解もあるようです」
治療は結膜炎とほとんど同じで、目をきれいに洗浄し、点眼薬を使います。原因によって内服薬や注射を併用するのも同じです。
「重症の場合は目を保護するコンタクトを装着したり、外科的手術を施したりすることもあります」
目薬は後ろから手を回して滴下
結膜炎、白内障、角膜炎のいずれにしても、治療に点眼薬は欠かせません。動物病院で点眼してもらうときはいいとして、自宅療養中に飼い主さんが愛犬の目に薬を滴下するときは、どうするとうまくいくでしょうか。
「自宅でも点眼薬をしばらく続けることになるので、飼い主さんは頑張りどころですね。まず目薬を持っていることを犬に悟られないようにして近づいてください。目薬の容器は先端が出っぱっているので、それが目の前にいきなり出てくると犬にとっては恐怖です。後ろから手を回してさしてあげてください。
小型犬なら膝の上に抱っこして、お顔を押さえて頭の上から滴下しますね。飼い主さんは後ろに回って手だけそっと目の上へ。この辺りの細かい動きは動物病院さんなどでアップされている動画を参考にするといいと思います」
目薬をさすときは褒めることが重要
目薬をさすときに、さす動きと同じぐらい重要なのが、褒めることだといいます。
「目薬をさしたあとはひたすら褒めてください。おやつを使いましょう。両目の場合は右目にさしたらおやつ&褒め、それから左目にいって、そのあとまたおやつ&褒め。続けざまに点眼しないで、犬にとってうれしいことでサンドしてください。次にさすときの抵抗感が違ってくるはずです」
◆教えてくれたのは:獣医師・内山莉音さん

獣医師。日本獣医生命科学大学卒業(獣医内科学研究室)。動物病院を経て、アニコム損害保険(株)に勤務。現在もアニコムグループの動物病院で臨床に携わる。
取材・文/赤坂麻実