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一般的になった「犬のサプリメント」、どんなときに与えるべき? 獣医師が解説

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一般的になった「犬のサプリメント」、どんなときに与えるべき?(Ph/イメージマート)
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犬を飼っていると、医療費と並んで最もお金がかかるのがフード・おやつ代です。同時に、近年では栄養補助として、犬用のサプリメントを購入する飼い主さんも増えています。サプリはどんなときに与えるべきなのでしょうか。獣医師の山本昌彦さんに話を聞きました。

犬にかけるお金、フード・おやつ代やサプリ代を中心に増加

犬を飼う人が愛犬にかけるコストは、年々増加する傾向にあります。ペット保険会社のアニコム損害保険が保険加入者を対象に調査したところ、2022年は飼い主が犬1頭に対して1年間にかける費用の平均は約35万7000円でした。2012年の約33万7000円から増えています。

2022年はコロナ禍のためか、ペットホテル・ペットシッター代が2012年より減っているので、他の項目が大きく増えたことになります。特に顕著なのがフード・おやつ代で、10年間で約4万6000円から約6万6000円に増加しました。愛犬のQOL向上のために、より良質なフードを求めたり、フードの種類を増やしたりする飼い主さんが多いのだそうです。

サプリメント代に関しては、2022年は約1万1000円です。フード代は大型犬の方が多くかかりますが、サプリ代は体格による金額差はそう大きくありません。体格に関わらず、広く使われているようです。

サプリは予防ではなく治療中の補助に使って

山本さんによると、犬の飼育においてサプリメントは決して必須ではないけれど、病気やケガの治療中はもちろん、健康な状態であってもサプリを与えることが効果的なケースもあるといいます。

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治療中の補助に(Ph/イメージマート)
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「市販されている一般的なペットフードは、ほとんどが栄養バランスの取れたものなので、基本的にはパッケージに表示されている通りの量を与えていれば、サプリメントは与えなくていいでしょう。ただ、病気の治療中で特に必要となる栄養素を、サプリで補うことは有効な手段の一つです。また今は健康な状態であっても、犬種的に『皮膚疾患になりやすい』『関節炎などの疾患のリスクがある』などの場合には、サプリメントを活用した予防につなげることもできます。

動物病院でサプリを処方することもあります」(山本昌彦さん・以下同)

例えば、皮膚炎を発症している犬やアトピー性皮膚炎の素因がある犬に、皮膚疾患に有効だとされているオメガ3脂肪酸を含んだサプリを与えるといった使い方は一般的になってきました。

「漠然と健康維持のためにサプリを常用すべきとは、私は思いません。慢性疾患がある犬なら、それに抗する物質を補給する意味でサプリを常用する例もあると思いますが、基本的には、特定の疾患で不足しがちな栄養素を補うという明確な目的で、一時的に使うものだと捉えてください」

フードで重視すべきは炭水化物・たんぱく質・脂質

人間の場合には、例えば日本人の普段の食生活ではビタミンやカルシウムが不足しがちで、塩分を過剰摂取しがちであることが統計で明らかになっていますが、犬には「不足しがちな栄養素」「過剰に摂りがちな栄養素」というものはないのでしょうか。

「犬は、人間のように好きなものを自分で選んで食べているわけではないので、飼い主さんがバランスの取れたフードを与えている限りは、栄養バランスが極端に偏るようなことはないはずです。ただし、市販のペットフードも各栄養素の含有量は商品ごとに異なると思うので、気になる場合は成分表を確認してみてください」

成分表を確認するときのポイント

成分表を確認するときのポイントは、炭水化物、たんぱく質、脂質の3大栄養素だといいます。

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成分表を確認するときのポイントは炭水化物、たんぱく質、脂質(Ph/イメージマート)
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「基本をおさらいしておくと、犬に必要な5大栄養素は炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルです。食物繊維も入れて6大栄養素と呼ぶこともあります。中でも重要なのが炭水化物、たんぱく質、脂質で、この3つは犬の生命や健康の維持と直結しています。

炭水化物に含まれる糖質が脳や神経組織のエネルギー源になります。『犬には肉(たんぱく質)が大事で、炭水化物は必要ない』というのは誤解です。3大栄養素だけの比率では、炭水化物60%、たんぱく質25%、脂質15%が犬の摂取量として理想的なバランスです。

たんぱく質は、血液、筋肉、各種臓器を構成する成分です。たんぱく質が不足すると、ホルモンや免疫にもネガティブな影響が出て、被毛の質が悪くなったり、筋力が低下したりします。脂質も体温の維持や臓器の保護、細胞膜の生成という重要な役割を果たします。皮膚や被毛の健康維持にも大切です」

おやつはあげすぎると塩分の過剰摂取に

健康な犬の食事は、総合栄養食(一般的なペットフード)を適量与えること、年齢に合わせたものを与えることが一番のポイントであり、加えて、塩分の過剰摂取を控えることも大切だと山本さんは言います。

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年齢に合わせたものを与えることが一番のポイント(Ph/イメージマート)
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「塩分摂取量が多い状態が続くと、高血圧になったり、心臓疾患のリスクが高まったり、腎機能が低下したりします。総合栄養食のドッグフードを決まった分量をあげていれば問題ないはずですが、おやつのあげすぎに気を付けてください。おやつは少量にするか、市販品ではなく、おいもなど塩分を含まないものに変えると安心ですね」

病気をわずらった場合には普段の食事を療法食に切り替えも

また、愛犬が病気をわずらった場合には、普段の食事を療法食に切り替えると、病気の治りが早くなったり、病気の進行を食い止めたりできる可能性があります。

「療法食とは、特定の病気の治療のために栄養バランスを調整した食事のことです。例えば、腎臓疾患の療法食であれば腎臓に影響が出るようなたんぱく質やリンの含有量が減らしてあったり、心臓疾患の療法食ならナトリウムを減らしてあったりします。皮膚疾患などでも獣医師が療法食を勧めることがあります」

やはり、普段も治療時もフードは犬の体づくり、健康づくりの基本といえそうです。

「サプリメントは目的食、栄養補完食などとも呼ばれますが、フードとサプリではここまで説明したように、役割が異なります。サプリに依存することなく、基本的にはフードから必要な栄養素をバランスよく摂取することが望ましいですね」

◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師・山本昌彦さん
獣医師・山本昌彦さん
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獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/

取材・文/赤坂麻実

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