盛り上がる会話。そうさせているのは、よく話す人かと思いきや、実はそうではなかった──。齋藤孝さんが40年にわたって続けてきたコミュニケーション講義のエッセンスを紹介した『「考えすぎて言葉が出ない」がなくなる』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
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人間関係をつくるのに、「話し上手」である必要はあるか
会話というものは、片方が口下手であっても、もう片方が話し上手であればちゃんと成り立ちます。むしろ、お互いが盛んにしゃべり合っている図式より、片方が話していて、もう片方が聞いているほうが、見ていていい雰囲気だったりもします。
会話では、両方が話し上手でなくてもかまわないのです。
たとえば、テレビを見れば、タレントの人たちがスタジオで盛り上がっています。あれはなぜ面白くなっているのだと思いますか?
それは、「話す側」ではなく「受ける側」がうまい、ということも多いのです。トークの内容がそこまで面白くなくても、受ける側がうまければ、面白い番組として成り立ちます。タレントには「話すプロ」はもちろん、「受けるプロ」がいるのです。
コミュニケーション力を構成する要素には「話し上手」と「聞き上手」の二つがあります。
この二つを比べたとき、コミュニケーション力が高いと考えられるのは「聞き上手」のほうです。
なぜなら、話してばかりいるのは、実は自己中心的な行為だからです。
どんな話題についても途中から口をはさんで、最後は全部自分の話に持っていく人がいます。そういう人は、自分の話を展開することで相手の話を妨げ、本来平等なはずの時間を奪っています。さらに悪いことに、そんなことをする人は相手に迷惑をかけていることに気づいていません。
意外に思うかもしれませんが、コミュニケーションを主導するのは、話し手のほうではなく、聞き手のほうです。
話し上手は、コミュニケーションを支配しているだけ。決して場を主導しているわけではないのです。相手の話にきちんとリアクションをして、話がしやすい雰囲気になるよう場をリードしているのは、実は「聞き手」のほうなのです。
相手が「気持ちよく話せた」と思うかどうか
あなたが「また会いたい」と思った人はどのような人だったか。これまでの自分の経験をもとに考えてみましょう。
たとえばその人は、あなたの話をにこやかにほほえんで聞いていたり、よく反応していたり、手を叩いて豪快に笑ったりしていたのではないでしょうか。そうです。気持ちよく話ができたのは、相手が、面白そうに話を聞いてくれたからなのです。
私には、中学時代から長く続いている友人がいます。その友人は、私の話に「だよね」「すごいね」と、とても上手に受け答えしてくれるのです。そのおかげで私は気持ちよく話すことができます。つい私のほうがたくさん話してしまって申し訳ないのですが、そういう会話のスタイル、会話の型が、二人の間に成立しています。
話をする側からみれば「そうではない。自分の話が面白かったから相手が喜んだのだ」と思うかもしれませんが、それでも相手の反応がよかったからこそ、話しやすい面はあったのではないでしょうか。いくら話が面白くても相手の反応が今ひとつだったら、話すほうもそれほど気分が盛り上がらないでしょう。
人は、面白そうに話を聞いてくれる人に対して「よい話ができたな」と感じ、「また次に会いたいな」という思いを抱くのです。
当時どんな番組からもひっぱりだこであったあるアナウンサーの方と、仕事でお話をさせていただいたことがありますが、上手にリアクションをしてくれるので、自分がものすごく面白い話をしている気になるのです。これこそプロ中のプロの仕事だなと思いました。
そうした人とは誰もが一緒に仕事をしたいと思いますし、場が明るくなります。
話し上手かどうかということは、コミュニケーションにおいてはそこまで重要な要件ではないのです。それよりも、楽しい時間を過ごせるコミュニケーションのとり方ができるかどうかが、大事なのです。
たとえ相手の話が面白くなくても、リアクションは面白く。
これが今の時代の一番のやさしさではないでしょうか?
◆教えてくれたのは:明治大学文学部教授・齋藤孝さん
1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て現職。『身体感覚を取り戻す』(NHK出版)で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』(毎日出版文化賞特別賞、2002年新語・流行語大賞ベスト10、草思社)がシリーズ260万部のベストセラーになり日本語ブームをつくった。著書に『いつも「話が浅い」人、なぜか「話が深い」人』(詩想社)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)、『話がうまい人の頭の中』(リベラル新書)等多数。著者累計発行部数は、1000万部を超える。テレビ出演多数。