会話を盛り上げていくうえで必要なことの一つが、相手へ的確な質問をすること。相手が何を話したいかということを押さえながら話すのがポイントだ。
齋藤孝さんが40年にわたって続けてきたコミュニケーション講義のエッセンスを紹介した『「考えすぎて言葉が出ない」がなくなる』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
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質問力=「聞きたいことを聞く」のではない
日本と外国の両方の学会に出て気づいたのですが、日本では、発表後の質疑応答の時間にほとんど質問が出ないのに対して、外国の人はどんどん質問してきます。日本人よりも外国人のほうが、質問をしようとする意欲を持っているように感じます。
外国では、質問をすることは「あなたの話を聞きましたよ」という意識もあるようです。相手の意見に質問で返す。これがマナーというわけです。
要は、質問をするということが、聞いたということの証(あかし)なんですね。相手の話を的確に聞いて、ちゃんとした質問ができるかどうか。これがコミュニケーションの基本です。
「聞きづらいことを聞く」のが質問力ではない
では、どんな質問が好まれるのでしょうか。
「質問力がある」というと、誰もが聞きづらいことを、周囲の反応を気にせずにズバズバと投げかけることができる猛者がそれだ、と思う人もいるかもしれませんね。
ですが、それは正しくありません。たとえば、「年収はどれくらいですか」というような「答えること自体がデメリットになる質問」があるからです。
そのような質問をしてしまうのは、質問力の熟練度でいうならば「子どもレベル」です。子どもは、周囲のことなど気にせずに「ねえねえ結婚してるの」とか「おじさん今いくら持ってるの」などと、無邪気に質問してきます。子どもならばかわいいなと苦笑交じりに対処もできますが、大人がこれをやっても、かわいくも何ともありません。
優秀なインタビュアーがやっていること
優秀なインタビュアーは、「その人が何を話したがっているのか」を感じ取るセンサーを持っています。
「相手が話したいことは、ここだろうな」
「ここが本質的な話だな」
という部分を探り当てることが「質問力」の本質なのです。
スポーツ中継などでは、現在も時折、「今のお気持ちを!」と聞くインタビュアーがいます。それを聞きたいのはもっともなのですが、その答えは大抵「嬉しいです」「最高です」といった紋切り型のものになってしまいます。
そして、「今後について一言を!」と聞くと、また大抵「次、頑張りますので応援よろしくお願いします」となってしまう。
これは、聞くほうも聞くほうなら、答えるほうも答えるほうです。「もしかしたら人前でのインタビューに慣れていないのかな?」と思うこともあります。
それよりも、その人の今までの経験を踏まえて質問をしたらどうなるでしょうか。たとえば、ずっとベンチを温めてきた選手が、大事な場面で起用され、チームの逆転優勝に貢献したとします。
そのとき、「何年間か悔しい思いもしてきたと思いますが、今日のお気持ちはいかがですか?」と聞けば、それまで大変だった思いも踏まえて語ってくれるでしょうし、そうした選手のドラマはファンも聞きたいところでしょう。
理想的な質問とは、相手がそれを話したいと思っている話題を聞くことです。
もし、その場に第三者がいたり、それを報道するような場合は、「相手が話したいこと」に加え、「ほかの人も関心があること」という条件も加わります。
それを瞬時に擦り合わせて、「これを聞いたらどうなるかな」と判断する。それが大人の質問です。