【実例4】金品の要求
ラーメン店で、注文した料理に虫が入っていたと騒ぎ出した客。すぐ作り直してもらったのに、「それだけで済むと思ってんの! 誠意を見せろ!!」と金品を要求してきた。
村嵜さん:料理への異物混入の場合、料理の作り直し以上の補償を求めるのは、過剰請求のカスハラ。ただし、異物を食べて体調が悪くなったなどの異変に因果関係がある場合は、慰謝料などを請求しても問題ありません。根拠となる病院の診断書などの有無が、大きな分かれ目になります。
津田さん:たとえば、店員が給仕時に誤って汚した服のクリーニング代を請求するのは正当なクレームですが、通常、それに要した交通費まで支払う義務は店側にはありません。また、自宅へ謝罪に行く際、菓子折を持参する必要があるかないかは、組織側に非があるのかカスハラかにもよるでしょう。
【実例5】暴力行為
台風で列車が遅延。駅員の名札を見て、「この程度の台風で運行中止か。仕事に遅れたら◯◯さんは、どう補償してくれるの?」と乗客が胸ぐらを掴んできた。
村嵜さん:列車や飛行機などの遅延で、乗客が駅員や空港職員に詰め寄る場面をニュースなどでよく見ますが、胸ぐらを掴む、殴りかかるなどの行為は暴行罪や傷害罪にあたり、カスハラ行為とも見なされます。さらに、発言にも問題があります。
「◯◯さんは、どう補償してくれるの?」と言うのは、補償の要求になるのでNGです。最近は名札から個人を特定し、SNSなどで誹謗中傷を投稿するケースも増加しています。そのため、公共交通機関などでは、名札の表記をフルネームから名字だけに変える動きもあります。
津田さん:名札を見るのは問題ありませんが、名指しで非難するのはやめましょう。
【実例6】土下座の強要
チェックイン時間より早く旅館に到着した客が、時間まで待つように言われて激高。旅館スタッフが丁寧に言葉を尽くして説明したにもかかわらず受け入れず、土下座を強要した。
津田さん:土下座をさせると強要罪になる可能性が高い。そもそも強要罪とは、義務のないことを暴行や脅迫によって行わせる犯罪です。相手が拒否しているにもかかわらず、繰り返し土下座を強要するのはもってのほか、といえるでしょう。
また、昨年12月の改正旅館業法でカスハラを行った客を宿泊拒否できるようになっているので、警察に通報されることも考えられます。
村嵜さん:旅館に入れなかったことでクレームをつけることが、そもそもNG行為です。まずは、早めに到着したことを旅館側に説明し、その上で早めにチェックインできないか交渉するのが正しい話の運び方です。
◆教えてくれたのは:
津田卓也さん/クレーム研修専門家。セミナー&研修会社キューブルーツ代表。近著に『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(あさ出版)。
村嵜要さん/ハラスメント専門家。日本ハラスメント協会代表理事。さまざまなハラスメントについての研修のほか、テレビや新聞などでも解説。
取材・文/北武司 イラスト/たまだまさお
※女性セブン2024年8月1日号