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【カスハラ実例集】「いきなり“店長を呼べ”」「個人情報を聞き出す」はアウト 土下座をさせたら強要罪となる可能性も

苦情電話で長時間拘束するのはカスハラに(Ph/イメージマート)
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飲食店や小売店、交通機関などでの利用客による過剰なクレーム、さらには市役所などの利用者による理不尽な振る舞いなど、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)が社会問題化している。具体的にはどのような行為がカスハラに該当するのだろうか。実例をもとに、クレーム研修専門家・津田卓也さんとハラスメント専門家・村嵜要さんに解説してもらった。

【実例1】リピート&長時間拘束

役所に同一内容の苦情電話を何度もかけ、口調こそ穏やかなものの、長時間、理詰めで問題点をあれこれ変えつつ、「どう責任を取るか考えて」と繰り返す。

【実例1】リピート&長時間拘束イラスト
【実例1】リピート&長時間拘束
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津田さん:明確な要求のない苦情を繰り返す行為や、役所などで不必要な世間話をする行為、「不良品が届いたから自宅に新品を持って来い」などというコールセンターへの店舗外拘束など、憂さ晴らしとしか思えないカスハラ行為が増えています。

内容や所要時間はまちまちでしょうが、何度も同じ話をしていることを相手から言われたり、指摘されたり、自分でもそう気づいたら、その時点で話をやめましょう。

村嵜さん:本質的には時間より業務への影響の有無がカギ。業務妨害の時間拘束は30秒〜1分でもNGと捉えるべき。

【実例2】権威的態度

レストランで「料理が出るのが遅い、店長を呼べ!」と大声でわめき、「おれを誰だと思っているんだ」と説教を始めた。結局、店長に頭を下げさせた。

【実例2】権威的態度イラスト
【実例2】権威的態度
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村嵜さん:「料理が出るのが遅い」というクレームは飲食店に多いもの。また、空腹時や時間制約があるとき、大切な人との会食で待たされたときなど、誰でもイライラするものです。「料理がいつ出てくるの?」と確認するのは正当なクレームの範囲内です。ただ、「遅すぎる」と決めつけて大声を出せば、お店の雰囲気も壊してしまうので注意しましょう。

そもそも店員に聞けば済むのに、いきなり店長を呼べと叫ぶのはマナー違反。店員と話して対応できない理由があったら、「あなたでは判断が難しいなら、店長とお話しさせてもらえませんか?」と穏やかに伝えれば問題ありません。

【実例3】セクハラ行為

コールセンターに問い合わせをしたとき、女性オペレーターが親切な対応をしてくれた。それに感動し、また話したいと思い、その後何度も電話をかけ、その人を指名したり、出勤日や勤務時間などの情報を聞き出そうとした。

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【実例3】セクハラ行為
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津田さん:オペレーターや店員の個人情報を知ろうとしたり、感情に任せて一方的に話をしようとするのは、セクハラ行為と捉えられる可能性が高いです。盗撮、セクハラ、ストーカーもカスハラの一種で、航空会社のANAとJALでは盗撮もカスハラの対象にしています。

2023年7月より、客室乗務員のスカートの中を盗撮した違反者には「性的姿態撮影等処罰法」で撮影罪が適用され、3年以下の拘禁か300万円以下の罰金、撮影データの消去や没収が可能、と定められています。

村嵜さん:スカートの中に限らず、正当な理由がないのに客室乗務員を無断で撮影するのは、カスハラに該当します。

【実例4】金品の要求

ラーメン店で、注文した料理に虫が入っていたと騒ぎ出した客。すぐ作り直してもらったのに、「それだけで済むと思ってんの! 誠意を見せろ!!」と金品を要求してきた。

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【実例4】金品の要求
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村嵜さん:料理への異物混入の場合、料理の作り直し以上の補償を求めるのは、過剰請求のカスハラ。ただし、異物を食べて体調が悪くなったなどの異変に因果関係がある場合は、慰謝料などを請求しても問題ありません。根拠となる病院の診断書などの有無が、大きな分かれ目になります。

津田さん:たとえば、店員が給仕時に誤って汚した服のクリーニング代を請求するのは正当なクレームですが、通常、それに要した交通費まで支払う義務は店側にはありません。また、自宅へ謝罪に行く際、菓子折を持参する必要があるかないかは、組織側に非があるのかカスハラかにもよるでしょう。

【実例5】暴力行為

台風で列車が遅延。駅員の名札を見て、「この程度の台風で運行中止か。仕事に遅れたら◯◯さんは、どう補償してくれるの?」と乗客が胸ぐらを掴んできた。

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【実例5】暴力行為
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村嵜さん:列車や飛行機などの遅延で、乗客が駅員や空港職員に詰め寄る場面をニュースなどでよく見ますが、胸ぐらを掴む、殴りかかるなどの行為は暴行罪や傷害罪にあたり、カスハラ行為とも見なされます。さらに、発言にも問題があります。

「◯◯さんは、どう補償してくれるの?」と言うのは、補償の要求になるのでNGです。最近は名札から個人を特定し、SNSなどで誹謗中傷を投稿するケースも増加しています。そのため、公共交通機関などでは、名札の表記をフルネームから名字だけに変える動きもあります。

津田さん:名札を見るのは問題ありませんが、名指しで非難するのはやめましょう。

【実例6】土下座の強要

チェックイン時間より早く旅館に到着した客が、時間まで待つように言われて激高。旅館スタッフが丁寧に言葉を尽くして説明したにもかかわらず受け入れず、土下座を強要した。

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【実例6】土下座の強要
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津田さん:土下座をさせると強要罪になる可能性が高い。そもそも強要罪とは、義務のないことを暴行や脅迫によって行わせる犯罪です。相手が拒否しているにもかかわらず、繰り返し土下座を強要するのはもってのほか、といえるでしょう。

また、昨年12月の改正旅館業法でカスハラを行った客を宿泊拒否できるようになっているので、警察に通報されることも考えられます。

村嵜さん:旅館に入れなかったことでクレームをつけることが、そもそもNG行為です。まずは、早めに到着したことを旅館側に説明し、その上で早めにチェックインできないか交渉するのが正しい話の運び方です。

◆教えてくれたのは:

津田卓也さん/クレーム研修専門家。セミナー&研修会社キューブルーツ代表。近著に『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(あさ出版)。

村嵜要さん/ハラスメント専門家。日本ハラスメント協会代表理事。さまざまなハラスメントについての研修のほか、テレビや新聞などでも解説。

取材・文/北武司 イラスト/たまだまさお

※女性セブン2024年8月1日号

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