
冬に多いといわれる血管病だが、実は夏も脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高くなる季節である。夏に欠かせないエアコンも、血管病リスクの上昇に関係していることがあるため注意が必要だ。そこで、医師の木村眞樹子さんに、夏に血管病リスクが高くなる理由や予防のためのセルフケアや食事、漢方薬について教えてもらった。
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夏に血管病のリスクが高くなる理由
脳梗塞や心筋梗塞などの血管病は、血管がつまったり血流が悪くなったりして脳や心臓に血液が十分に行き届かなくなることで起こります。
夏の暑さで汗をかくことはもちろん、エアコンを使うことで室内が乾燥しやすくなるため、気づかないうちに脱水状態になっていることがあります。すると血液がドロドロになり血栓ができやすくなるため、血管病のリスクが高くなってしまうのです。
また、夏は就寝中に汗をかいて脱水になりやすい傾向にあります。夜間は血圧が低下するため、脱水状態になることでより血流が滞りやすくなり、血管がつまる可能性が高くなります。

血管病の予防法
夏の血管病予防には、血管や心臓へのダメージを軽減する必要があります。
こまめに水分補給をする
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586571.pdf)によると、運動量が少ない人は2.3〜2.5L/日程度、運動量が多い人は3.3〜3.5L/日程度が必要とされています。
水は一度にたくさん飲んでも、体内に蓄えられずに尿として排泄されるので、のどの渇きを感じる前にこまめに水分補給をすることを意識しましょう。
水分補給は体内の水分が不足しやすいタイミングである、起床時や就寝前、入浴前後などには特に意識してください。とくに、寝ている間は長時間水分補給ができないため、起床時と就寝前には必ずコップ1杯の水を飲みましょう。

運動や長時間の外出の前後など、大量に汗をかく活動をしたときも水分補給は欠かせません。汗をかいて失われた水分やミネラルを補給するために、スポーツドリンクなどの0.1〜0.2%程度塩分を含む飲料(環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf)で水分補給をしましょう。ただし、これらの飲料は糖分が多く含まれているものもあるため飲み過ぎに注意が必要です。
また、アルコールやカフェインには利尿作用があるため、お酒やコーヒー、紅茶などは水分補給に適していません。これらの飲料を飲むときは、水やカフェインを含まない麦茶なども一緒に飲みましょう。
ストレスをためない
夏は暑さや室内外の気温差によって、いつも通り生活しているだけでも心身にストレスがたまりやすい季節です。ストレスは血管を収縮させる働きがある交感神経を優位にしやすいため、血圧や心拍数が上がり、血管病のリスクを高めます。
夏の暑さや気温からストレスを受けないために、部屋の温度を下げすぎない、外出時に冷却アイテムを用意する、また外出先で寒さを感じたときに着用できるよう、ストールや薄手の上着などを持ち歩くといった工夫をしましょう。
生活習慣の見直し
血管を傷つけるリスクのある高血圧や動脈硬化を進行させる脂質異常症といった生活習慣病や肥満は血管病のリスクを高めます。

高血圧や脂質異常症の原因となる塩分や脂質の多い食事を控え、血圧を下げる働きのあるカリウムや血管の健康維持に役立つ抗酸化作用のある栄養素を含んだ野菜や果物を積極的に摂取しましょう。減塩タイプの調味料を使用したり、おやつをカリウムを多く含むバナナやキウイフルーツなどの果物に変えたりすることが効果的です。
また、血流を悪くする喫煙も血管病のリスクを高める要因のひとつです。紙巻きたばこから加熱式たばこに変えても血管病のリスクは減少しないため、たばこの種類にかかわらず禁煙に取り組みましょう。
さらに、暑くて外出を控えて運動不足になっていると、筋肉が硬くなり血行不良になりやすくなります。筋肉の緊張をほぐして血行を促進するには、家の中でできるストレッチやヨガで体を動かすのがおすすめです。呼吸を止めないように意識しながら行うことで、筋肉の緊張を和らげ、血流改善の効果を高められます。
夏の血管病予防に役立つ食材
血管病の予防には、老化や生活習慣病の原因となる活性酸素による体の酸化を抑えることも有効です。抗酸化作用のある栄養素を摂ることで、血管を老化させる活性酸素を除去して、動脈硬化を防ぐ効果が期待できます。
抗酸化作用のある栄養素はいくつもありますが、夏は旬の野菜に多く含まれるビタミンCやビタミンE、リコピンなどが取り入れやすいでしょう。

たとえば、夏野菜の定番であるゴーヤやピーマンにはビタミンC、パプリカにはビタミンE、トマトにはリコピンが多く含まれています。
ビタミンCは水に溶けやすく熱に弱いため、食材の栄養素をより多く摂取するには、水に長時間さらしたり、下ゆでしたり、長い時間加熱したりする調理法はできる限り避けましょう。
ゴーヤやピーマンは、ひき肉やベーコンなどの脂質が多い肉類といっしょに調理すると、水にさらしたり、下ゆでしたりしなくても苦味が和らぎます。苦手な人はぜひ試してみてください。
血管病予防には漢方薬も役立つ
高血圧症や動脈硬化症などの症状に対して内科でも処方されている、漢方薬を取り入れることも血管病の予防につながります。
血管病予防には「血流をよくして全身に酸素や栄養を行き渡らせる」「ストレスで乱れた自律神経を整える」といった作用のある漢方薬が選ばれています。

おすすめの漢方薬
・八味地黄丸(はちみじおうがん)
老化によって衰えた体を温め、血流をよくして全身に栄養を与える効果が期待できます。動脈硬化傾向のある人に向いている漢方薬で、疲労感があり、口の中が渇くなどの症状がある場合に用います。
・釣藤散(ちょうとうさん)
エネルギーや栄養の巡りを整えてストレスによる緊張を鎮め、自律神経を整える効果が期待できます。高血圧傾向のある人に向いている漢方薬で、頭痛やめまい、肩こり、高血圧症などに用いられます。
漢方薬を始める際の注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、効果が実感できないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用するときには漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれたのは:医師・木村 眞樹子さん

きむら・まきこ。医師。 都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科に在勤。総合内科専門医・循環器内科専門医・日本睡眠学会専門医。産業医として企業の健康経営にも携わる。 自身の妊娠・出産、産業医の経験を経て、予防医学・未病の重要さと東洋医学に着目し、臨床の場でも西洋薬のメリットを生かしながら漢方の処方を行う。 症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でもサポートを行う。