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《老後ひとり暮らしの壁》介護が必要になったけど“身近に頼れる人がいない”どうする?

老人の手を触っている
おひとりさまの介護問題を解決するには?(写真/photoAC)
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誰しも老後の健康リスクはつきものだ。単身で老後を過ごす選択をした場合に、介護が必要となってしまったら、どうすればいいのだろうか? 遺品整理・生前整理などの事業を展開するかたわら、おひとりさまシニアのサポートを行い、『老後ひとり暮らしの壁』(アスコム)を上梓するなど、おひとりさまの老後問題に詳しい山村秀炯さんに、おひとりさまと介護について教えてもらった。

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支援や介護が必要になる日はいずれ来る

体が元気なうちはおひとりさまの生活を堪能できていても、年を重ねて体がおとろえていくのを避けることは難しい。身近に頼れる人がいないおひとりさまは、他者の支援や介護が必要になる可能性をあらかじめ想定しておくのが安心だ。

「同居人や身近な支援者がいない場合は、基本的に在宅介護サービスの利用や施設への入居を検討することになりますが、早めに手を打たないとそれらも困難になるケースがあります」(山村さん・以下同)

山村さんが出会ってきたおひとりさまの中には、認知症による気性の荒さと年金のみの収入のために入居できる施設がなかなか見つからなかった70代の男性や、要介護2の状態で唯一頼れる身内の姉を失い生活に困ってしまった70代後半の男性、収入が少なく、生活保護を受けてなんとか施設に入った70代の女性など、サポートが必要な状態になってから施設を探すことになり苦労した例もある。

「介護が必要になったおひとりさまは、これまでのように何もかもひとりでこなしていくことはできません。人に頼って生きていくことを覚えなければならないのです」

介護の助けを借りる上で頼る相手

要介護認定には5段階あり、介護が必要になる度合いは段階によって大きく異なるものの、介護保険で要介護認定された人の割合を調べた山村さんは、「85歳以上まで長生きした場合は、約6割の人は介護が必要な体になってしまうのです」と話す。

段階的に要介護度は上がっていくため、できないことが少しずつ増えていく。そこで、介護の助けを借りつつ快適に暮らすことを考えたとき、ケアマネジャーとキーパーソンがおひとりさまを支える存在となる。

「ケアマネジャーは介護の専門家であり、ケアプランを作成して、あなたの介護をマネジメントしてくれる人です。ケアマネジャーの報酬も介護保険で支払うことになるのでそんなに心配いりません」

介護士
介護の専門家を頼ることも(写真/photoAC)
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同世代のおひとりさまの友人への相談も

介護の専門家のケアマネジャーに対して、キーパーソンはこれからの生活についてケアマネジャーと一緒に考えてくれる存在だ。通常、配偶者や子供が担うことが多い役目だが、おひとりさまの場合はどんな人を選ぶべきだろうか。

「あなたにとって最も身近にいて、あなたのことをよく知っている存在です。自分が倒れて病院に運ばれたときに、まっさきに連絡を取りたい人といえばイメージできるでしょうか」

親や上司など、年上の人は老後のキーパーソンとしては適しているとはいえないだろう。そこで、山村さんが提案するのは、同世代のおひとりさまの友人だ。

「そんな相手が見つからないという人は、キーパーソンになってくれそうな人に連絡して、食事などに誘いつつ老後や介護について話してみてください。話が合えば、お互いに病院への入院時の身元引受人や、介護が必要になったときのキーパーソンなどを頼めるかもしれません」

介護が必要になったら病院に相談を

また、山村さんは、介護が必要になったときには、まず病院に相談することをすすめている。大きな病院では、退院後の生活への不安などを相談できる窓口が設置されていることが多く、相談援助職の医療ソーシャルワーカーが医師や看護師が対応できない悩みなどの相談にのってくれる。

「医療ソーシャルワーカーは、持病を持っている人や後遺症がある人の生活上の困りごとの相談に対応してくれます。入院しているおひとりさまは、だいたい同じような悩みを抱えているので、対処方法もノウハウもよく知っています」

退院後に在宅で暮らしていくためのサポートをしたり、在宅では無理といった場合にどうすればいいかなど一緒に考えてくれたり、心強い存在といえる。

介護に必要な費用と介護保険

いざ介護サービスや施設を利用したいとなった際に、問題になるのがお金だ。

「生命保険文化センターの『生命保険に関する全国実態調査』(令和3年)によれば、在宅介護の費用は、介護用の住宅改修や介護ベッドの購入などの一時的な費用の合計は平均で74万円、月々の費用は平均で8万3000円の負担になります。また介護期間は平均61.1か月(5年1か月)におよび、半数は4年以上となっています」

介護保険の申請書類
介護が必要になったら…(写真/photoAC)
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介護保険利用のための手続き

介護にかかるお金の給付やサービスの提供に関わる介護保険は、40歳以上の日本国民は全員加入しているため必要に応じて利用ができる。だが、そのための最初の手続きとして、住んでいる市区町村へ介護保険の要介護認定の申請をする必要がある。

「介護が必要な人は出歩くのが難しいですから、役所の窓口まで行けないということもあるでしょう。そこで、各地域には地域包括支援センターというものが作られていて、そこに連絡すれば役所への申請を代行してくれることになっています。つまり、申請書の提出は、本人でなくても代理人が行うこともできるのです」

地域包括支援センターは地域住民の生活上の相談に対応しているため、山村さんは積極的に利用することをすすめている。地域によっては、要介護認定がなくても利用できる介護サービスを提供していることもあるという。

そして、役所への申請では、名前や年齢はもちろん、病名や困っている症状、介護保険証の番号や主治医の名前などを聞かれるため、必要事項をあらかじめまとめておくとよいだろう。

「特に主治医の名前は必須です。というのも介護保険の認定においては、主治医からの意見書が参考にされるからです。主治医からの意見だけではなく、役所から調査員が訪問面接に来て、認知症や運動能力のテストを行います。その結果を持ち帰って判定が行われ、後日、介護認定判定の通知書が本人に送られてきます」

5段階ある要介護認定と簡単な介護サービスを利用できる要支援が2段階の、全7段階から介護認定判定がおり、対応したサービスを利用することができる。

車いすを押す女性
介護のレベルは全部で7段階(写真/photoAC)
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参考として、一番程度が軽い要支援1は、「日常生活は基本的にひとりで送れるが、掃除など一部で見守りや手助けが必要」と判断されるレベル。最大となる要介護5は「コミュニケーションをとることが困難で、基本的に寝たきりの状態」が該当する。

地域や時期によるものの、申請からたいてい2週間から1か月程度で介護認定通知が届き、介護保険および介護サービスが利用可能になる。

「介護認定通知が来たら、利用したい介護サービスを選びます。 最初は何があるのかよくわかりませんから、地域包括支援センターで相談してみてください。ここには社会福祉士や保健師、ケアマネジャーなどの専門家がいて、あなたと一緒に考えてくれます」

なお、介護保険の利用も健康保険と同様に自己負担があり、基本的には1割、66歳以上で所得が多い場合は2割、3割になる場合もあるので、覚えておこう。

「介護保険を利用できるようになったら行っておきたいのが、バリアフリー化など自宅の介護リフォームと、車椅子や歩行器など福祉用具の購入・レンタルです」

そのほか、要介護度によってさまざまな介護サービスを受けることができるため、事前に自身で調べたり、要介護度に応じてケアマネジャーに相談したりするのがおすすめだ。

大きく分けて5種類ある高齢者施設

介護保険などを利用し、高齢者施設に入居することになった場合、大きく分けて5つの種類がある。それぞれの施設の特徴を知っておくことで、将来のビジョンがイメージしやすくなるだろう。

高齢者施設で働く人のイメージ
高齢者施設は大きく分けて5種類(写真/photoAC)
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【特別養護老人ホーム(特養)】
自己負担費用が少なく、入居はひと月あたり10万円前後、初期費用は不要。ただし入居希望者が多く、なかなか入居が難しい。そのため要介護度3以上の高齢者しか入居できない。

【介護付き有料老人ホーム】
特別養護老人ホームが順番待ちになっているため、ニーズに合わせて作られた民間施設。施設にはスタッフが常駐し、 常勤換算で入居者3名に対し1名以上のスタッフ配置が義務付けられている。誰でも入居できるものの入居の際にまとまった一時金が必要な施設もあり、中には数百万円になるところも。月額利用料はサービスや設備、立地によってピンキリで、15万円程度〜30万円程度と幅がある。

【住宅型有料老人ホーム】
住宅型有料老人ホームは、介護サービスがない施設のため個々に外部の事業者と契約して利用する必要がある。そのため、自宅で利用していたデイサービスや訪問看護を継続利用することも可能。費用の相場は介護付き有料老人ホームと同程度。要介護度の低い人が中心の施設や、要介護度4〜5の寝たきりの人を中心にしている施設など、入居対象が大きく異なる場合がある。

【サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)】
バリアフリーの賃貸住宅に「見守りサービス(安否確認)」と「生活相談サービス」を兼ね備えた住宅。しっかりと介護士がついている老人ホームとは異なり、午前9時から午後5時までは生活の悩みなどに相談できるスタッフが常駐しており、食堂が併設されている場合もある。一般的なマンションに近いため、利用者は比較的介護度の低い人が多い。費用の相場は、入居一時金(敷金)が100万円〜20万円程度、月額利用料が約15万円。

【グループホーム】
要支援2、または要介護1以上の認知症患者で、施設と同じ地域に住居・住民票がある人が入居可能。認知症患者が日常生活の支援や機能訓練を受けながら生活する施設で、他の入居者との生活やリハビリ、レクリエーションを通じて認知症の改善や進行予防を目指す。

説明を聞く老女
内容を費用をふまえて検討を(写真/photoAC)
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「他にもケアハウスや老人保健施設などもあるので、実際に探す際には調べてみてください。また、前述した利用料などは目安でしかありません。本当に施設によってまちまちですから、必要な設備や環境、サービス内容と照らし合わせてよく検討する必要があります」

◆教えてくれたのは:山村秀炯さん

ネイビーのスーツ姿の男性
山村秀炯さん
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やまむら・しゅうけい。株式会社GoodService代表。愛知県を中心に遺品整理、生前整理などの事業を行う中で、ひとり暮らしシニアのさまざまな問題に直面。親族や友人に頼れない、頼りたくない「おひとりさま」という生き方を尊重し、なおかつ不安やトラブルなく生きていくためのサポート事業を新たに立ち上げる。メディアへの出演・取材協力も多数。著書に『老後ひとり暮らしの壁』(アスコム)。https://shukei-yamamura.com/

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