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《糖尿病やうつ病のリスク上昇の危険》一見ヘルシーな「野菜ジュース」「フルーツジュース」、摂り方次第で体に悪影響も

フルーツジュースを飲む女性の横顔の口元
生の果物に比べ咀嚼の必要がない(写真/PIXTA)
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「朝の果物は金」とは、古くからイギリスに伝わることわざだ。日本でも広く浸透していて、朝の果物を習慣にしている人は多いだろう。しかしその習慣、健康を害するかもあるかもしれない。

血管の老化を促す「AGEs」の多さに注意

あらゆる病気を予防し、健康寿命を延ばすため推奨される食習慣として、「野菜や果物を摂る」ことは欠かせない。健康意識の向上とともに、食事だけでなく、ジュースやスムージーなど手軽な方法で摂る人も増えた。家庭用のジューサーやミキサーなどの需要が高まり、フルーツジュース市場は安定した成長が見込まれるという調査結果もある。

グラスに入った2つのグリーンスムージー
フレッシュなスムージー(写真/PIXTA)
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コーラなどの炭酸飲料を代表とする清涼飲料水に過剰な糖分や人工甘味料などの添加物が入っていることはもはや常識で、“安心安全で健康な”フレッシュジュースや野菜ジュースを手にとるという人は少なくないだろう。

しかし、そこに大きな落とし穴があると警鐘を鳴らすのは、高雄病院理事長の江部康二さんだ。

「果物には果糖、ブドウ糖、ショ糖(砂糖)などの糖分が含まれます。最も多い割合を占めるのが果糖で、一般的なブドウ糖に比べ30倍もAGEsに変異しやすい。

AGEsとは終末糖化産物のことで、摂取した糖と体内のたんぱく質が結びついて生成される化合物で老化を促進するといわれる。AGEsが多いほど血管の老化も促し、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞の元凶になることもわかっています」(江部さん・以下同)

品種改良で甘くなっている果物

江部さんは、そもそも果物自体、摂取量には注意が必要だと続ける。

ぶどうやバナナやリンゴやナシやもも、キウイ
昔に比べ甘くなっている果物(写真/PIXTA)
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「昔に比べて、いまの果物は品種改良で糖度がかなり高くなっています。厚生労働省も1日の摂取目安量を200g程度としていますが、これはりんごでいえば約半分ほど。にもかかわらず、多くの人が“果物は健康にいいから”と過剰摂取状態にある」

消化器内科が専門で内臓脂肪に詳しい栗原クリニック東京・日本橋院長の栗原毅さんもこう話す。

「糖質には果糖やブドウ糖などの単糖類、ショ糖などの二糖類、でん粉などの多糖類があり、いちばん小さい単位である単糖類から吸収されます。

つまり、果糖はほとんど分解されることなく吸収されるため、血糖値を上げやすく、中性脂肪となって蓄積され、ひいては脂肪肝を招く恐れがあるのです」(栗原さん・以下同)

かように果物自体、糖質量の多さや吸収されやすさが問題視される。さらに言えば液体状のジュースは飲みやすくより危険だ。

「糖質制限をしているのに体重が落ちないという人の話を聞いてみると、食事の代わりに野菜ジュースを飲んでいるというケースがある。野菜ジュースには果糖だけでなく、飲みやすくするため糖質がさらに加えられているものもあり、これがダイエットの妨げになっていると考えられます。

生の果物に比べて、ジュースは咀嚼する必要もなくごくごく飲めてしまうので、気づかぬうちに糖質の過剰摂取に陥りやすい。固形物に比べ、吸収率も高く、血糖値が上昇しやすくなってそれを抑えようと、すい臓から大量のインスリンを出す。その繰り返しが糖尿病を引き起こすと危惧されています」

糖尿病リスク患者の増加傾向を示すグラフ
25年以上前に比べ糖尿病リスク患者の増加は顕著
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空腹時に果汁を摂取すると血糖値スパイクを招きやすい

実際、海外の研究では、フレッシュジュースを摂りすぎることによる糖尿病との関連が次々と明らかになっている。ハーバード大学の栄養学チームは、25年間にわたって18万人を対象にした調査を分析し、果物をそのまま食べると糖尿病の発症リスクが低下するのに対し、フルーツジュースを飲むとかえって糖尿病リスクが上昇するとの報告を出した。

フルーツジュース
血糖値が上がりやすいジュース(写真/PIXTA)
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りんごやオレンジ、グレープフルーツなどのフルーツジュースを飲んだところ、果物をそのまま食べるのと同様の健康効果を得られないばかりか、かえって糖尿病リスクが上昇するという結果が出たのだ。1日に1回以上ジュースを飲んでいた人は、飲んでいなかった人に比べて糖尿病の発症リスクが21%高かったという。

江部さんは特に空腹時に果汁を飲むのは最も危険だと指摘する。

「お腹がすいているときに液体の糖分を摂取すると、血糖値が急激に上昇し、その後急降下する血糖値スパイクを招きやすい。血糖値スパイクは、血管に大きな負担をかけるので脳卒中や心筋梗塞などのリスクを高める危険性があります」

飲まない人に比べて「うつ病」リスクもアップ

恐ろしいのは、血糖値を上昇させることが血管の老化や血管病を招くだけではないこと。最新の研究では、野菜や果物のジュースがうつ病に関連することが指摘されている。

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の成田瑞精神機能研究室長らのグループが、2011~2016年に秋田、岩手、茨城、長野、高知、愛媛、長崎の7県に住む40~74才の約9万5000人(いずれもうつ病のほか、うつ病との関連が報告されているがんや心筋梗塞、糖尿病の患者らを除く)を調査。甘味飲料全体と炭酸飲料、野菜ジュース、100%果物ジュース、砂糖入りコーヒー、ブラックコーヒー、緑茶でそれぞれの摂取量を計算したところ、ブラックコーヒーと緑茶以外のそれぞれで、まったく飲まない人に比べ、摂取する人はうつ病のリスクが明らかに高く出たのだ。

果物はとり方で糖の吸収が大違いということを示した図
ジュースと果物では血糖値の上がりやすさにこんなに違いが
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「この研究結果は、100%果物ジュースについてもうつ病と関連づけられたことが注目されました。100%濃縮還元でも生産工程で加糖され、砂糖によって神経細胞が機能するのに必要なたんぱく質が減ったり、炎症作用があることが考えられると示されています」(医療ジャーナリスト・以下同)

具体的には、まったく飲まない人に比べて多く飲む人の方が、甘味飲料全体で3.6ポイント、炭酸飲料で3.5ポイント、野菜ジュースで2.3ポイント、100%果物ジュースで2.4ポイント、砂糖入りコーヒーで2.6ポイントもリスクが高い結果となった。

「ブラックコーヒーは、多く摂取する人の方がまったく飲まない人よりもリスクが下がった。カフェインによる抗酸化作用や抗炎症作用によるものと考えられているが、砂糖入りコーヒーではリスクが高くなっているため、糖質によってうつ病リスクが高まるともいえます」

調査を行った成田室長は、この結果を受けて次のように話している。

《全体としては、糖分を多く含む甘味飲料の摂取を控えることが、うつ症状の予防によいと考えられる。野菜・果物ジュースもジューサーなどでしぼってつくったものは悪いとは考えにくいが、市販で手軽に手に入れられる100%ジュースなどは、濃縮還元でも甘みを調整するために糖分が加えられている場合もあり、本来の野菜や果物とはまったく別物と理解してほしい》

かように気づかぬうちに私たちの体を蝕むフレッシュジュースや野菜ジュース。栄養面でもデメリットがある。食品表示アドバイザーの垣田達哉さんが言う。

「野菜や果物をジュースにすると、その過程で食物繊維が除かれます。つまり、栄養を丸ごと摂取できるわけではない。糖分過多が危惧されるのも、食物繊維や水分が抜けて糖度がより高くなるからでしょう。食物繊維が抜ける分、口当たりもよくなって飲みやすくもなる。りんごを100g食べるのと、りんごジュースを100g飲むのとではジュースの方が糖分量が多いのはごく当然のことです」(垣田さん・以下同)

濃縮還元は産地不明

フレッシュジュースには、濃縮還元やストレートなどいくつか種類があるが、大きな違いは水分を一度飛ばすかどうかにある。

「濃縮還元は文字通り、果物の水分を一度抜いて(濃縮)、しばらく保管した後、水分が足される(還元)ということ。輸入で重量を軽くするために行われることが多く、日本に入ってから還元されます。濃縮のやり方は熱処理や真空、凍結などさまざまですが、いずれにしても栄養素が破壊されてしまうことが懸念されます。どちらが栄養をとれるかといわれればストレートジュースの方がいいでしょう」

濃縮還元については、栄養が減るほかにも懸念すべき点がある。

「前述の通り、濃縮還元は輸入品に多いのですが、もととなった果物がどこの産地のものかはほとんどわからない。水分を戻す工程を国内でやっていれば、『国内製造』と表示されますし、輸入元の国名は記されていてもそれが産地とは限らない。たとえば、中国産のレモンをイタリアが輸入して、イタリアで濃縮還元すれば、表示はイタリア製造になります。栄養素については食品表示で比較できますが、産地については難しい」

加えて気をつけたいのは、添加物だ。

「甘さを加えるために使われる果糖ブドウ糖液糖は、体に害も加えます。果糖は血糖値をゆるやかに上昇させますが、ブドウ糖は急激に血糖値を上げてインスリンを出させます」

人工甘味料の一種であるアスパルテームはWHOが発がん性リスクがあると指摘しており、どのような添加物が入っているかはよく確認したい。

朝の果物は金どころか、「鉛」となってしまわないよう、摂り方にはくれぐれも注意が必要だ。

※女性セブン2024年9月5日号