毎朝経済ニュースをチェックして、日経平均株価の動向に一喜一憂する…そんな投資を行っていないだろうか。シニア世代に適した投資とは、頻繁な売買やハラハラ・ドキドキがなく、ほったらかしでも安心でシンプルな投資。『やってはいけない資産運用 金融機関のカモにならない60歳からの資産防衛術』(アスコム)を上梓した、シニア投資コンサルタントで独立系フィナンシャルアドバイザーの西崎努さんに、シニア世代の投資の考え方と、シニア世代に適しているという「債券投資」について詳しく教えてもらった。
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シニア世代に大切なのは資産を減らさないこと
現役で働く若い世代が行う投資と、リタイアを見据えたシニア世代が行う投資はまったく異なるものであると西崎さんは話す。
若い世代の投資は、まとまった資金がないなかで長い時間をかけてコツコツと資産を増やす「資産形成」であり、シニア世代の投資は、まとまった資金がある一方、時間は限られており、手元にある資産を増やすより減らさないことが重要な「資産運用・管理」なのだそうだ。
「ところがメディアや雑誌などでは、この大きな違いがあまり語られません。若い世代向けの『資産形成』とシニア世代に適した『資産運用』の話がごちゃまぜになっているケースも散見されます」(西崎さん・以下同)
NISAやiDeCoも無理にする必要はない
近年、NISAやiDeCoも話題になっているが、これらは基本的に若い世代の「資産形成」に適した制度であり、シニア世代は無理にやらなくてもいいそうだ。
「制度上の条件や手続きがいろいろあり、簡単にいうと面倒だからです。そうしたことが苦にならないのならいいですが、私が知る限りシニア世代の皆さんにとって細かな手続きや注意事項は、だんだんと年齢とともに精神的な負担になりやすい傾向があります」
一喜一憂するような投資は避ける
シニア世代の投資の場合、頻繁に売買が必要な投資や、さまざまな情報に一喜一憂するような投資を避けることも西崎さんはすすめている。できる限り、ほったらかしでも安心でシンプルな運用がいいと言う。
「安定運用を望むのであれば、相場の変動にいちいち一喜一憂する投資は、やらないほうがましです。経済や社会が激変してもできるだけ影響を受けにくいようにしておくことを強くおすすめします」
投資の成否を分ける「アセットアロケーション」
シニア世代の投資で大切なのは、何のために何年くらい運用し、具体的にどれだけの利益が出ればいいのかという、「具体的なゴールの確認」だ。そして、そのゴールに近づけるかどうかの鍵を握るのが「アセットアロケーション」だと言う。
「アセットアロケーション」とは、「資産(アセット)」の「配分(アロケーション)」という意味で、現金、株式、債券、不動産などさまざまある資産に、どのくらいの割合で資金を振り分けるかを考えることだ。
「最初のゴール設定が曖昧だと、このアセットアロケーションから間違うことになります。例えば必要以上のリターンを求めると、本当は債券で十分なのに株式の配分が増えたりして、過剰なリスクを負ったりしてしまうのです」
シニア世代には債券投資が手堅い
適切なアセットアロケーションはゴール設定によって異なるが、資産をなるべく減らさない安定運用を求めるシニア世代であれば、「債券投資」を中心とするのが定石だという。
債券投資は、あらかじめ返済の期日と利息を決めてお金を貸すもの。期日が来れば貸したお金は返ってきて、その間の利息は期待通りに受け取ることができる。
「基本的に債券は、最初から満期保有した場合のリターンがわかっているものです。一般的に満期となる期日(満期日)もわかっているので、あまり面白みはありませんが、相対的に手堅い投資ともいえます」
安定したリターンを得られる債券投資のポイント5つ
西崎さんによれば、債券投資の魅力は次の5つだ。
【1】投資の利回りが具体的にわかる
【2】利息収入が安定している
【3】満期保有すれば決まった金額が返ってくる
【4】保有中のコストが発生しない
【5】売買の手間が少ない
債券投資は、購入した後は満期日まで持っておくことで、決まった日に決まった金額の利息収入を得ることができる。また、投資信託やファンドラップではなく個別銘柄を選べば、保有中のコストも発生せず、当初予定通りのリターンが得られる。
「運用を仕事にしているわけではないのですから、できるだけ投資に時間と労力を割かないことも大切です。まとめると、資産運用を活かして人生をより豊かにするためには、安定運用でほったらかしにできる『個別銘柄への債券投資』がマッチしやすいということです」
債券投資の三大戦略
債券投資の基本戦略は、「ラダー型運用」「ダンベル型運用」「ブレッド型運用」の3つだ。
「ラダー型運用」は、各年数の債券を均等に分散投資する手法で、「金利リスクの分散」や「利息収入の安定化」などがメリット。
「ダンベル型運用」は期間の短い債券と長い債券に分散投資する手法で、「一定の流動性を確保」しつつ、「金利が大きく変化するときに優位」な点がメリットだ。
「ブレッド型運用」は4~6年など一定の期間の債券に集中投資する手法で、「金利安定時に優位」であり、「相対的に高利回りになりやすい」と言われている。
「3つのパターンから厳密に選ぶ必要はありませんが、どんな時にどの型がなぜ有利をいわれているのかを考えて、選ぶようにしましょう。ただし、債券銘柄のほとんどは、株式や投資信託と違い、ネットなどで公開されていません。情報を知りたい場合には、証券会社(銀行ではなく)の担当者や私たちのようなIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を経由して債券銘柄の詳細や資料を得ることになります」
◆教えてくれたのは:シニア投資コンサルタント・西崎努さん
にしざき・つとむ。大手証券会社の全国トップセールスとして活躍後、新規・既存の上場会社や不動産投資法人(REIT)の新規公開・公募増資等の株式引受業務に従事。2017年に独立し、リーファス株式会社を設立後、リタイア期前後や高齢期の投資家を中心に、金融商品の仕組み、運用実務、大手銀行や証券会社の販売手法を熟知した投資のアドバイスを行う。著書に『老後資産の一番安全な運用方法 シニア投資入門』(アスコム)や『やってはいけない資産運用 金融機関のカモにならない60歳からの資産防衛術』(アスコム)など。https://refas.co.jp/