株式より低リスクでシニア世代の投資にも向いているといわれる「債券」だが、どのような債券を選ぶかについては注意が必要だ。債券のなかには特定の株式の株価の影響を受けるものや、日本円ベースでは元本割れしてしまうものもあるからだ。そこで、『やってはいけない資産運用 金融機関のカモにならない60歳からの資産防衛術』(アスコム)を上梓した、シニア投資コンサルタントで独立系フィナンシャルアドバイザーの西崎努さんに、シニア世代が注意すべき債券について詳しく教えてもらった。
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シニア世代が買ってはいけない「EB債」
「EB債」は仕組債と呼ばれる債券の一種で、債券でありながら償還時に特定の株式に転換される可能性がある特殊な金融商品だ。一般的な債券より利率が高く設定されるが、対象株式の市場価格の変動により株式に転換されたり、満期前に償還されたりすることもあるなど、複雑な仕組みになっている。
トラブルの多さを背景に、2022年に金融庁から指導があり、多くの金融機関では販売停止、または一部の顧客に対する限定的な販売となっているが、また販売再開になる可能性もあるため、注意しておくよう西崎さんは警鐘を鳴らしている。
「これは、商品性の問題ではなく、販売する側の提案方法と姿勢が一番大きな問題で、顧客に正しく仕組みやリスクを理解してもらわないまま購入させていたことが原因だと私は考えています」(西崎さん・以下同)
EB債は株価と連動するため安定運用には不向き
仕組みが複雑でわかりにくいことに加え、シニア世代にEB債の投資がおすすめできないもう1つの理由が、EB債の多くが特定銘柄の株価と連動するハイリスク・ハイリターンな金融商品であるためだ。
特定の株式の株価が満期まで一定範囲内のケースでは、高い金利を得て元金も戻ってくるため成功と言えるが、注意すべきはそれ以外のケースである。
株価が一定水準を下回ったケースでは、償還時に元金が特定の株式に転換される「ノックイン」が発生して元金がマイナスに。逆に一定水準を上回ったケースでは「ノックアウト」と呼ばれる元本の早期償還が行われ、得られる金利は低くなり、さらに株価の値上がり益なども得ることができない。
「『EB債』は一般的な債券より表面上の金利が高いものの、シンプルな個別銘柄の株式投資と違ってノックアウト(第三のケース)があるため、一定以上はリターンは増えません。早期償還で得られるリターンはさほどでもないケースが大半です。それなのにノックイン(第二のケース)によって元金が株式に転換され、株価が下がれば含み損はふくらんでいきます」
EB債は原則途中換金もできない
ノックインは理論上、元本がゼロになることもある。シニア世代は一度大損をしてしまうと、なかなかそれを取り戻せないため、特に注意が必要だ。さらに、EB債をはじめとした仕組債は、投資家側からは原則途中換金ができない点もシニア世代に不向きな理由の1つだ。
「シニア世代はいつ怪我や病気、介護などでお金が必要になるかわかりません。そういった意味でも資産を守ることが重要なシニア世代が仕組債に投資する必要性はほとんどありません」
シニア世代が注意すべき「新興国通貨建て債券」
シニア世代は「新興国通貨建て債券」にも注意が必要だ。「新興国」とは、主に経済が急成長している国のことで、BRICsと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国や、VISTAと呼ばれるベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンなどがある。
こうした国の債券は日本国債よりはるかに金利が高く、西崎さんのところへ相談に来る人のなかでも、その高い金利を魅力に感じて新興国通貨建ての債券や投資信託を買っている人が多いのだという。
「その運用状況をお伺いすると、確かに現地通貨建ての利息収入は予定通り受け取っています。しかし日本円換算した場合で見ると、日本円ベースの利息受取額は大きく目減りし、元本も大きく値下がりしていて、トータルでは大きな含み損を抱えているケースが大半です」
為替差損が新興国通貨建て債券の含み損を生む
新興国通貨建て債券投資で含み損が膨らむ理由の1つが「為替リスク」によるものだ。新興国通貨は一時的に上昇した時期があるものの、その後は対円で下落し続けており、新興国通貨に投資をしている投資家の多くが含み損を抱えてしまっている。
「『新興国通貨は高い金利が付きます』といった金融機関の営業担当者の説明に嘘はありませんが、安定した資産運用を目指したいという顧客(特にシニア世代)の意向と照らし合わせれば、適切な投資対象とはいえないでしょう」
新興国通貨は「為替手数料」も高い
外貨の売買では、外貨を買うときと日本円に戻すときの両方で「為替手数料」が発生する。米ドルのように日本円との交換が日々大量に行われる通貨であれば為替手数料も安いが、新興国通貨のように日本円との交換が限定的な通貨の場合、為替手数料が高く、損失を発生させやすい理由の1つになっている。
「『新興国通貨建て債券』は本当に魅力的な金利といえるのか、それだけの為替手数料を払っても投資する価値はあるのか、そもそも自分に必要な投資対象なのか、しっかり検討する必要があります」
◆教えてくれたのは:シニア投資コンサルタント・西崎努さん
にしざき・つとむ。大手証券会社の全国トップセールスとして活躍後、新規・既存の上場会社や不動産投資法人(REIT)の新規公開・公募増資等の株式引受業務に従事。2017年に独立し、リーファス株式会社を設立後、リタイア期前後や高齢期の投資家を中心に、金融商品の仕組み、運用実務、大手銀行や証券会社の販売手法を熟知した投資のアドバイスを行う。著書に『老後資産の一番安全な運用方法 シニア投資入門』(アスコム)や『やってはいけない資産運用 金融機関のカモにならない60歳からの資産防衛術』(アスコム)など。https://refas.co.jp/