私たちの不調や病気を治してくれる医療。白衣を着た医師から「この薬をのんでください」「この手術をやりましょう」と言われたら、何も疑うことなく、その治療を受け入れるだろう。しかし、医師が心の内では“自分だったら受けない”と思っていたら──その現役医師たちが匿名座談会だからこそ言える本音を語りつくした。語ってくれたのは、内科クリニックの院長のA子(50代)、乳腺科・婦人科のクリニック院長のB美(40代)、がん専門病院勤務の医師のC夫(40代)、大学病院外科医のD代(50代)の4人だ。【全3回の第3回。第1回から読む】
負担が大きいのにメリットが低い治療
どれだけ医療技術が進歩しても、難治性の病気や著しく生活の質が下がる病気がなくなることはない。臨床現場で日々患者と向き合う医師だからこそ、“受けたくない治療”も存在する。
A子:進行がんで、治療しても余命が1か月くらいしか延びないとわかったら、抗がん剤治療は受けません。副作用が大きい治療を受けたくない。
B美:私も昔から使われているプラチナ製剤のような抗がん剤は、かえって発がん性があると指摘されており使いたくありません。分子標的薬も有効性のデータがあまり出ていないので、個人的には避けたい。
C夫:がんの治療でまず思いつくのは、食道がんの手術です。 食道がんの手術は難易度が高く、合併症や後遺症のリスクが高い。食道を切除すると食事量が減り、やせて寝たきりになることがある。食道と胃の吻合が不完全で、縫い目から唾液や食べ物が漏れることもあるし誤嚥性肺炎にもなりやすい。
初期なら切除部位が少なく内視鏡で取れるけれど、進行してしまったら手術以外の選択肢も考えたい。
D代:確かに最近は内視鏡や腹腔鏡、胸腔鏡といった低侵襲な外科治療が増えている。患者の負担を減らすという点ではメリットだけど、代わりに執刀医に高い技術力が要求されるのでメリットばかりじゃないということを知ってほしい。 肝臓がんにおいての腹腔鏡手術は完全に確立していないので、私なら腹腔鏡ではなく開腹手術を受けます。
C夫:直腸がんの肛門温存手術も受けたくない。“温存”というと聞こえはいいけど、肛門の機能を完全に残せるわけではないので、軟便で1日何十回もトイレに行くことになったり、失禁することがある。再発リスクも高くなります。温存しないと永久に人工肛門(ストーマ)をつけることになるけれど、慣れてしまえば不便もなくにおいが漏れる心配はほぼありません。
A子:すい臓がんになったときは、手術は選択しないつもりです。合併症の発生率が高く、再発率も高い。放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせた治療法か、粒子線治療を検討しますね。
D代:おっしゃるような、負担が大きいのにメリットが低い治療は受けない方がいいですよね。心臓弁膜症や 早期の前立腺がん手術も、経過観察できるのに急いで手術をすすめる病院がある。患者が少ない病院ほどやりたがるんですよね。
もちろん、発見時に転移の恐れや早い進行が考えられるなら検討の余地はありますが、そもそも 全身麻酔は体に負担をかけて、認知症のリスクを上げるという報告もあり、全身麻酔が必要な手術はできるだけ避けたいです。
やみくもに検診を受けて過剰医療に
A子:脳ドックで 未破裂脳動脈瘤が見つかり、手術した患者さんがいましたが、私なら手術を受けません。破裂して、くも膜下出血を起こす確率は1%未満しかない。発症していないのに、脳の手術を受けるのはリスクが高い。そもそも脳ドックを受ける必要がないと思っています。
C夫:人間ドックでいえば、ピロリ菌検査が陰性の人は、胃がんに限ってはバリウムも胃カメラも不要です。ピロリ菌に感染していなければ胃がんになることはほとんどなく、ピロリ菌は子供の頃にしか感染しません。
A子:やみくもに検診を受けても、過剰医療につながるだけですからね。 がん全般にいえることですが、検診を受けても受けなくても、生存率にほとんど差がないという報告が多い。
B美:延命治療についてはどう思いますか? 私は回復する見込みがない状況なら、胃ろうや人工呼吸器などによる無理な延命治療はしないつもりです。
D代:私は認知症で著しく認知機能が低下したら、延命治療は受けたくないですね。ALS(筋萎縮性側索硬化症)が進行したときも同様かもしれない。自分が描く“尊厳”を守って最期を迎えたいので、“認知機能が低下したら安楽死できる”ような法整備ができるといい。回復しない状態で、自分の意思とは関係なく長生きさせられるのは嫌です。
C夫:同感です。延命治療にはもちろん必要なものがあるけれど、個人の尊厳も大事にすべき。そのあたりは海外では議論が活発に行われていますが、日本でももっと議論されるようになってほしい。
〈患者は自分の医療について自己決定する権利がある。医師たちの本音を一助として、改めて考えてみよう。〉
※女性セブン2025年1月2・9日号