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《達人に学ぶ“呼吸術”》ボイストレーナー・京島麗香さん「歌う前のウオーミングアップは腰痛や肩こり改善になる優れもの」

《達人に学ぶ“呼吸術”》ボイストレーナー・京島麗香さん
ボイストレーナー・京島麗香さん
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お人は無意識のうちに1日2万~2万5000回、息を吸って吐いているという。しかし日本人の10人に8人が“間違った呼吸”になっている。放っておけば頭痛、肩こり、歯周病、睡眠不足にも──。では、呼吸の重要性を熟知する達人は、日々どんな呼吸を行っているのか。ボイストレーナーの京島麗香さんに、呼吸による心と体の整え方を聞いた。

深い呼吸のために重要な肩甲骨と姿勢

「歌うときの呼吸は、鼻から吸って口から吐く腹式呼吸。肺いっぱいに息を吸い、お腹から声を出すのですが、深い呼吸をするためには肩甲骨をやわらかくすること。そして、姿勢を正すことが何より重要です」と、京島さんは語る。

肺と呼吸筋は背中にも接しているため、肩甲骨が固まっていると吸える空気が減ってしまう。姿勢が悪いとうまく肺に空気が入らないというのが、その理由だ。

「まずは、肺いっぱいに息を吸い込めるかが大事。肺が空気で満たされると横隔膜が押されて下がり、お腹の方にも空気が入って大きな声が出せるのです。レッスンでは、肩甲骨をほぐすウオーミングアップや姿勢の指導を最初に行います」(京島さん・以下同)

ウオーミングアップ

【1】まっすぐ立ち、手を上げながら鼻から大きく息を吸う。

まっすぐ立ち、手を上げながら鼻から大きく息を吸う
まっすぐ立ち、手を上げながら鼻から大きく息を吸う
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【2】腕を上から横いっぱいに大きく伸ばし、肩甲骨を寄せる。手の先まで息が入るイメージで息を吸い、「もう吸えない」というところで3秒間息を止める。

腕を上から横いっぱいに大きく伸ばし、肩甲骨を寄せる。手の先まで息が入るイメージで息を吸い、「もう吸えない」というところで3秒間息を止める
腕を上から横いっぱいに大きく伸ばし、肩甲骨を寄せる。手の先まで息が入るイメージで息を吸い、「もう吸えない」というところで3秒間息を止める
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【3】口から息を吐いて脱力し、吐ききりながら上半身を倒す。「脱力するのが難しいですが、全身の力を抜くようなイメージで、頭も首も腕もだらーんとさせましょう。2〜3回くらい行うと、体がぽかぽかし、肩こりにも効きます」(京島さん)。

口から息を吐いて脱力し、吐ききりながら上半身を倒す
口から息を吐いて脱力し、吐ききりながら上半身を倒す
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いい姿勢を体感するには、壁に背中をつけて立ち、密着させてみよう。後頭部、左右の肩甲骨、腰の3点が壁にぴたりとつくのがベスト。

肩甲骨が壁につかない人は前傾姿勢、腰がつかない人は反り腰だ。

反り腰になりがちな人は、恥骨(股間の上の骨)を立てる。「ズボンのチャックを上げるイメージです」(京島さん)。
反り腰になりがちな人は、恥骨(股間の上の骨)を立てる。「ズボンのチャックを上げるイメージです」(京島さん)
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呼吸は体の内側をマッサージする効果も

ウオーミングアップの後は、基本の腹式呼吸で深い呼吸を3回行う。

「ただ呼吸をするのではなく、吸うときは手をろっ骨の下方に、吐くときは下腹部に置くと、横隔膜が動いているのを感じることができます。私は電車の待ち時間に行うこともあります」

吸い込んだ息をそのまま保つようなイメージで歌うと、腹式の発声になる。

「この呼吸は腰痛ケアにもなります。背もたれのあるいすに座り、痛い部分に手を当て、そこにも息が入るように大きく吸います。吸った息をキープしながら『フーッ』と息を深く吐くと、体の内側からマッサージされているような効果があり、血行もよくなります。私の生徒さん(80代女性)は、このケアを3か月続けて腰痛が改善しました。

そのほかにも、吸った息を保ったまま10〜30秒かけて『スーッ』と細く息を吐くトレーニングは、呼吸筋が鍛えられます」

基本の腹式呼吸

・ろっ骨の下方に手を置き、4秒かけて大きく息を吸い込んだら、4秒間息を止める。

ろっ骨の下方に手を置き、4秒かけて大きく息を吸い込んだら、4秒間息を止める
ろっ骨の下方に手を置き、4秒かけて大きく息を吸い込んだら、4秒間息を止める
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・下腹部に手を当て「スーッ」と声を出しながら8秒で吐ききり、脱力。自然と下腹部に息が戻る。

下腹部に手を当て「スーッ」と声を出しながら8秒で吐ききり、脱力。自然と下腹部に息が戻る
下腹部に手を当て「スーッ」と声を出しながら8秒で吐ききり、脱力。自然と下腹部に息が戻る
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「舌を上あごにつける」ことは、歌唱にも重要だ。

「舌が硬い(落ちている)と大きい声が出せないので、発声練習では、舌を上げるために『ティンティン』と繰り返して声に出す練習をします。『ティンティン』と言い続けた後に、舌の位置をキープしたまま『あー』と発声すると、響きがよくて通る声が出るんです。

『リリリ』や、ハミングでもOK。鼻歌を歌うときに取り入れてみてください」

ボイストレーニングに通っている高齢者は、みな元気で姿勢もいいという。

◆ボイストレーナー・京島麗香さん

藤原歌劇団所属のソプラノ歌手としてオペラやコンサートに出演する傍ら、ボイストレーナーとして200人以上を指導。現在リフトミュージックスクール(東京都北区 https://www.liftmusicschool.com/)のボーカル/ボイストレーニング講師を務める。https://linktr.ee/reyka.kyoshima

取材・文/佐藤有栄

※女性セブン2025年2月6日号

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