健康・医療

江戸時代を生きた「長寿の名医・名将」が実践していた食生活 「生ものを食べない」「食後は300歩くらい歩く」「冷や酒は体に悪い」

中でも大根は、『徒然草』にも薬として記述があるほど、ポピュラーな薬食いだったようだ。東京農業大学名誉教授で農学博士の小泉武夫さんが言う。

「当時からかぜの諸症状に効くとされ、”大根をはちみつにつけた汁を飲むとのどの痛みに効く”というのは、現代でも広く実践されている民間療法です。また”おろし大根を足の裏につけると熱が下がる”ともいわれていました」
焼き魚や天ぷらに大根おろしをつけるのは、消化酵素のジアスターゼが胃や腸を整えるからだ。

大根と同じくメジャーな薬食いの1つが梅干し。いまでも整腸作用、食欲増進作用、殺菌効果などが知られているが、当時の人々は実体験として梅干しの効果を信頼していたのだろう。

「江戸時代から一般家庭にも常備されるようになり、疲労回復や夏バテ予防のために食べたり、子供の下痢止めとして湯にほぐして飲ませたり、つわりを軽くするためにも食べられていたようです」(小泉さん)

生薬
江戸時代の薬といえば主に「漢方」が用いられていたが、これものみすぎは厳禁とされていた
写真4枚

また、昭和の頃にたびたび見られた「梅干し湿布」も、江戸時代から続く健康法だ。

「梅干しを練った汁を和紙に染みこませて額やこめかみに貼ると頭痛が治るとされており、実際に梅干しの香り成分には痛みを鎮静する効果があると考えられています」(浮代さん)

いまでは当たり前に飲まれているお茶や甘酒も、当時は貴重な薬食いだった。

「茶が中国から伝来してきたときは、ただの飲み物ではなく、解熱や眠気覚まし、心身強壮などに効く高級な薬として考えられていました。甘酒は現代では冬の飲み物という印象が強いですが、実は夏の季語。これは不衛生な環境や、蚊を介した伝染病などによって夏に亡くなる人が格段に多かったことから、夏の栄養ドリンクとして飲まれていたためです。ブドウ糖や必須アミノ酸、ビタミン群が豊富な甘酒は、当時の人には劇的に効いたはず。いまでも)飲む点滴”といわれますが、実際に病院での栄養補給の点滴の成分とほぼ一致しています」(小泉さん・以下同)

江戸中期以降になると、年中を通して燗酒が広まった。

「『養生訓』にもあるように冷酒は体に悪いと考えられており、ひれ酒や骨酒などで楽しんでいました。ひれや骨を浸すと、うまみが出るだけでなく、コラーゲンやアミノ酸といった栄養素も摂取できる。また、菊の花を浸した菊花酒はリラックス効果があり眼精疲労にいいとされていました」

衛生整備が整っていなかった当時「薬味」はまさに、防腐のための”薬”だった。

「生魚が大好きな江戸の人々にとって、薬味はお腹を壊さないために必要なものでした。うど、みょうが、ねぎ、大葉、大根など5種類くらいの薬味を添えた刺し身のレシピも残っています」(浮代さん)

※女性セブン2025年3月13日号

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