
料理研究家の瀬尾幸子さんは、現在66才。テレビや雑誌などで活躍するキャリア30年以上のベテラン料理家で、初心者でもおいしく作れる家庭料理のレシピには、ファンが多い。
瀬尾さんは2024年の12月から2025年の1月の約1か月、アフリカのガーナとセネガルに滞在して、現地の人から家庭料理を学んだ。還暦を過ぎて初のアフリカ旅行に挑戦した理由や、まったく未知のアフリカの料理について聞いた。【ガーナ編】
還暦を過ぎて始めたダンスで、アフリカ沼にハマる
「アフリカに行くきっかけになったのは、2年前に始めたダンスです。それまではダンスのダの字も知らず、かっこいいなと思いつつ自分には絶対無理だと思っていたんです。でも、年齢的に最後のチャンスだから勇気を出して教室に行ってみたら、意外に楽しくて。ダンスを始めたことで音楽の世界が広がり、アフリカ音楽で『リズムを聴く』ということを知りました。リズムに合わせて体を動かすのって理屈じゃない楽しさがあると気づいたところから、アフリカ沼にはまっていきました(笑)」(瀬尾さん・以下同)
アフロダンスを習っている先生が、教室の希望者を募って行くアフリカ旅行に参加。1か月フル参加するのは先生と瀬尾さんのみで、宿泊先は「エアビー」(民泊)やホームステイと、観光とはかけ離れた旅だった。
「先生は20年アフリカに通っているので、現地の人の生活や食事を知るのにこれほどいい機会はない! 自分の年齢と体力を考えて、二度といけないかもしれないと考えたら、できるだけ長くいようと考えちゃったの(笑い)。いや~大変な旅でした」
最初の滞在先は西アフリカに位置するガーナの首都・アクラ。飛行機を2回乗り継ぎ、約20時間かかったという。
「滞在中の温度は昼33℃、朝24℃くらいと日本の真夏よりは過ごしやすい感じ。とはいえ、『ハマターン』というサハラ砂漠から吹きつける貿易風にのって砂が舞う時期だったので、常に視界がなんとなく煙っているの。
私たちが泊まったエアビーがあるのは、中心部のニマという街。滞在中、アジア人はもちろん、外国人にも一度も会わないくらいローカルな、小さい家がずっと並んでいるような地域でした」


食事の主流はスープorシチューに穀物で作る団子を合わせたメニュー
「ガーナでは肉や魚を使ったスープやシチューに、穀物を練って作る主食を合わせて食べる食事が主流でした。主食はお餅というより、日本でいうなら上新粉で作った粘りがない団子のようなもの。でも、ヤムイモで作った団子にはこのスープ、とうもろこしの団子にはこのシチューと組み合わせが決まっているの。日本でいうなら『お赤飯とカレーは合わせない』と同じ感覚ですね。ちなみに、シチューとスープの違いは、具材を炒めるときに油をたくさん使うか使わないということなのだそう」


本当に獲れたての魚は、焼いても魚くささがまったくない!
「ガーナは海に面しているので、魚がすごく新鮮なの。とはいえ、まだ冷蔵庫が普及していないため、捕った魚はすぐ焼いて売られています。家庭では買ってきた焼き魚の皮や骨を除き、スープやシチューの具にするわけ。炭や薪を使って市場の中で焼かれているんだけど、新鮮すぎて魚くささがまったくしないの。これには驚きましたね。
市場にいつも並んでいたのは近海の小さなマグロとサバ。あじや飛び魚を売っていることも。焼いただけのものを食べてみましたが、新鮮で日本で食べるよりおいしいくらい。ただ無塩なので、しょうゆが欲しくなりました(笑)」

「ガーナの食事はなにを食べてもおいしかったし、日本人にも食べやすいと思いますよ。ものすごく辛いとかスパーシーな料理はなく、味つけは食材から出るだしとほぼ塩のみ。塩味の寄せ鍋を食べている感じで、土鍋に入って出てきても違和感がないくらい。しょうゆを垂らしてご飯と食べたくなりました(笑)」

(写真/豊田朋子)
プロフィール
瀬尾幸子/1959年生まれ。大学卒業後、料理の世界に入り雑誌や書籍、テレビ出演など幅広いメディアで活躍。シンプルな素材で無駄な手順を省いた家庭料理のレシピは、料理初心者でもおいしく作れると人気。『60代、瀬尾幸子さんのがんばらない食べ方』世界文化ホールディングスほか、著書多数。
取材・文/丸山月世美