【日本以外ではほとんど使われていない薬一覧】風邪薬、抗生物質、胃腸薬、睡眠薬…「有効性の根拠が不充分」「副作用が問題視」が理由、日本では一般の人に最新情報が届きにくい現実も

熱っぽいから病院へ、咳が出るから薬局へ──日本人は何か不調があれば薬に頼り、それが体を“よくしてくれる”と信じている人がほとんどだろう。しかし、あなたがのんでいる薬が、世界の常識では「意味がない」か、むしろ「危険な薬」かもしれないことを知っているだろうか。
「風邪で総合感冒薬」は海外では一般的ではない
2020年以降、ジェネリック医薬品メーカーの不正が相次いだことが発端となり、医薬品の品薄状態が続いている。原材料費や輸送費の高騰もあり、この先も充分な供給は見通せない状況だ。
感染症が流行する冬場は患者の需要も高まるので、さらに薬不足に陥った。だが風邪で薬を求めるのは、日本人ならではの行動かもしれない。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんは、「欧米では風邪を治す薬はない」が常識だと指摘する。
「日本では風邪をひくと、解熱鎮痛剤や咳止め薬などさまざまな効能のある成分を配合した総合感冒薬をのむ傾向にありますが、海外では一般的ではない。それどころか有効性の根拠が不充分なうえ、眠気や依存性、血圧上昇などの副作用が問題視されています」
フランス在住のジャーナリスト・羽生のり子さんが言い添える。
「ヨーロッパでは、風邪やちょっとした腹痛など医者にかかるほどではない不調は、ハーブを使うなどして家庭でケアします。知り合いのドイツ人は、風邪の予防に『シスタス』というハーブを使い、体調が悪いときはレモン汁を入れたお湯を飲みます。伝統的な民間療法はほかにもあり、風邪や腹痛には、13種の生薬を配合したアルコールの液体を数滴、お湯に入れて飲んでいるそうです」
世界中のタミフル使用量の8割が日本
今年の冬は、抗インフルエンザ薬「タミフル」のジェネリック製造が追いつかず、不足する事態にもなった。年始早々、インフルエンザと診断された会社員のAさん(56才)はタミフルがなかなか入手できずに困ったと話す。
「不足しているとは聞いていたけれど、かかりつけの薬局に行くと本当になくてびっくり。私は高熱が出てつらい状態だったので、代わりに夫がいくつか薬局を回って、タミフルを見つけてくれました」
しかし、新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんは、海外ではタミフルはあまり使われていないと指摘する。

「世界中の使用量の約8割が日本です。欧米では風邪やインフルエンザは自然に治癒するもので、出歩かずに自宅で休養をとるのが最善だといわれています。病院に行けばほかの感染症にかかるリスクも高い。タミフルの効果は、熱が17時間ほど早く下がる程度で、重症化や肺炎の予防にならないことがわかっています」
高熱が出ると、しばしば抗生物質が処方されることもある。しかし、風邪などのウイルスに効果がないことはあまり知られていない。国立国際医療研究センターのレポートによると、「抗菌薬・抗生物質はウイルスをやっつける」という問いに対して、正解となる「間違っていると思う」と回答した人は16%で、「正しいと思う」と誤答した人は58.5%だった。
都内クリニックの内科医が打ち明ける。
「風邪と診断した患者さんに抗生物質は効かないので不要だと説明しても、わかってもらえないケースは多い。口コミで悪く書かれると困るので、仕方なく抗生物質を処方することもあります」
だが、岡田さんは抗生物質を安易に使うことは危険だと警鐘を鳴らす。
「抗生物質は細菌を殺す働きはあるもののウイルスには効果が期待できず、風邪には効きません。むしろ薬が効かない耐性菌が増えて、いざ細菌に感染した際に薬の効果が出にくくなる。ドイツでは現在、国をあげて抗生物質を使用しないように働きかけています」
日本では不足がちな判断材料
一部の解熱鎮痛剤も日本ではよく使用されるが、海外の医療事情に詳しい医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは、「アメリカでは安易に使うべきではないとされている」と話す。
「代表的なのが『NSAIDs(エヌセイズ)』を成分とする鎮痛薬です。『ロキソプロフェンナトリウム水和物』『アスピリン』などは、使いすぎると胃を荒らす副作用があるという理由で、アメリカでは極力使わないようになっています」
市販の咳止め薬にも含まれている「コデインリン酸塩」は、薬物依存のリスクが指摘されている。

「コデインリン酸塩は作用が強力で、濃度が1%以下なら『咳止め薬』に分類されますが、10%以上になると『麻薬』として扱われます。薬物乱用の依存性や、呼吸抑制により死亡することがあるため、欧米では18才未満への処方は禁止です。日本では2019年から12才以下への投与は禁止されたものの、ドラッグストアに行けば普通に購入することができます」(長澤さん)
強力な薬が必ずしも悪ではなく、メリットとデメリットを知ったうえで服用するのが適切だということ。ただし、日本では判断材料が不足しがちだと語るのは室井さんだ。
「英語圏の情報にアクセスするハードルが高いので、一般の人に最新情報が届きにくいのが現実です。アメリカでは2023年に、胃腸薬の『プロトンポンプ阻害薬』の服用期間が4年5か月を超えると認知症リスクが上がる可能性があるという研究結果がニュースになりましたが、日本では知らない人が多い。
ほかにも、日本人がよく処方される胃腸薬の『モサプリドクエン酸塩水和物』はアメリカでは承認されておらず、ヨーロッパでもほぼ使われていません」
日本では整形外科などでよく処方される湿布も、“日本オリジナル”だ。
「湿布の効果にエビデンスはなく、患部がひんやりして気持ちがいいため“効いた気分”になっているだけ。欧米ではほとんど使われていません」(岡田さん)