
どんな人でも加齢とともに心も体も衰えて、若い頃と同じようにはいかなくなる。年を重ねたいまこそ「古い習慣」を捨てて、「新しい習慣」にアップデートするチャンスだ。健康長寿の専門家と、実際に元気を保っているシニアに「やめてよかったこと」を聞いた。【前後編の前編】
ダイエットをやめたら日々が充実
20代、30代の頃と比べて変化するのが食生活。神奈川県のAさん(66才)が言う。
「2年ほど前から、1日3食をやめました。朝食をしっかり食べると昼はお腹がすかないので、丁寧にいれたコーヒー1杯で充分。その方が体が軽く、頭もスッキリします。夕食も17時頃に早めに済ませているせいか、健康診断の数値もよくなりました」
ワイドショーなどで長年リポーターとして活躍してきた東海林のり子さん(90才)は、「健康法」をやめた。
「若い頃は健康オタクで、『根昆布健康法』や『しいたけ健康法』など、話題の健康法は何でも試していました。でも、効果を実感できたものはほとんどありません(笑い)。年とともにいろいろ試すのもかえって疲れてしまって、健康法を追いかけるのは30~40年前にやめました」
大分県のBさん(78才)は、ダイエットをやめたことで、日々が充実した。

「長年、趣味で社交ダンスをしています。やせている方がダンスのパートナーもラクだろうし、見栄えもいいだろうと、ずっと必死でしたが、昨年、外国人講師に年をとったら少しぽっちゃりしている方が健康的で、若々しく見えますよと言われてから、好きなものを食べるようにしたんです。体重が増えてからの方が踊っていて疲れにくくなりましたし、表情も明るくなったと言われ、毎日が楽しくなりました」
食べたいものや飲みたいものをがまんすることは、それ自体にストレスがある。高齢者専門の精神科医である和田秀樹さんが指摘する。
「太っていることより、食べたいものをがまんするストレスの方がずっと体に悪影響です。年をとってからは特に健康のためにダイエットするなどという考えは捨て、健康のために、ダイエットをやめるという発想が必要です」
朝食ではしっかりたんぱく質を摂る
シニアになったら、過度に節制する必要はない。管理栄養士の望月理恵子さんが言う。 「自己判断の糖質制限をすると、かえって揚げ物などの量が増え、質の悪い油を多く摂ってしまうことも。これは悪玉コレステロールを増やし、血液の流れを悪くし、動脈硬化を悪化させてしまう。
かといって、油を断つ必要はありません。あまに油やえごま油、オリーブオイル、MCTオイルなど、植物性の質のいい油は積極的に摂りましょう。減塩も頑張らなくていい。塩分制限が必須の心不全患者でも、過剰に制限すると予後が悪化する可能性があるといわれています」
『ケチじょうずは捨てじょうず』などの著書で、ムダなく快適な生活を紹介するエッセイストの小笠原洋子さん(75才)も、数値を気にした食習慣を手放したひとり。

「40代の頃はコレステロール値が高かったため、肉や卵を控える生活をしていました。ところが、それではかえって栄養不足になると知ってからは、避けずに食べるようにしています」
肉や卵などで摂れる動物性たんぱく質は、健康長寿には欠かせない。
「たんぱく質が不足すると筋力の低下が激しくなり、寝たきりになるなど、デメリットの方が大きくなる。動物性たんぱく質は、1日に体重1kgあたり1gほど摂取するのが理想的です」(望月さん)
特に朝食では、しっかりたんぱく質を摂るべきだ。サラダやコーヒーだけの軽すぎる朝食は卒業しよう。

逆に、夕食まできっちり自炊にこだわるのはやめてもいい。小笠原さんも「夕食作りを頑張るのをやめた」と話す。
「朝昼のメニューは栄養バランスを考えながら前日に決めますが、夕食は残り物。火を使う必要もなく、準備も片づけもすぐに終わるので、毎日18時頃には食べ終わります。 そのおかげか胃もたれもなく、スッキリ朝を迎えています」(小笠原さん)
一方、高齢になると、健康のためとはいえ、たくさん食べるのは避けた方がいいものもある。
「レモンや酢の物など酸味の強い食品は体にいい影響も与えますが、むせやすく、誤嚥性肺炎を招く恐れもあります」(望月さん)
カルシウムを補給しようと牛乳の飲みすぎにも要注意。薬剤師の長澤育弘さんが言う。 「高齢になると、すでに骨粗しょう症予防のために、ビタミンDを処方されている人も多い。
そうした人が牛乳でカルシウムを摂りすぎると、高カルシウム血症を引き起こすリスクがあります」
医師がすすめる運動よりも「散歩」「ぬる湯」
加齢で筋肉量が減るシニアには適度な運動が必須だが、昔のようなストイックな努力は必要ない。月5万円の年金だけで暮らす日々を綴ったブログが注目を集めている紫苑さん(73才)が振り返る。
「以前は健康のためにジム通いをしていましたが、周囲の目が気になって、つい頑張りすぎて体を痛めてしまうことがあったんです。
準備や移動に時間と手間がかかるのも気になって、思い切ってやめたら身も心もラクになりました。いまは散歩や自治体のプールに行くくらい。マイペースに体を動かしているおかげで、薬いらずの体です」

和田さんも続ける。
「運動が好きでないなら“健康のため”とがまんして運動したところで、体にいいはずがない。私自身、気が向けば散歩はしていますが、わざわざ運動はしていません」
散歩をするときも、目安とされる「1日1万歩」をめざす努力はもうしなくていいかもしれない。
「1万歩はあくまでも、健康な成人の場合。高齢者やフレイル予防を目的とした場合は、女性は1日5900歩、男性は6700歩程度を目標にすべきだといわれています」(望月さん)
埼玉県の主婦・Cさん(62才)が言う。
「冷え症を改善したくて週に一度は1時間近く半身浴をしていたのですが、あるときのぼせて倒れてしまったのをきっかけに、軽く汗ばむ程度で上がるようにしました。
不思議とかぜをひきにくくなったし、熱いお湯に入っていたときより、冷え症もよくなりました」
東京都市大学人間科学部教授で医師の早坂信哉さんによれば、毎日湯船につかるのは健康にいいが、長時間つかりすぎるとかえって体に負担をかけるという。

「熱中症や肌の乾燥を招くので、湯船につかるのは長くても10~15分程度にとどめましょう。温度はもっともリラックスできる38~40℃がベスト。41℃以上のお湯につかると交感神経が活発になって寝つきが悪くなりやすく、42℃以上のお湯は血圧が上がりすぎてヒートショックを招きます。
年齢が上がると皮膚の温度感覚が鈍って“自分が気持ちいいと感じる温度”では熱すぎることがあるので、温度はしっかり測ってから入浴を」(早坂さん)
若い頃から温泉好きで、自宅でも毎日のように入浴剤を入れたお風呂を楽しんでいたDさん(68才)は、60才を過ぎたあたりから「毎日のお風呂」をやめた。
「お風呂って意外と体力を使うし、洗い場で体を冷やして体調を崩すことが多くなったんです。冬はしっかり温まったら、体を洗うのは3日に1回くらいにしています。全身が乾燥してかゆくなっていたのが、いまでは何も塗らなくてもしっとりして調子がいいです」
早坂さんは、体を洗うのは毎日でなくてもいいと太鼓判を押す。
「30代を過ぎると皮脂が減って肌が乾燥しやすくなるので、毎日石けんやボディーソープで体を洗う必要はありません。湯船につかるだけである程度の汚れは落ちるので、においが気になるところ以外は2、3日に一度で充分。ナイロンタオルなどは使わず、手でなでるように洗ってください。入浴のしすぎは湯疲れして体に負担がかかるので、温泉やスーパー銭湯でも、入浴は1日2、3回までにとどめて」(早坂さん)
「病院好き」「薬頼み」が長寿を遠ざける
年をとれば、体のあちこちに不調が出てくる。だからといって「病院好き」「薬頼み」は“卒業”しよう。東海林さんも、いい年だから、どこかに不調が出るのは当たり前だと言う。
「本当に具合が悪いときに病院に行くのはいいですが、わざわざ悪いところを見つけに健康診断に行こうとは思いません」(東海林さん)

実際に、今回話してくれた健康シニアは「病院にはほとんど行かない」と口を揃えた。病気になったとしても、症状が快方に向かったら、頼るのをやめる。
「症状の改善がみられたらひと区切り。それ以上の通院はしません。のまなければならない薬も手間も減り、体力的にも時間的にも、金銭的にもラクになりました」(小笠原さん)
あちこちの医療機関にかかる「ドクターショッピング」は、いたずらに薬の量や種類を増やすだけ。
重複投薬や、薬剤間の相互作用による副作用のリスクが上がる。薬ののみすぎやサプリメントの多用はかえって体調不良を招きかねない。
長野県のEさん(71才)が話す。
「コロナ禍が始まった頃から、免疫力を上げるという触れ込みのビタミンDとEのサプリを毎日欠かさずのんでいたのをやめました。手足のむくみと貧血がひどくなって病院に行ったら、“腎機能が著しく低下している”と言われて、即入院……サプリをのむのをやめたら、不調はぱったりなくなりました」
長澤さんが言う。
「薬やサプリメントは基本的に、腎臓か肝臓で代謝されるもの。両者の機能が落ちる40代以降は、若い人と同じ量の薬をのむと代謝に時間がかかり、副作用のリスクが上がるのです。
イブプロフェンが配合されている市販のかぜ薬などは、指定の量より少なくてもいい場合もあります。花粉症などに処方される『第一世代』の抗ヒスタミン薬などはのみ続けていると、高齢になってから記憶力が低下したり、認知症が進行するケースもあります」
高血糖や脂質異常症の治療薬、抗コレステロール薬は、いずれも長期的なリスクを改善するもの。人生の残り時間が短くなってきてからは、上手に向き合う必要がある。
「高血糖や脂質異常症の症状は、長い時間をかけて現れる。服薬や食事制限によるストレスの方が大きければ、場合によってはのみ続ける方がつらいことも。医師に相談のうえ、減薬や断薬を考えてもいいかもしれません」(長澤さん)

(後編に続く)
※女性セブン2025年3月27日・4月3日号