
グループ名を「Sexy Zone」から「timelesz」に変えて再スタートした菊池風磨(30才)、佐藤勝利(28才)、松島聡(27才)の3人が、「仲間探し」をコンセプトに始めた新メンバーオーディションが「timelesz project(通称・タイプロ)」。2月15日には、橋本将生(25才)、猪俣周杜(23才)、篠塚大輝(22才)、寺西拓人(30才)、原嘉孝(29才)が晴れて新メンバーに選ばれ、グループは8人体制に移行した。
その6次審査までの10か月にわたる道のりがNetflixで全世界に配信されたタイプロは、Sexy Zone時代からのファンはもちろん、世代や性別を問わず、これまで一度もアイドルにハマったことのない人々も巻き込んで、大きな盛り上がりを見せた。いったいどうしてタイプロは、ここまで支持されたのか。その人気の裏側に迫る。【前後編の後編。前編を読む】
自分の葛藤をメンバーや候補生と重ね合わせて見る人が多かった
タイプロがこれほど多くの世代に刺さった背景について、社会学者で文筆家の太田省一さんは「ネット配信」の影響を指摘する。
「サブスクなら自分の好きなタイミングで視聴でき、周りが盛り上がってから一気に追いつけます。感動した場面を何度も繰り返し見ることで気持ちもどんどん入り込みます」
加えてオーディションというフォーマットも視聴者の心を掴みやすいという。

「サバイバル型オーディションでは候補生がさまざまな困難に直面しながら、自分の努力や仲間の助けで成長していきます。しかもタイプロはダンス未経験で苦しむ篠塚大輝さんに菊池風磨さんが熱くアドバイスするなど『対話』する場面が多く、参加者のキャラクターや人間性が浮き彫りになりました。
さらに、厳しい合宿生活を送る一方でメンバーと候補生が一緒にドライブしたり銭湯に入ったりすることで、オンとオフをうまく見せた効果も大きい。そうした場面がSNSで拡散されることで盛り上がりがさらに増した」(太田さん)
ティーンや学生だけでなく、社会人の心情に訴えかけたこともほかのオーディション番組にはない特徴だと文芸評論家の三宅香帆さんは語る。

「いまのご時世、STARTO ENTERTAINMENT(スタート社)やテレビ業界に厳しい目が向けられるなか、3人が新たなプロジェクトを立ち上げて必死になる姿や、そこに参加した候補生が懸命にがんばる姿に心を打たれた人が多かったのでは。働く女性も含めて、何かしらの仕事をするなかで抱える自分の葛藤を、タイプロと重ね合わせて見る人が多かったように感じます」(三宅さん・以下同)
おじさんファンが多い点にも、三宅さんは注目する。
「私の周りにもハマったおじさんがいました。会社で新卒や中途の採用に悩んだり、コミュニケーションを取りながらチームをまとめようとしている人が、タイプロから大きなヒントを得ていたのかもしれません」
タイプロはスタート社としても異例だらけのプロジェクトだった。
「企画を聞いたとき、“本当にできるの?”と疑問でした」
そう語るのは、本誌『女性セブン』で『山田EYEモード』を連載している放送作家の山田美保子さん。

「スタート社の歴史上、外部から公開でメンバーを募ることはほぼありませんでした。ましてやデビューを待つジュニアがいる状況では難しいはず。しかも、事務所が発掘し、育てたオリジナルメンバーに仲間を入れるためのオーディションをメンバーが開くなんて前代未聞です。だから会社を説得して、企画を実現したメンバーの熱意は本当にすごいと思いました」(山田さん)
太田さんもtimeleszの行動力を評価する。
「これまで密室で行われていたオーディションをオープンにして、しかも現役メンバーが審査員として対等な目線で仲間探しをすることが新鮮で、相乗効果で盛り上がりました。また公開オーディションは、これまでスタート社に関心がなかった人が興味を持つきっかけにもなったでしょう」
「もうNOSUKEに入ってほしいわ! マジで!」と妹が叫んだ
名場面ばかりのタイプロだが、熱狂した人たちはどのシーンで沼ったのか。
「どこに照準合わせてやってる? オーディション受かること? 売れてぇんじゃねえの? おれは死ぬほど売れたい。こんなんじゃ売れねえだろ!」
4次審査の合宿で、なかなか殻を破れない候補生たちに、菊池がそうハッパをかける場面を選んだのは三宅さんだ。
「“死ぬほど売れたい”って思っていてもなかなか口に出せない言葉ですし、そもそも菊池さんは個人としてめちゃくちゃ売れていると思います。でもそれ以上にチームで売れたいという目標を候補生たちに示しているところに圧倒されます。タイプロを見て強く思ったのは、チームを作っているなということ。タイプロはチームプレーのすごさがとても印象深かったです」(三宅さん)
最終審査後、新メンバーに選ばれなかった浜川路己(19才)に、佐藤勝利が「いつかロイのショーをプロデュースできたら、ロイがそれに立ちたかったら、またその出会いができたらうれしいです」と声をかける場面に感動したのは太田さんだ。
「5次審査を1位で通過したロイくんの実力と魅力を認めて、正式メンバーに選ばなかったこともちゃんとフォローした。ロイくんが別の形でデビューする未来を予感させる好場面でした」(太田さん)
「寺西(拓人)推し」の山田さんが振り返るのは、最終審査結果が発表されたときの寺西の振る舞いだ。

「最終審査で2番目に合格を告げられた寺西くんの表情が変わることはありませんでした。それなのに、最後のメンバーとして同じ境遇の原嘉孝くんの名前が呼ばれると寺西くんは泣き出したんです。彼を取材する人は“寺西くんは優しい”と口を揃えますが、そんな寺西くんの心優しさが出た場面でした」(山田さん)
菊池、佐藤、松島聡と候補生たちのほかにもスタート社の先輩ら、多くの出演者が番組を盛り上げた。なかでも、お笑いコンビ・空気階段の鈴木もぐらが最も感激したのは普段厳しい“先生”が感情的になったシーンだ。
「5次審査の結果発表を見届けたNOSUKE先生が大号泣した場面で胸が熱くなりました。妹が“もうNOSUKEに入ってほしいわ! マジで!”と叫んで、“それな!”と思いました(笑い)」(もぐら)
同じくコンビでタイプロにハマった空気階段の水川かたまりはこう話す。

「勝利くん、松島くん、風磨くんの3チームに分かれて審査する段階で、松島くんのチームを見た勝利くんが『0点をだそう』と声をかけたシーンは印象に残っています。その言葉で、候補生たちのパフォーマンスが圧倒的によくなった。
松島くんのチームにいた原くんとは昨年演出した舞台で共演したのですが、どう声をかければ高め合えるかぼく自身が迷っていたので、このシーンで“これか!”とハッとさせられましたね。
原くんがオーディションに出ていることは全然知らず、舞台のせりふもすごく多かったのに稽古2日目くらいにはほぼ完璧で、すごいバイタリティーの持ち主ですよ。原くんが出てると知ってからは完全な“原推し”で、どうか合格してほしいと思いながら見ていました。原くんが合格するとわかったいま、改めてもう一度最初から見返したいくらいです」
多くの人の心に刺さったのは、timeleszの3人が異口同音に繰り返した「殻を破れ!」というフレーズではないだろうか。

「自分の魅力は自分の力で発揮しないといけないよと、彼らはいろいろな形で言いました。それはエンタメに限らず、どんな仕事の人にも当てはまることです。その言葉を聞き入れて、自分の殻を破ろうともがいて成長する候補生たちの姿に、多くの人が共感したのだと思います」(太田さん)
スポ根であり、青春群像劇のようでもあり、自己啓発的な気づきも与えてくれる。3人のメンバーと約2万人の応募者、選ばれた5人はあらゆる形で私たちの感情を揺さぶった。だが、彼らの物語はオーディション終了とともに幕を開けたばかり。殻を突き破った新生timeleszが新世代のアイドルとしてどんな活躍を見せてくれるのか。熱狂はこれからも続いていく。

※女性セブン2025年4月10日号