早期発見と治療で進行を遅らせる
では、認知症患者の大多数を占めるアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症を発症してしまったら、もう治る見込みはないのか。朝田さんは薬で症状を緩和する対症療法によって、進行を遅らせることはできるようになったと話す。

「アルツハイマー型認知症の研究は進んでいて、抗認知症薬が続々と承認されています。ただ、こうした薬も一長一短です。認知機能を高めることは期待できますが、効果を感じる人は数人に1人という割合です。逆にイライラしたり眠くなるなど副作用もあるため、過度に薬に期待しすぎないようにすべきでしょう」
認知症になったからとすぐに薬を処方する医師や、投薬治療を望む患者もいるが、副作用の精神障害などが指摘され、一時的な症状悪化などの報告もある。
生活習慣病の予防が認知症を遠ざける
認知症は早期発見が重要なことは間違いないが、日頃から予防のための生活習慣を実践したい。不健康な生活を送っている人は、認知症になるリスクが高いと指摘するのは、ひろかわクリニック院長の広川慶裕さんだ。
「糖尿病の人はそうでない人に比べて認知症のリスクが高いことがわかっており、アルツハイマー型認知症に約1.5倍、血管性認知症に約2.5倍なりやすいといわれます。食習慣を見直し、生活習慣病を予防することが大切です」(広川さん・以下同)
また、広川さんは毎日適度な運動をすることが、認知症の予防に欠かせないと解説する。
「例えば、ウオーキングなら1日40分以上、スロージョギングなら1日20分以上、縄跳びなら1日10分以上行うだけでも、認知症のリスクを下げられます」
朝田さんもこう説明する。
「予防法として効果的なのは有酸素運動です。単純に1つの運動を行うのではなく、複数の作業やトレーニングを組み合わせた方が、認知症予防の効果は高くなるといわれます。また、積極的に他人とコミュニケーションをとることが大切です。他人と交流し、会話をすることで脳に刺激が与えられれば、神経細胞のネットワークを活性化できます」(朝田さん)
認知症を治療し、発症や進行を遅らせるには、家族や周囲の力も必要だ。
「39才のときに若年性アルツハイマー型認知症と診断され、認知症患者として情報発信を続ける丹野智文さんによると、パンを焼きすぎて焦がしたとき、奥さんは“またやってみればいいじゃない”と声をかけたそうです。繰り返せばできることなら、失敗してもいいので何度もチャレンジしてもらい、達成感を感じてもらうことが大切です」(内田さん・以下同)
一般的に、認知症の状態になると加齢とともに脳が萎縮し、認知症が進行する。ところが、趣味や仕事など生きる目的がある人は、脳が萎縮しても認知症の進行が緩やかだったという研究もある。
「生きる目的を奪われると、認知症の進行が加速することがわかっています。認知症を発症しても社会生活を営むことは可能ですし、社会全体で認知症を過度に恐れないことも大切です」
2024年には、認知症の人が尊厳を持って生活できる社会にすべく、認知症基本法が施行された。認知症患者が健全な生活を送るためには、周囲の理解と協力が不可欠だと朝田さんは言う。
「介護はその日暮らしの精神で行うことが大切。今日一日が無事に終えられたらいいと考え、理想を追わないことが大事だと考えます。患者さん本人も家族も気負わずに自然体で過ごすことがいちばんですね」(朝田さん)
認知症について正しく理解し、社会全体で向き合えば、患者とその家族は前向きな人生を送ることができるはずだ。
※女性セブン2025年4月10日号