健康・医療

【ノロウイルスが異例の流行】スマホが感染経路となる可能性 対策のためには“トイレでスマホ”はNG、アルコール消毒は効果が低く、手洗いの徹底が重要 

ノロウイルスの感染力は、インフルエンザやコロナを上回る(写真/PIXTA)
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“トイレでスマホ”が病気の原因になる──これを聞いて、ドキッとする人も多いだろう。季節にあらがい、いま勢いを増しているノロウイルス。感染拡大の背景として、専門家たちは現代人の“悲しき習性”を指摘する。その実態と、身を守るための術を徹底調査。

便座に腰を下ろし、ほっと一息。そこでスマホを取り出し、ニュースをチェックしたりコミックを読んだり。誰にも邪魔されないリラックス空間で、あなたの指は画面を上下左右に滑っていく──そんな秘された日常が、あなたの命を脅かすことになるかもしれない。

過去10年間で最多の患者数

ノロウイルスなどを原因とする感染性胃腸炎が、いま大流行している。東京都感染症情報センターによると、例年なら落ち着いてくるはずの2月中旬頃から、患者報告数が急増。春先のこの時期としては、過去10年で最多の患者数となっているのだ。

そもそも感染性胃腸炎とは、どんな病気なのか。日々現場で治療にあたる「いとう王子神谷内科外科クリニック」の伊藤博道院長が解説する。

「病名の通り、細菌やウイルスに感染して胃や腸が炎症を起こし、下痢や嘔吐、発熱を引き起こす病気です。ノロなどのウイルスには特効薬があるわけではなく、細菌やウイルスを体の外に排出することで改善するので、現時点では対症療法しかありません」

免疫力の低い高齢者の場合、命にかかわることもある怖い病気だ。

「脱水、けいれん、肝機能異常、脳症などの合併症を引き起こすこともあります。さらに、吐物を誤嚥して誤嚥性肺炎を起こすこともあるので注意が必要です」(医療ジャーナリスト)

異例の流行の背景には何があるのか。感染制御学の第一人者である、東邦大学の小林寅てつ教授(てつは『哲』の異字体。『吉』が2つ並ぶ)が語る。

「今シーズンは、年末年始にかけて例年よりも暖かい気候が続きましたが、2月中旬に入って急激に気温が下がりました。ノロウイルスは気温が低い環境で感染力が長く維持されるので、例年よりピークが遅れてやってきた形です」

寒い時期のズレによる季節外れの流行とはいえ、感染者全体の数も、例年に比べ増加しているという。

「コロナ禍で人々の感染対策への意識が高まり、ここ数年はノロウイルスも含めた感染症の患者数が一時的に減少するということが起きました。しかし、次第にそうした意識が緩んできたことも、今回の流行の一因と考えられます」(小林さん)

スマホは、ウイルスや細菌だらけ(写真/PIXTA)
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気になる感染源だが、現代ならではの要因が考えられるという。それが「スマホ」だ。しかも、冒頭のようにトイレなどでの使用が「リスクがある」と、小林さんは警鐘を鳴らす。

「ウイルスに感染した人が使用した後のトイレには、ドアノブや水洗レバー、便座、水道の蛇口などいたるところにウイルスが付着しています。そんな環境でスマホを使用したり、備え付けの棚に置いたりすれば、もちろんウイルスが付着する。たとえトイレの後にしっかり手洗いをしても、スマホを介して、トイレの外で再び手にウイルスが付いてしまうことになります。感染性胃腸炎では、手に付いたウイルスから感染するケースが最も多い。スマホがウイルスを媒介するというわけです」(小林さん)

私たちの生活からもはや切っても切り離せないスマホは、“細菌やウイルスの温床”なのだという。

「2017年のエストニアのタルトゥ大学の研究によると、スマホ1台あたり1万7000個の細菌が付着していた。これはトイレの便座の約10倍にあたります。さらに、2020年のオーストラリアのボンド大学の研究によれば、一般的にスマホには大腸菌や黄色ブドウ球菌などの細菌が存在していることが明らかになりました。

スマホは、簡単に消毒したり丸洗いできるものではありません。さらに皮脂が付着しているため、雑菌が繁殖しやすい環境になっています」(前出・医療ジャーナリスト)

まさに現代人ならではの感染経路といえるが、笑って済ますことのできない実態がある。

「ある海外の大手IT企業が2022年から約1年間にわたって各国のスマホ利用状況を調査したところ、対象となった日本人の約7割が“トイレにスマホを持ち込んでいる”と回答しています。

さらに、手元にスマホがないと不安を感じたり、日常生活に支障をきたすほど長時間にわたってスマホを使用してしまう『スマホ依存』の人の数は、年々高まっている傾向にある。2024年に国内機関が行った調査によれば、対象となった20〜50代の男女全体の7割が自身について『スマホ依存だと思う』と答えているのです。過度のスマホ利用は不眠や視力の低下にもつながる。健康への悪影響は今後ますます指摘されていくことになるでしょう」(ITジャーナリスト)

アルコールや石けんでも死なない

身近に潜むウイルスに対して、私たちはどう対策すればよいのか。まずは「スマホをトイレで触らないこと」と専門家たちは声をそろえるが、重要なのは「石けんをよく泡立てて手を洗うこと」だという。

充分に石けんを泡立て、手を洗うことが重要だ(写真/PIXTA)
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「ノロウイルスは、石けんで不活化できないため、水で洗い流すのが肝要です。石けんを使う理由は、ウイルスを皮膚の表面から浮かし、水で洗い流すためです。30秒以上洗い流して、よく乾燥させましょう」(伊藤さん)

コロナ禍で普及したアルコール消毒は、ノロウイルスには効果が低いという。

「コロナやインフルエンザと違い、ノロウイルスはアルコールで死にません。有効なのは『次亜塩素酸ナトリウム』。キッチンハイターを希釈すれば、家庭でも簡単に作ることができます。ハンディーな噴霧タイプも、数百円前後でスーパーでも販売されていますよ。それをキッチンまわりやトイレのドアノブ、蛇口といった部分に吹きかけて消毒するのです。

ただ、皮膚に直接噴霧すると刺激が強く、肌荒れにつながるので注意が必要です」(伊藤さん)

除菌シートはほとんど効果がない(写真/PIXTA)
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手軽に手指を清潔にできる除菌シートも、ノロウイルスには効果がほとんどないという。

「おしぼりやウエットティッシュ、除菌シートなどで拭いても、ただウイルスの付着した範囲をのばすだけです。スマホそのものを洗うことは難しいですから、やはりトイレ後や食事前の手洗いを徹底することが重要です」(小林さん)

知らず知らずのうちに私たちの生活に侵食し、健康に悪影響を及ぼすスマホ。役に立つはずの利器に泣かされることがないよう、時には、距離を置くことも大切なのだ。

※女性セブン2025年4月17日号

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