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「感染症の運び屋」ネズミの増殖で危惧される健康被害 治療薬がないハンタウイルス感染症のほか、レプトスピラ感染症や破傷風のリスクが拡大 

ネズミの増殖で感染リスクの高まりが危惧されている(写真/PIXTA)
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牛丼店での混入騒動で注目を集めたネズミ被害。東京都内では少なくとも25万匹いるとされ、専門機関への被害相談件数も10年で倍増しているという。

野生のネズミは30を超える感染症を媒介するとされており、ネズミの増殖で感染リスクの高まりが危惧されている。公衆衛生に詳しいナビタスクリニックの医師・高橋謙造さんが、ネズミによる健康被害を解説する。

「ネズミのフンにはサルモネラ菌が含まれている可能性があります。食器棚に侵入したネズミが皿の上でフンをした場合、その皿を洗浄せずに使用しただけでサルモネラ菌に感染する危険性があります。下痢や嘔吐、発熱が2〜7日間続きます」

治療薬がない「ハンタウイルス感染症」

「感染症の運び屋」とも呼ばれるネズミが増殖するいま、聞き慣れない感染症が運ばれてくる可能性もある。

「ハンタウイルス感染症です。ネズミの排泄物や唾液に含まれるウイルスによる感染症で、それらが乾燥した粉塵を吸い込むことで感染します。掃除機やほうきを使って清掃をしたときに、大気中に舞った粉塵を吸引して発症した例もある。症状は発熱や筋肉痛ですが、重症化すれば呼吸困難を引き起こします。治療薬がないため、人工呼吸器などを備えた高度医療施設でも救命が困難なケースもある」(高橋さん)

中国では新型コロナウイルスが猛威を振るった2021年に流行。発症から3時間後に死亡した感染者も出た。日本では1981年の感染を最後に確認されていないが、注意が必要だという。

温暖化などによるネズミの進化で、ドブネズミとクマネズミの共存が都心部で始まった。これにより、ネズミの尿で汚染された水や土に傷口などが触れることで感染する、レプトスピラ感染症にかかるリスクが拡大するという。環境衛生管理事業を行う「シー・アイ・シー」の執行役員・研究開発部長の小松謙之さんが解説する。

野生のネズミは30を超える感染症を媒介する(写真/GettyImages)
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「尿に含まれるレプトスピラ菌は、都心部では屋外をすみかとするドブネズミだけが保菌していると考えられています。ですがドブネズミとクマネズミの接触が増えれば、クマネズミもレプトスピラ菌を保菌するようになるかもしれません。室内でクマネズミの尿に汚染された生の食材を食べることでも、感染する可能性があります」

感染すれば発熱や頭痛の症状が現れ、重症化すれば腎不全や髄膜炎につながる。

寝たきりの高齢者や子供が、ネズミに噛まれたという報告もある。

「噛まれた際に注意すべきは破傷風です。口が開けにくくなったり、食べ物をうまく飲み込めなくなったりするなどの症状が出ます。治療が遅れると死亡することもある怖い病気です。破傷風は子供の頃に接種したワクチンで予防されていますが、ワクチンの効果は加齢とともに低下してくるもの。ネズミに噛まれたらすぐに流水で洗い、受診してほしい」(高橋さん)

想像もしたくないが、購入した商品や提供された料理に入っていたネズミに気づかず、誤って食べてしまった場合はどうなるのだろうか。

「ネズミが媒介する感染症のどれに感染しても、不思議ではありません。ですが実際のところ、何に感染してどんな症状が出るのかなどははっきりしていません。前例のない症状に見舞われることが、最も怖いとも言えます」(高橋さん)

牛丼店への混入騒動が私たちに教えてくれたのは、進化し続けるネズミの脅威なのだ。

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※女性セブン2025年4月24日号