健康・医療

利便性に潜む「スマホ老眼」や「スマホ斜視」のリスク、小さい画面を近距離で凝視することが問題 一時的に“失明”したような状態になることも 

我々が使用するスマホには大きなリスクが潜んでいる(写真/PIXTA)
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あらゆる情報が詰まった手のひらに収まるガジェットが世界とつながって、検索や買い物、エンタメ視聴やコミュニケーションなど、いまや日常生活のほぼすべてのことが手元でできるようになった。だが華やかな便利さの裏側には落とし穴がある。目や脳、そして心──いま“本当に怖いスマホ”の弊害が次々と明らかになっているのだ。

まずは手元にあるスマートフォンを開いて、「設定」から「スクリーンタイム」を開いてほしい。すると、あなたが1日どれだけスマホを見ているか把握できる。NTTドコモモバイル社会研究所の調査(2024年)では、インターネット利用時間について、40代女性では1日平均4.8時間、50代女性では4.7時間、60代女性では3.7時間だった。

スマホが生活必需品となって久しく、前出・NTTドコモモバイル社会研究所の別の調査(2024年)によると、日本国内の携帯電話所有者のスマホ比率は97%に達した。

朝起きるために目覚ましをセットして、起きたらメールやLINEのチェック、ネットニュースを見たり、写真投稿SNSアプリなどで友人や芸能人の日常を眺めたり。買い足すべき日用品をネットスーパーでカートに入れて、昼食後はYouTubeなどの動画鑑賞。夕飯を何にするかレシピを検索して、お風呂ではスマホで動画タイム。寝る寸前までSNSを見たり、電子書籍を読んだり、気になっていたドラマを見たり──私たちの生活は、1分1秒も離れられないほど、スマホに侵食されている。その利便性に、大きなリスクが潜んでいることに気づいているだろうか。

「スマホ老眼」「スマホ斜視」…小さな画面と近距離が目を酷使

超高齢時代を健康長寿で生き抜くには、生活の基盤となる「見る」という機能を維持することが求められる。できるならば、死ぬまで見え続ける目でありたい。それが日常生活を可能にし、QOLを上げることはいうまでもないだろう。だが、手元のスマホを見つめる時間が長ければ長いほど、大切な目は酷使される。クイーンズ アイクリニック院長の荒井宏幸さんが指摘する。

「スマホの過度な使用で『スマホ老眼』が進み、新聞や雑誌などの小さな字が読みづらくなる恐れがあります」

私たちの目は、レンズの役割を担う水晶体と、それを取り囲む毛様体筋という筋肉の働きによってピントを合わせている。近くを見るときは毛様体筋を緊張させて水晶体を厚くし、遠くを見るときは逆に毛様体筋を弛緩させて水晶体を薄くすることでピントが合う。

「ところがスマホの小さな画面を近距離から凝視することを長時間続けると、酷使された毛様体筋の機能が落ちて、近くのものにピントを合わせにくくなります。これが『スマホ老眼』の正体です」(荒井さん・以下同)

スマホの保有率は約90%
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加齢による老眼にスマホ老眼が合わさることで目の機能低下が加速し、どこを見てもピントが合いにくいといった深刻な目の症状を招く恐れも指摘される。スマホ特有の「近さ」はさらなる目の障害を招く。

「人の目は、近くのものを見るときに両目とも内側を向く“寄り目”になります。手元のスマホを長時間ずっと見つめると寄り目になったまま筋肉が固まって、目を上げても左右どちらかの眼球が内側に向いたままの『スマホ斜視』になる恐れがあります」

目が内側に向く「内斜視」の場合、視線の向きがバラバラになって、ものが2つに見える「複視」が生じる可能性がある。特に注意したいのは子供だ。

「基本的にスマホ斜視は一時的な症状ですが、子供が患うと筋肉に内向きの癖がついてしまい本格的な内斜視になるリスクがあります。それゆえ、長時間のスマホゲームなどは禁物です」

さらに最近では「スマホ失明」と呼ばれる状態が指摘されている。

「暗いところなどでスマホを見て、ふっと明るいところに目を向けると、目が環境の変化に対応できず、瞬間的にうまく見えない状態になることがあります」

とりわけ寝る前にベッドの中で横向きになってスマホを使用すると、片目だけでスマホ画面を見ることになり、負担が集中した方の目が光に対して感受性が弱くなって、一時的に“失明”したような状態になる。

「この『スマホ失明』は海外では『一時的スマホ盲』と呼ばれる一過性の視力障害です。繰り返し発生するようだと、スマホの使い方を見直す必要があります」

スマホの見すぎが目を疲れさせ「老眼」に
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そもそもスマホ老眼、斜視、失明が生じる背景には、慢性的な「目の疲れ(眼精疲労)」がある。高齢者ほど眼精疲労の影響が出やすいことは多くの人が実感しているだろう。

「水晶体や毛様体筋の機能が落ちた高齢者が若い人と同じようにスマホを使うと、眼精疲労が進んで目の奥の痛みや頭痛、肩こりや吐き気などの症状が引き起こされる可能性があります。背中をかがめてスマホを見るといった姿勢の悪さによっても、血行不良が生じて頭痛や肩こりなどを悪化させるケースがあります」

スマホが発するブルーライトもまた、目に負担をかけている。

「人が目で見ることのできる光の中で、ブルーライトはもっとも強いエネルギーを持ちます。あまりに強いため、角膜や水晶体で吸収されずに網膜まで達してしまう。脳や交感神経を刺激するので、寝る前にスマホを見ると睡眠にも影響が出ると指摘されています」

睡眠の質が低下すれば、疲れがとれないなど日中の活動に影響が出るばかりか、うつや認知症などさまざまな疾患が生じるリスクが増加。単に目が疲れるだけではすまされない。

目だけではなく耳も危険にさらされている。スマホを使って音楽を聴いたり、動画を視聴したりする際、周りの迷惑にならないようヘッドホンやイヤホンを利用すると、聞こえにくさや耳鳴りが生じる「スマホ難聴」になる恐れが指摘されているのだ。

聞こえにくくなると人との会話に消極的になり、引きこもりのような状態になるケースも(写真/PIXTA)
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耳が聞こえにくいと他者とのコミュニケーションが取りづらくなる。すると、外出が億劫になったり、人と会話をする機会が減って認知機能低下につながるなど、難聴と認知症の関連性も危惧されている。一生見える目と同じくらい、「一生聞こえる耳」は健康寿命を延ばすうえで重要だ。スマホを長時間操作し続けることは“寿命を縮めている”ともいえるだろう。

難聴を放置するとボケやすくなる
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※女性セブン2025年5月29日号

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