健康・医療

「押し入れに頭をぶつけて…」「くしゃみで…」高齢者に潜む“予期せぬ死” “知っていれば避けられる”対策を法医学の第一人者が指南

高齢者を襲うまさかの死因例30

実際に多くの高齢者はどんなことで命を落としているのか見ていこう。

【CASE1】押し入れに頭をぶつけて…

頭をぶつけた衝撃で、脳と、脳を包む「硬膜」との間にある「架橋静脈」が切れて出血し、死に至るケース。高齢になると、脳は萎縮するが硬膜は変化しないため、少しの衝撃でも切れやすくなるのだという。怖いのは、自覚症状がないこと。数日後に突然亡くなることが多いそうだ。

押し入れに頭をぶつけた女性
押し入れに頭をぶつけて…(イラスト/はまさきはるこ)
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【CASE2】用水路で…

雨が降り続くと農道にも水がたまり、田んぼと用水路の境が区別できなくなり、転落する。農道すれすれに軽トラックを止め、ドアを開けて降りたとたん、落とし穴のように用水路に転落したケースも。

用水路
用水路で…(イラスト/はまさきはるこ)
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【CASE3】睡眠中に…

睡眠中に突然死した80代の男性。持病もないため解剖すると、左ひじと左脇腹に擦過傷があり、左脇腹の位置にある脾臓が破裂していた。故人は通学路にある交差点で小学生を見守るボランティア活動をしていたが、亡くなる前日の活動中に自転車と衝突したことで脾臓にひずみが及び、後に破裂したものと推測。高齢者は痛みに鈍く、軽傷と思い込んで手遅れになった。

【CASE4】入浴中に…

急激な温度変化で血圧が上下し、脳への血流が低下する「ヒートショック」が起こって意識を失い溺れる。冬場に多いが、夏でも発生している。65才以上の死亡者の大半が、風呂の湯の設定温度が高かったという調査結果も。高齢になると熱さへの感覚が鈍るため、高温で血管が一気に拡張してしまうことも問題。

【CASE5】壁のすき間で…

物置と、その裏にある壁とのすき間に挟まり、胸腹部圧迫による窒息死と診断された高齢女性。何度か徘徊で保護されたことがあり、今回も行方不明の届出が出されていた。

【CASE6】くしゃみで…

予期せぬくしゃみで首に負担がかかり、失神し、転倒・転落・交通事故などで命を落とすことがある。また、ろっ骨も骨折しやすく、そこから呼吸不全や肺炎を引き起こす可能性もある。

【CASE7】葬儀場で…

棺に眠る故人の顔を眺めながら別れを惜しむ間に、遺体の腐敗防止用に設置されたドライアイスが昇華(気体に変わる)し、二酸化炭素中毒で亡くなるケースも。ドライアイスは二酸化炭素を冷却したもので、昇華すると多量の二酸化炭素ガスを発生させる。二酸化炭素濃度が3%程度で呼吸困難を生じ、20%以上だと短時間で死亡する危険性がある。ちなみに、棺の蓋を閉めると内部の二酸化炭素濃度は20分後には30%以上に上昇するそうだ。

葬儀場で…
葬儀場で…(イラスト/はまさきはるこ)
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【CASE8】歯周病で…

歯周病で歯が抜けると、転倒や認知症の発症リスクが高まり、それに伴う死亡事故が起きやすくなる。ちなみに、誤嚥性肺炎を起こす細菌の多くは歯周病の原因菌でもある。

歯周病で…
歯周病で…(イラスト/はまさきはるこ)
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【CASE9】シュノーケリングで…

呼吸法を事前にうまく習得できず、溺れてしまう。スキューバダイビングより手軽なイメージだが、実際は、シュノーケリングの方が事故に遭う人が多いのだそうだ。

シュノーケリングで
シュノーケリングで(イラスト/はまさきはるこ)
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【CASE10】激怒して…

トラブルとなり、相手を怒鳴り散らし、心肺停止になった男性(75才)。あるいは飲食店へのクレーム中に急死した72才の女性。どちらも、死因は高血圧に起因する疾患だった。年とともに血管が硬くなって血圧が上昇し「動脈硬化症」となるが、無症状で進行するため体調には現れない。怒りを爆発させたときに血管が収縮して脈拍が速まり、心筋梗塞やくも膜下出血などを起こすことがある。

激怒して…
激怒して…(イラスト/はまさきはるこ)
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【CASE11】栄養ドリンクと間違えて農薬を飲み中毒死する

【CASE12】無理に車道を渡り、車やオートバイに衝突する

【CASE13】熱いお茶を日常的に飲み、食道がんや誤嚥性肺炎に

【CASE14】のみ忘れた薬をまとめてのみ、薬物中毒に

【CASE15】トイレでいきみ、脳の動脈瘤が破裂

【CASE16】こたつで寝てしまい、血管が詰まって心筋梗塞や脳梗塞に

【CASE17】登山で滑落、熱中症、低体温症、落雷などの被害に

【CASE18】ゴルフ中に運転操作を誤ってカートの下敷きに

【CASE19】庭仕事中のチェーンソー操作で手足の動脈を損傷

【CASE20】サウナでくも膜下出血や脳梗塞、心筋梗塞に

【CASE21】毒性のある野草「イヌサフラン」を誤食し、多臓器不全に

【CASE22】愛犬にかまれて、鳩のフンで…ペットの細菌で感染死

【CASE23】左肩の痛みで整形外科に行ったら、実は心筋梗塞だった

【CASE24】睡眠薬の副作用で「覚醒」や「せん妄」が続き、昏睡状態に

【CASE25】慣れない代車に乗り、ペダルの位置を間違えて壁に激突

【CASE26】風邪をこじらせて重篤な肺炎に進行

【CASE27】ゴミ屋敷の中、熱中症や低体温症で死に至る

【CASE28】災害の避難で…

2011年の東日本大震災は、関連死を含め2万人超が死亡。遺体の検案を行う中、多額の現金や預金通帳、有価証券を持った高齢者の遺体が多かったという。「準備に手まどい、逃げ遅れてしまった可能性が高い」(高木さん)。

災害の避難で…
災害の避難で…(イラスト/はまさきはるこ)
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【CASE29】仏壇の火で…

仏壇に置いたろうそくが倒れ、消火に奔走する間に熱気を帯びた煙を間近で吸ってのどの奥が焼け、窒息のような状態で死亡。まれに、ろうそくに火をつけた直後に心臓や脳の病気を発症して気を失い、ろうそくを倒して火災を招いたというケースもある。

仏壇の火で…
仏壇の火で…(イラスト/はまさきはるこ)
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【CASE30】パンを食べて…

パンをのどに詰まらせ、誤嚥(食べ物が、食道でなく気道に入り込むこと)により窒息死するケース。パンは繊維質のため、噛み砕かずに飲み込むと気道の中でスポンジのように膨らみ、気道をふさいでしまう。のどに詰まりやすい食品といえば餅が有名だが、噛む力が低下した高齢者にとっては、パンも同じくらい危険度が高い食べ物なのだ。

パンを食べて…
パンを食べて…(イラスト/はまさきはるこ)
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◆法医学者・高木徹也さん

東北医科薬科大学教授。高齢者に特徴的な死因などを研究。不審遺体の解剖数は5000件を超え、数々のドラマや映画の法医学・医療監修を行う。近著『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)が話題に。

取材・文/佐藤有栄

※女性セブン2025年6月19日号