
人生100年時代──世界トップレベルの長寿化が進行する日本では、とりまく環境も経済状況も昔と様変わりして「60才を過ぎたら毎日が休日の悠々自適な生活」は、夢のまた夢となった。長生きに伴い、生活の基盤である「家庭」を顧みると、夫婦が一緒に過ごす時間はますます長くなっている。悠々自適が“幻”となったいま、定年後に夫婦が歩く長い道のりには、どんな苦労と困難が待っているのだろうか。妻たちのリアルボイスを取材した。【全3回の第2回。第1回を読む】
共働きでも家事も育児も負担は妻に…積年の恨みが「熟年離婚」に
女性の社会進出が進み、夫婦のおよそ7割が共働きとされる現在、定年後の夫に抱く不満も様変わりしてきている。夫の定年だけでなく、妻が定年まで勤めあげるケースも増えるなか、共働き夫婦の関係はどうなるのか。『灰になったら夫婦円満』の著者で、エッセイストで作家の小川有里さんが語る。
「夫が先に定年になった場合は、比較的トラブルが少ないといえます。年上の夫が定年になっても妻が勤めているケースでは、妻は忙しいから夫に構っていられず、家では夫が自分で食事を作らざるをえず、家事もこなすことが多い。
そもそも、現役時代から共働きですからそれなりに家事もできないわけではない。現に私の知っている夫婦は3食ともバラバラで、お互いに好きな時間に好きな場所で好きなものを食べています。働く妻と家にいる夫が自由に生活するのでトラブルになりにくいようです」
しかし共働きの妻は、専業主婦よりも夫への恨みが募ることがある。『夫に死んでほしい妻たち』の著者で、労働経済ジャーナリストの小林美希さんが語る。
「専業主婦の場合、定年後の夫が家にいるのは家庭に“異物”が混入した感じで、夫に対する邪魔者感が増します。他方、共働きで定年まで勤めた妻は仕事の忙しさに加えて、現役時代に家事や育児でワンオペを強いられて多大な負担を担っていたケースが年代的に多い。仕事と家庭をひとりで両立してきた女性ほど、積年の恨みを夫に抱きやすいと考えられます」
定年を迎えた共働きの妻が「家で夫と一緒にいる時間が増えてうれしい」と喜び、逆に夫が「家にいる妻が邪魔だ」と秘かに感じることはないのだろうか。小川さんは「皆無です」とピシャリと答える。
「私の知る限り、そんな事例は聞いたことがない。定年を迎えてから、夫と長い時間ひとつ屋根の下で過ごすことが妻にとってはとにかく鬱陶しく、うれしがるなんてもってのほか。
夫と仲よくする気など起きず、“早くあっちの世界(あの世)に行ってほしい”と願う妻ならたくさんいます。定年後は、共働き夫婦こそ不仲が加速度的に進みやすいともいえます」(小川さん)

不仲になるだけでは収まらず、共働きで経済力のある妻が「熟年離婚」を選ぶこともあるという。
「定年前後はちょうど子供が独立する時期でもあり、働いていてお金がある妻は、第二の人生を送ることが選択肢のひとつになります。しかも外で働く女性には出会いの機会が結構あるので、婚外恋愛やセカンドパートナーとの“最後の恋”に走る人も。彼女たちは働いている最中から着々と準備を重ねて、定年後に“独立して夫と別れる”という最後のゴールに向かいます。
離婚という選択肢のほかにも、家をリフォームして家庭内別居をしたり、夫婦が別の場所に住むなどのバリエーションがある。いまは“夫を捨てる”という決断を下す女性が増えていますから、威張って『おい、お茶』なんていう夫ほど痛い目を見るかもしれません」(小林さん)
しかし悲しいかな、そんな妻の本心を知らず、定年後に何の疑念も持たず、妻との二人三脚を求める夫が少なくないという。
「夫にとっては妻が家にいたら便利ですから。また、定年後、妻と仲よくしたくて、家にずっといてほしいと素朴に願う夫がたくさんいます。散歩するのにも必ず妻を誘い、妻と一緒でないと嫌だという夫は結構いますよ」(小川さん)