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妻を悩ませる「定年夫が家にいる」問題、どう解決すればいいのか? 脳科学者が解説「男性の脳は“定番”で安定化」、妻のルーティンを夫に定番として植え付けることが重要

夫の定年で夫婦で暮らす時間が増えると、それが苦痛に感じる妻も少なくない(写真/イメージマート)
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数十年の間、1日の中で一緒にいる時間はほんの数時間。互いが空気のような存在になってきたところで始まったのは「夫が24時間、家にいる」という地獄。生活リズムも人間関係も、食の趣味さえもまったく違えてしまった“おじさん”と、どう暮らせばいいか──。妻たちのリアルボイスと、それでも前向きに生きていくための術を取材した。【全3回の第3回。第1回を読む

世界トップレベルの長寿化が進行する日本では、とりまく環境も経済状況も昔と様変わりして「60才を過ぎたら毎日が休日の悠々自適な生活」は、夢のまた夢となった。長生きに伴い、生活の基盤である「家庭」を顧みると、夫婦が一緒に過ごす時間はますます長くなっている。夫の定年で夫婦で暮らす時間が増えたはいいが、それが苦痛に感じる妻も少なくないだろう。そんな妻たちのリアルボイスと、それでも前向きに生きていくための術を取材した。

男性脳は「定番」「ルーティン」で安定する

定年後の地獄を回避するにはどうすればいいか。私たちだって、できれば夫に不満は持ちたくないし、心穏やかに過ごしたいのだ。

まず大切なのは、夫の認識を改めさせること。これは男性の脳の仕組みを理解することで仕向けやすくなる。ベストセラーになった『妻のトリセツ』の著者で、脳科学・人工知能研究者の黒川伊保子さんが話す。

「たいていの夫は『妻は家にいるもの』と認識しています。男性の脳はこうした『定番』を求める性質があるので、まずは地域のボランティアや趣味のサークルといった『定番の外出先』を作り、夫に『これからは◯◯の活動をするので外出が増えます』と静かに伝えることが大事です。

妻の外出先の新たな定番に夫が慣れれば、その後に外出先を増やしても受け入れてもらえます」(黒川さん・以下同)

伸びをする女性
自分のルーティンを夫に定番として植え付けていくことが重要になる(写真/PIXTA)
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夫が妻の行動を把握したがることに腹を立てるのにも、まずはがまん。

「男性は定番、ルーティンがあることで脳が安定します。その安定を求めているだけであって、妻の行動を制限したいわけではない。ましてや妻を家政婦扱いしたいわけでもないんです。

最初が肝心ですから、自分のルーティンをしっかり夫に定番として植え付けてみましょう。また、男性は“ゴールが見えていること”で安心します。何時に帰るのか、食事は済ませてくるのか、明確に伝えることで夫自身も自分の立ち位置やすべきことが把握しやすくなるのです」

『灰になったら夫婦円満』の著者で、エッセイストで作家の小川有里さんも「妻が自分の希望をはっきりと伝える」ことが重要だと説く。

「食事の支度や家事が大変なら、『あなたは元気で時間があるから、お昼だけは自分で作って』『ゴミ出しをお願い』などとはっきり伝えることが大事です。場合によっては『あなたが定年になるまで家事や育児で家庭を守ってきたのは私です』と強調すれば、たいていの夫は従います。それくらい強気に出ないと、いつまでも地獄が続いて精神衛生上よくありません」

妻が精神的に自立することが大切

夫を変えるだけでなく、妻が準備を重ねることも欠かせない。夫婦問題コンサルタントでファイナンシャルプランナーの寺門美和子さんは「定年後はお金とのつきあい方が大事」と話す。

「60代で定年を迎えると収入が大幅に減る分、子供の手が離れるなどで支出も減ります。ただし70代、80代は病気の治療や介護などの支出が積み重なるので、収支のシミュレーションは重要でしょう。お金が足りない人は60代前半が投資のラストチャンスかもしれません。

また、夫が定年後に家にいると妻のお金の使い方も目につくようになり友達とのランチ代など細かいお金が原因で不仲になるので、元気なうちに夫婦で使い方を決めることも大切です。投資だけでなく自宅のリフォームや家の整理、予防医療にお金を投じるなど、夫婦のライフプランに沿ったお金の使い方が必須です」

最も大切なのは、妻が精神的に自立することだろう。

「夫に合わせて、夫の望むように生きるのではなく、自分のために生きがいを持って生きてほしい。趣味やボランティアに没頭してもいいし、推し活でイキイキするのもいい。

私の知る80代の女性はオペラ歌手の推し活をして、うれしそうにコンサートに行ったり音楽を聴いたりしています。推し活をすることで、見た目やファッションにも気を使うようになるし、仲間もできて一緒に楽しめます。定年後の人生を充実させるには、夫への不満に向かうエネルギーを、別の楽しいことに振り向けることが求められます」(寺門さん)

黒川さんも言う。

「共通の趣味をひとつ、互いにまったく違う趣味をひとつずつ持つと、会話や生活リズムが自然と円滑になりますよ」

結婚、夫婦70年時代を最後まで穏やかに笑顔で過ごすために、傾向と対策をいまから学んでおきたい。

夫婦生活の折り返しから先の人生を、天国にするのも地獄にするのも妻次第だ。

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(了。第1回から読む

※女性セブン2025年7月17日号

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