《人間国宝の今》深刻な後継者問題「海外のハイブランドの方が日本の伝統文化を高評価」「切っても切り離せない“血筋”」 文化庁も「しっかりと取り組んでまいります」

吉沢亮(31才)と横浜流星(28才)が出演する映画『国宝』にヒットで注目が集まる「人間国宝」。現在、日本には100人を超える人間国宝が存在するが、課題も少なくない。人間国宝の今に迫る。【全3回の第3回】
親と絶縁して師匠の子になる
近年、地方での伝統文化の後継者問題は深刻だ。人間国宝の工芸作家たち30人を取材し、『人間国宝という生き方』を上梓したライターの渡辺紀子さんはこう話す。
「工芸の世界でも外国人が跡を継ぐケースがありますが、われわれが自国の伝統文化のすばらしさを理解し、リスペクトすることが大事だと思います。いまはむしろ海外のハイブランドが日本の伝統文化やその唯一無二のクオリティーの高さに注目し、ファッションやジュエリー、車などに取り入れています。
本来、日本の大事な文化や伝統を守るのは国の役目のはずです。国として、さらなるサポートをしていただきたいなと思います。なにしろ、国の宝なんですから」
文化庁も後継者問題が喫緊の課題であることを認め、こうコメントする。
「急激な少子高齢化が進行するなかにあって、後継者の育成や伝承体制の確保は、わが国のすべての無形文化財に共通する課題といえます。文化庁としては、さまざまな施策を通じ、わが国の無形文化財が、着実に次世代以降に継承されていくよう、しっかりと取り組んでまいります」(文化庁担当者)
後継者問題でいえば、伝統文化では親から子へと「わざ」が伝承されることが多い。ただ、工芸においてはケース・バイ・ケースという。渡辺さんは、今泉今右衛門さんの話を聞いて、「代々続く家業とはこういうものか」と驚いたという。

「色鍋島で知られる有田の今泉家は、江戸時代から代々続く名家。2002年に襲名した十四代今右衛門さん(62才)は、子供の頃から、いちばん大事なのはお客様、次に大事なのは職人さん、家族は3番目、4番目と言われて育ちます。そして、いちばんのごちそうが食べられるのは窯焚きの日だったそうなので、徹底していますよね。
高校生のとき、父親から“兄弟2人で1年かけて、作る方か売る方か決めろ”と言われます。結局、兄は商売をとり、弟が陶芸家になることに決まりました。これは父親も同様だったそうで、兄弟で家を盛り上げるための伝統なんでしょうね。“十四代の名に恥じぬものを”と、その重圧はとてつもなかったと思います。代々の名跡を受け継ぐこと、親が人間国宝ならば、なおのこと、自分に向けられる期待も大きいに違いありません」(渡辺さん)
「血筋」も伝統文化には切っても切り離せない問題だ。
映画『国宝』では血縁のない主人公が師匠の名跡を継いだが、映画を鑑賞した多くの人が「とはいっても、歌舞伎は技術より血筋でしょ」とSNSに書き込んだ。『歌舞伎 家と血と藝』の著者で作家の中川右介さんは「確かに歌舞伎は血筋優先です」と語る。
「現実でも、“人間国宝の坂東玉三郎(75才)は歌舞伎の家柄ではない”との反論がありますが、彼は幼少の頃に十四代目守田勘弥の養子になり、14才で五代目玉三郎を襲名しました。
血を継いでいない場合は、実の親と絶縁して戸籍上も師匠の子になり、良家の“家”の後継者とならなければ、いい役はもらえません。養子にならなければ、玉三郎が人間国宝になることはなかったでしょう」
無形の人間であるがゆえに多くの喜びと苦悩に包まれる人間国宝。大切な宝の輝きは、まずは私たちが知ることで絶やさずにつないでいきたい。
(了。第1回を読む)
※女性セブン2025年7月24日号