
好きな場所に行き、見たいものを見て、食べたいグルメを堪能し、自分のペースで楽しめるひとり旅。デビューしてみたい!という人は多いが、初めては何かと不安もつきもの。4人のエキスパートにひとり旅の極意を聞いた。
旅を楽しむなら断然ひとりがいい
50~60代を対象に、「60才から始めたこと」を聞いた本誌アンケートでは、「夫が逝去したのをきっかけに、なんでも自分でできるようになろうとひとり旅を始め、ポジティブで健康になりました」(63才・女性)など、ひとり旅を始めた人が多かった。旅行ジャーナリストの村田和子さんは、「40〜50代以上の女性に、ひとり旅をする人が増えています」と言う。
「子育てがひと段落し、自分の時間を持てる時期なのに、夫婦で旅行に出かけると自宅の延長のような感じになってしまう。また、久しぶりに友人と一緒に出かけてみると、どうしてもコミュニケーションを深めることに意識が向きがちで旅自体を楽しめない。その点、ひとり旅は自分にすべての決定権があるため、したいこと、見たいものに集中でき、旅そのものを楽しむことができるんです。仕事や介護の合間にひとり旅に出てリフレッシュしている人も少なくありません」(村田さん・以下同)
初めてひとり旅に出る場合は不安になるが、「とにかく怖がらずに、始めることが大事」と村田さんは続ける。
「『ひとりは寂しい』と思うかたもいますが、最近は『おひとりさま』専用ツアーも日帰りバスから海外まで充実しています。全員がひとり参加なら心強く、疎外感もないし、新しい友達もできるかもしれません」
今年こそ「行ってみたい!」と思ったあなた、何から準備すべきか見ていきましょう。

旅のテーマを決まる
まずは、自分が何をしたいのか、はっきりとテーマを決めることが重要だ。村田さんが解説する。
「ひとり旅に不慣れだと、あれもこれもしたいことが散漫になりがちです。たとえば、『○○県に地ビールを飲みに行く』『アートを巡る旅がしたい』などとしたいことを書き出し、その中から、いちばんしたいことを1つ選び、テーマを決めます。テーマが決まれば行き先や予算、移動手段などを絞り込むことができますよ」

ひとり旅で何をすべきか迷ったときは、「ざっくりでもテーマや目的を決めることから考えてみて」と、おひとりプロデューサーのまろさんは話す。
「美術館に行く、気になっていたお店に行くなど明確な目的があるとプラン立てしやすくなると思いますが、そこまで明確な目的地やテーマが思い浮かばない場合は、『街歩きをするかしないか』だけ決めてみるのもいいかもしれません。逆に、あえて『何もしないで過ごす』という選択ができるのも、ひとり旅ならでは。温泉でお湯につかってぼんやりする、景色を眺めるだけの時間も贅沢。毎日忙しい人にこそおすすめです。誰の許諾も得ずに、自分のやりたいことをやりつくせるのはひとり旅の特権ですよ」(まろさん)

何をしたいかで予算を振り分ける
旅のテーマを決めたら次は予算。大事なのはメリハリだと言う。
「たとえば、『今回は宿で楽しむ』と決めたら、宿泊料金は高くても妥協せず、ほかの交通費や観光は優先順位を決め、それぞれの予算内に収まるように計画を立てていきます」(村田さん)
行き慣れた場所から始める
ひとり旅は自分のペースで自由に楽しめる場所を選ぶといいが、ひとり旅デビューの場合、「行ったことのない場所よりも、何度か訪れたことがある場所の方が安心できる」とまろさんは言う。
「土地勘があれば効率よくまわれて行動しやすく、旅もスムーズに進みます。以前行ったことがある場所に2度3度と足を運ぶことで、ひとり旅ならではの景色に出会えるはずです」(まろさん・以下同)
新婚旅行や修学旅行で行った場所を再び訪れるのもいい。
また、日程に融通がきくなら混雑を避ける「ずらし旅」もおすすめだ。
「お盆のシーズンであれば、帰省する人やリゾート地へ出かける人が多いため、実は東京のホテルも比較的取りやすいんです。平日に自宅の近所のホテルに泊まるだけでも、立派なひとり旅になりますよ」
負担の少ない移動手段を選ぶ
ひとり旅は公共交通機関をメインにして計画するのが基本。特に初心者は鉄道や飛行機を使った方が安心だ。宿や観光地も駅や空港からのアクセスがいい場所を選ぶと負担が少ない。

「レンタカーを借りて車を運転して行くようなところは、初心者のひとり旅にはハードルが高いでしょう。特に中高年は、移動だけで疲れてしまうと旅そのものが楽しめなくなるので、アクセスは大事です」(村田さん・以下同)
まずはおひとりさまツアーを利用してみる
何もかもひとりで計画して行動するのが不安な人は、おひとりさま限定ツアーに参加しよう。
「添乗員付きのツアーもあります。添乗員がいるとトラブルなどに対処してもらえて安心です」
日帰りバスツアーから慣らすのもいい。

安心、安全、快適に楽しむために!ひとり旅におすすめの宿
ひとり旅を安心、安全、快適に楽しむために宿選びは重要。まろさんが、ホテル選びのコツやおすすめを伝授する。
最近はおひとりさま向けの宿も増えており、宿泊だけで楽しむことを目的とした宿泊施設も登場している。まろさんが解説する。
「何も考えずに、泊まるだけで楽しめるホテルが増えています。ひとり向けのプランや専用部屋も多いですよ」(まろさん・以下同)
中には自分の趣味や、やりたいことに特化した部屋やプランを用意しているところもあります。
「神奈川県川崎市にある『スラッシュ川崎』のように、全室に80インチの大型プロジェクターを完備し、好きな動画を見られるホテルもあります。
ほかにも睡眠に特化し、快眠できる客室設備や寝具にこだわったホテルもあります。暑い時期は移動の少ない駅近に宿泊すれば、天候にも左右されずストレスなく過ごせます」
朝ドラの舞台でよさこいを体験「OMO7高知 by 星野リゾート」

連続テレビ小説『あんぱん』(NHK)の舞台でもある高知の“よさこい”など、ご当地の文化をホテル内で体験できる。
[住所] 高知県高知市九反田9-15
[予算]1泊2万6500円(夕朝食付き)〜
ホテル近くで旅の"すべて"が完結する「JR東日本ホテルメッツ プレミア 五反田」

JR山手線の五反田駅に直結し、移動にも便利。ホテル近くにレストランやショッピング施設があるので1日楽しく過ごせる。
[住所]東京都品川区東五反田1-26-3
[予算]1泊1万8900円(朝食付き)~
五感を刺激するアートホテル「白井屋ホテル」

建築家の藤本壮介氏が手がけた建物や、アルゼンチン生まれの芸術家であるレアンドロ・エルリッヒによる光のアートなど世界的クリエーターの作品がホテルで楽しめる。
[住所]群馬県前橋市本町2-2-15
[予算]1泊3万4200円(素泊まり)〜。
五島の景色をひとり占め「カラリト五島列島」

おひとりさま専用の部屋にあるテラスからは海が一望できる。リクライニングチェアが設置され、波の音を聞きながら読書を楽しむのも◎。
[住所]長崎県五島市浜町546-2
[予算]1泊1万4000円(素泊まり)〜
持ち物は最小限にするのがひとり旅の鉄則!
ひとり旅では「とにかく荷物を減らすこと」とすすめるのは、ひとり旅活性化委員会主宰の山田静さん。
「スマホ、充電、海外ならパスポートは必需品。それ以外に常備薬などの『ないと命にかかわる』もの、マスクやぬいぐるみなど自分にとって必要なものを優先します。いまはスマホがあればなんでもできますが、通信状況によりつながらないこともあるので、飛行機や列車、宿泊の予約情報などは出力した紙を持参しましょう」(山田さん)


旅先での過ごし方は? 自由だからこそ自分なりのルールを
ひとり旅はどう過ごしても自由。だからこそ自分なりのルールを決めておこう。
50才から本格的なひとり旅を始めた料理家でエッセイストの山脇りこさんは、旅先で楽しく過ごすためのルールを設けているという。
「1つ目は、無理しない、無謀な冒険はしないこと。私は1〜2か所目的地に出かけたら、その後はそこに暮らしているように、のんびり街歩きを楽しみます。ただ、ひとりだとついつい歩き続けてしまい、実は気づかないうちに疲れていることも多いので、カフェや公園などで早めに休むようにしています」(山脇さん・以下同)

旅先で過ごす服にもこだわりがあるという。
「旅には、とにかくそのとき、自分がいちばん好きな服を着ていきます。お気に入りはテンションを上げてくれ、私を応援してくれると感じるので、初めて行くお店や宿などに物おじせずに行ける気がします」
さらに、山脇さんが旅のルーティンにしているのが朝のランニングだ。
「旅先では必ず早起きして走ります。朝、街を走っていると、そこで暮らしているような気分になれます。それに、『こんなところに素敵なお店がある』『このお店は店構えからしておいしそう』などの発見もあります。ランニングだけでなく、朝の散歩でも充分楽しめますよ」

地元のグルメは、ランチで楽しむ
自由気ままなひとり旅を楽しむ中で、困る人が多いのが、ひとりでの食事だ。
「ひとりって誰も見ていないのに、人目が気になったり、私は“ビビり”の性格もあり、ひとりでお店に入る勇気がないときもあります。そんなときは、デパ地下でご当地の総菜や地酒を買って、ホテルで食べます。
どちらかというと、夜より昼の方がお店に入りやすいので、どうしても行きたいお店はランチでトライするのもおすすめです。
夕食はカウンターがあるお店を選び、早めの時間に行って、お店が盛り上がる頃には帰るようにしています」
また、山脇さんは旅先で絵はがきを買い、自分や家族宛てに書いて送る習慣も。
「ひとりで旅をしているといろんなことに気づくので、それを絵はがきに書いて自分宛てに送ります。また、家族への感謝の気持ちも改めて伝えたくなるので、手紙にしたためて送るようにしています」
旅の思い出は「旅ノート」に
山田さんは、旅の思い出を「旅ノート」に残すという。
「旅先で行った美術館のチケットやレストランのショップカードなどをセロハンテープでノートにペタペタと貼っています。
ホテルのスタッフや現地の人に書いてもらったメモなどもノートに貼ります。
特に海外では、国ごとに数字の書き方も違って面白いんです。メモを見直せば、現地の人とのやりとりがリアルに思い出せていいですよ」(山田さん・以下同)

海外の場合、英語ができないなどの言葉の壁で、「現地の人と話すなんて無理!」と思いがちだ。
「最近は翻訳アプリの性能もいいので、英語圏以外でも簡単にコミュニケーションをとることができます。『Google翻訳アプリ』を使えば画像に書かれた文字を翻訳することもできて、美術館の説明を日本語で読むことも可能です」
旅先で現地の人とコミュニケーションをとるのも旅の楽しみの1つだが、「身を守ることも忘れないでほしい」と山田さんは続ける。
「当たり前のことですが、国内外問わず深夜ひとりで歩かないこと。海外で日本語で話しかけられても、ついていかないことです。
旅先では気持ちが大きくなって思わぬトラブルに巻き込まれることも少なくありません。貴重品を離さないことも含めて、用心することを忘れないで」

安全に配慮すれば、ひとり旅は怖くない。この夏、思い切って自分時間を楽しむ旅に出てみませんか?
◆旅行ジャーナリスト・村田和子さん
旅にまつわるさまざまな情報を雑誌やWebで発信。「女性セブンプラス」でも執筆している。
◆おひとりプロデューサー・まろさん
ひとり時間をテーマにさまざまなメディアで活動。著書に『おひとりホテルガイド』(朝日新聞出版)など。
◆ライター&編集者・山田静さん
女子旅を元気にしたいと1999年に「ひとり旅活性化委員会」を結成。著書に『決定版女ひとり旅読本』(双葉社)ほか。
◆料理家・エッセイスト・山脇りこさん
食や旅のエッセイを執筆。著書『50歳からのごきげんひとり旅』(だいわ文庫)が13万部のベストセラーに。
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2025年7月31日・8月7日号