ライフ

【名医が明かす理想の最期】ポイントは「健康寿命が終わってからいかに“いい時間”を過ごせるか」、“事前のプランニング”や“大切な人に想いを伝えること”も重要

死までの旅路が大切だと語る医療法人社団焔理事長の安井佑さん
写真2枚

人はみな、いつかは命が尽きる日がくる。それはいつなのか、どこでなのかは誰にもわからない。常に生と死の間にいる私たちが思うのは「元気に長生きしたい」ということと同時に、「後悔のないように死にたい」「苦しまずに死にたい」という願いだろう。患者に寄り添い、最期を看取り、いくつもの「死」に触れてきた名医が思う理想の最期と、その迎え方を聞いた。

「多くの人は、息を引き取る瞬間やその数日前までを“最期”と考えがちですが、私の見方は違います」

と語るのは、医療法人社団焔理事長の安井佑さん(45才)。在宅医としての長年の経験から「死までの旅路」が大切だと話す。

「健康寿命が終わり、認知症やフレイルが始まってから死を迎えるまでが最期の期間であり、“死までの旅路”です。あまり認識されていませんが、健康的に暮らせないこの期間を実は多くの人が経験します。この過程でいかに『いい時間』を過ごすかが、理想の最期を迎えるポイントです」(安井さん・以下同)

安井さんが説く「いい時間」には2つの条件がある。

「どうすれば『いい時間』になるかは人によって異なりますが、多くのかたを在宅で看取った経験からいえば、まずは大切な人たちとお互いの思っていることを伝え合うこと。加えて、どのような最期を迎えたいか自分で決めることがすごく大切だと思います」

死に至るまでを「プランニング」する

人はどんな病気にかかるかを選べないため、理想の最期を迎えるには事前の「プランニング」も重要だ。

「結婚する際は、どんな結婚式にするか複数のプランを立てますよね。最期の迎え方も同じです。健康でなくなってから死に至るまでの期間をどう過ごすかをプランニングすることが大切。最期の期間を誰と一緒に過ごしたいのか、その人たちにどのくらい負担をかけるのか、そこでどれだけやりたいことをできるのか──そのためには施設と在宅のどちらがいいのか、どれくらいの医療行為を受けるべきかなど、各段階におけるプランを具体的にシミュレーションすることが欠かせません」

死までの旅路では、大切な人に「想い」を伝えることも忘れてはならない。

「最期まで面倒を見てくれる人は本人が亡くなった後も生き続けます。だからこそ伝えたいことを伝えておくことが大切です。ずっと妻に文句ばかりだった夫が最期の期間に『お前と一緒になれてよかった』と伝えれば、妻は残りの人生を幸せに過ごせるでしょう。感動的なせりふでなくても、本当の気持ちを伝えることがいい最期につながります。伝える相手は家族でなくてもよく、友人や近所の人というケースも実際に多くあります」

死ぬ場所は家でも施設でもいい

安井さん自身、理想の最期に向けたプランニングを実践している。

「ぼく自身、自分らしく死ぬということに関して疑問は持っていません。がんになるか認知症になるかはわかりませんが、それぞれの病気になったときに最期を迎えるまで、どこでどういう時間を誰と過ごすかをシミュレーションしています。

4才年下の妻が生きていれば妻と過ごしたいですし、もしものことが起こっていたら子供たちとどう過ごすか。認知症になった場合も、まだらの間はある程度、自分の家で生活できる。そこに公のサポートを入れるでしょう。子供たちのことすらわからなくなってしまったら、もう施設に入れてくれっていうのは書いていくと思いますし、その先は、もう医療行為は一切しなくていいという意思を示しておく。

がんで余命がわかったなら、若ければ限りなく最期のときまで仕事をするでしょうし、それが80才なら子供や孫、友人たちとの時間を楽しみながら、最期を家で迎えるという環境設定を整えます」

「死」について考え、それまでの“いい時間”をどう過ごすかパートナーや医師と相談しよう(写真/PIXTA)
写真2枚

安井さんは、「どんな病気になっても最期の瞬間を迎えるまで、妻と『いい時間』を過ごすつもりです」として、こう続ける。

「大事なのは死に至るまでの旅路を大切な人とどう過ごすかで、死ぬ場所は家でも施設でも構いません」

プランニングをするうえでやっておくべきヒントがある。

「『自分にとっての“いい時間”とは何か』を、いまのうちから考えてみるといいと思います」

【プロフィール】
安井佑/東京大学医学部を卒業後、ミャンマーで国際医療支援に従事。杏林大学病院、東京西徳洲会病院での勤務を経て、2013年に東京都板橋区に在宅医療専門クリニック「やまと診療所」を開業。

※女性セブン2025年7月31日・8月7日号

関連キーワード