
酸素や栄養素を細胞に供給し、老廃物を回収する役割などを担う血管。その血管の“年齢”は寿命や健康を左右するが、若さを保つために必要なのは、薬でも激しい運動でもないという。ちょっとした生活習慣の見直しをするだけでいいのだ。誰でもいますぐ実践できる血管年齢を若返らせる方法を名医に聞いた。
血管年齢は健康状態を表す重要なバロメーター
「人は血管とともに老いる」といわれるように、血管年齢は健康状態を表す重要なバロメーターだ。シミやしわとは異なり目には見えないからこそ血管の老化は実感しづらいが、放置すると死に直結する。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信さんはこう話す。
「若い血管は柔らかく弾力があってしなやかですが、老化した血管は硬くなります。詰まったり破れたりしやすくなるため、放っておくと心筋梗塞や脳梗塞など命にかかわる病気につながります」
年齢とともに血管も衰えてしまうから仕方がない…と諦めるのはまだ早い。東丸さんが続ける。
「血管の老化の原因は加齢だけとは限りません。血管を傷める生活習慣を続けることで老化が進んでしまうのです」
冷たい飲み物で血管が縮む
どんな生活習慣が血管の老化を招くのか。日本歯科大学客員教授で高血圧専門医の渡辺尚彦さんは、「夏場ならではの生活習慣が、血管を老化させるリスクがある」と話す。
「冷房や冷たい飲み物が欠かせない日々が続いていますが、例えば冷たい飲み物を一気飲みすると、食道のすぐ裏側にある心臓が急激に冷やされるため心臓を養う血管が縮み、血圧の上昇や胸痛を起こすことがあります。同様に暑いところから冷房のきいた室内に入り、急に体を冷やすことでも血圧は上がる。こうした血圧の急上昇を繰り返す生活習慣は血管を酷使するため、血管の老化を早めます」
動脈は全身に血液を運ぶ役割を担い、心臓から送り出された血液が途中で詰まったりしないよう、しなやかにできている。その動脈が硬くなると命取りだ。
「動脈硬化が進むと脂質などを含むプラークと呼ばれる塊ができ、血管の壁が厚くなって、血栓ができやすくなる。血管が狭くなると、血液の流れが悪くなります。心臓の冠動脈が狭くなると血液や酸素が心臓に行き渡らなくなって狭心症が生じ、血栓ができて完全に詰まれば心筋梗塞を招く。同じことが脳で起これば脳梗塞になります」(東丸さん)
そんな事態を招かないためにはどうすればいいのか。名医たちいわく、日常生活のなかで無理することなく血管年齢を若返らせる方法があるという。

血管が硬く狭くなると、より高い圧力をかけなければ血液が隅々まで行き渡らなくなる。この状態が高血圧で、高血圧が続くとさらに血管が傷みやすくなるという悪循環に陥ってしまう。
「降圧剤を使えばたしかに血圧は下がりますが、根本的な解決にはなりません」
そう指摘するのは、大阪公立大学名誉教授で健康科学研究所・現代適塾塾長の井上正康さんだ。
「血圧の数値だけであれば薬で下げることが可能ですが、薬で血管年齢を若返らせることはできません。高血圧も動脈硬化も生活習慣病ですから、生活習慣を改善するのが基本です」
大さじ1杯のお酢で血管が拡張する
薬に頼らず、まず見直したいのは食生活だ。
「過度な塩分摂取は血圧を上げます。ほうれん草やにんじんに含まれるカリウムは塩分を排出する働きがあるのでおすすめです。また、トマト、かぼちゃなどの緑黄色野菜には、細胞を傷つける活性酸素を抑える抗酸化作用があります。ほかにも、小松菜やブロッコリーなど葉酸を含む野菜は高血圧予防に効果的です」(東丸さん)
悪玉コレステロールを増やさないこと、血液をサラサラにすることも血管を健康に保つ大切なポイントだ。東丸さんが続ける。
「バターやマーガリン、加工肉の脂身などに含まれる飽和脂肪酸は悪玉コレステロールを増やし、動脈硬化を進めるので摂りすぎは禁物です。一方で、オリーブオイルや魚油、えごま油、あまに油など、不飽和脂肪酸を含む油は悪玉コレステロールや中性脂肪を減らし、血液をサラサラにしてくれます。お酒ならポリフェノールが豊富な赤ワインがおすすめです」
渡辺さんは「1日大さじ1杯のお酢を飲むだけで、血圧を下げることができる」とアドバイスする。
「お酢を飲むと血管を拡張させるアデノシンという物質が増えるため血圧が下がります。効果が得られるタイミングは人によって異なるため、飲んだ後の血圧の変化を確認して、自分にとって最適なタイミングを見つけるといいでしょう」(渡辺さん・以下同)
血管に負担をかけないよう、食べる順番にも気をつけたい。
「空腹時にご飯やパンなどの糖質を先に摂ると、血糖値の急上昇により、“食後低血圧”が起こる可能性があります。野菜を先に食べるようにしましょう。逆に、血圧の下がりすぎを予防するためカフェイン摂取も効果的。食後にお茶やコーヒーを飲むのもいいですね」
肥満による高血圧や糖尿病を防ぐには、食べすぎも控えよう。
「食べる量は腹六分目から八分目が適量です。夕食は夜8時までにはすませて。1日3食も食べる必要はなく、1日2食で充分です」(井上さん)
血管に影響を与えるのは食生活だけではない。東丸さんはスマートフォンやパソコンの使いすぎに注意を促す。

「スマートフォンやパソコンを長時間使用すると興奮や刺激で交感神経が亢進し、血管が収縮して血圧が上がります。世俗的なことから離れてリラックスする時間を持つようにしてください。ゆっくり深呼吸をする時間を作るだけでも体の緊張を緩め、血管をストレスから解放することができます。睡眠は7時間前後、眠くなったら30分以内の短い昼寝をするのが理想的です」(東丸さん・以下同)
これだけ暑いとついシャワーだけですませたくなるが、しっかり湯船につかることも心がけたい。
「週に5日以上、38~42℃のお湯に5~20分つかるようにしましょう。ほぼ毎日入浴する人は、週に2回以下の人に比べて心血管疾患が72%、冠動脈疾患が65%、脳卒中が74%、脳梗塞が77%、脳出血は54%発症リスクが少ないという調査結果があります」
“イタ気持ちいい”強さでねじる
「実年齢は79才、血管年齢は40代」という井上さんの血管年齢の若さの秘訣は、「動脈のもみほぐし」にあるという。
「筋肉の深い部分にある動脈に圧がかかるように、指で皮膚を骨に向かって押しつけるようにするのがコツです。強すぎず、弱すぎず“イタ気持ちいい”くらいがちょうどいい。1日15分のもみほぐしを2週間続けて血圧が20mmHg下がった人もいます。好きなときに5~10分ほど行うだけでも充分です。
特に顔は血管と神経が密集しているので効果が大きい。手のひらを頰骨の下のくぼみに押し当てたり、中指と薬指を鼻筋に押し当ててゆっくり上下させてマッサージをする。寝る前に10分間するだけで血行がよくなり、翌朝は肌のつやとハリが増します」(井上さん)
移動中の車内やカフェなど、場所を選ばず簡単にできるのが「手首と腕の血管ほぐし」だ。
「自分で手首を握り、雑巾をしぼるようにねじります。握られている方の手首は反対方向にねじることでさらにほぐれます。手首から徐々に前腕へ移動しながら“イタ気持ちいい”と感じる強さでねじりましょう」
「ツボ押し」にもマッサージと同様の効果が期待できる。渡辺さんが推奨するのは、手の親指と人差し指の骨が交差する場所にある「合谷」のツボだ。
「その周囲を親指で押し、3~5分ほどまんべんなくもみほぐします。最初は痛みを感じるかもしれませんが、慣れてくると気持ちよくなってきます。どうしても痛い場合は軽く叩くだけでもOKです。血流がよくなり、筋肉の硬い部分がほぐれ上半身がポカポカしてリラックスしてきます。即効性があるため合谷指圧をして10分ほど経過すると血圧が下がってきます。2か月も続ければ血圧を一定に維持できるようになります」(渡辺さん・以下同)
血液を心臓に送り返すポンプのような役割を果たし、「第二の心臓」と称されるふくらはぎのマッサージも効果が期待できる。
「側面を少し痛いくらいの加減でリズミカルに叩きます。足の先からひざ下のあたりまで、下から上へ約5分。続いて裏側も、アキレス腱からひざ裏のあたりまで下から上へ約3分。げんこつで軽く叩きましょう」
食事もマッサージもツボ押しも、生活習慣として継続することが肝心だ。
「自分に合っているかどうかを見極めるためにも毎日継続し、血圧をこまめに測定しましょう。規則正しく決まった時間に測定することで、変化をより正確に実感できます。1か月は継続し、自分に合った究極の血管年齢若返り術を見つけてください」
暑さを気にせず、いますぐできる血管年齢若返り術で、いつまでも元気な自分をキープしたい。
顔の血管ほぐし
・手のひらを頰骨の下のくぼみに押し当てる。
・中指と薬指を鼻筋に押し当て、小鼻からまぶたの間を上下させる。

手首の血管ほぐし
【1】握った手は雑巾をしぼるようにねじる。
【2】握られている方の手首は反対方向にねじる。

腕の血管ほぐし
【1】手首から少しずつ場所をずらして前腕へ。
【2】手首と同様、しぼるようにもみほぐす。

ふくらはぎマッサージ
・ふくらはぎの側面を両手のひらの付け根でリズミカルに叩く。
・アキレス腱からひざ裏のあたりまでげんこつで軽く叩く。

血圧を下げるツボ「合谷」
・3〜5分ほどかけてもみほぐす。

※女性セブン2025年8月14日号