健康・医療

骨折により日常生活が大きく変わる「骨卒中」 欠かせない栄養素とつまずいても転ばない体を作る「簡単筋トレ」

腰が曲がった女性
女性の骨粗しょう症有病率は70代で3人に1人、80代で2人に1人になる(写真/GettyImages)
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60代女性の5人に1人が骨粗しょう症有病者で、年齢とともに有病率は上がる。これは閉経後の女性ホルモンの減少に一因があるが、そもそも骨密度は、「夏バテで食欲が落ちる夏に低下する」という。骨がスカスカになって骨折すると、寝たきりから認知症になる可能性も。そこで、栄養整形外科医の大友通明さんが警鐘を鳴らす「骨卒中」について詳しく教えてもらった。対策となる簡単筋トレの方法も紹介する。

高齢者は「骨卒中」で最悪、死にいたることも

厚労省の調べによると、介護が必要になったきっかけの第3位が「骨折・転倒」だ。特に、太もも周辺の骨(大腿骨近位部)や脊椎が骨折すると、寝たきりになる確率が格段に上がる。

「近年、骨折により日常生活が大きく変わることを医療現場では“骨卒中”と呼んでいます。特に、高齢者が大腿骨近位部を骨折すると、1年後には約60%が要介護となり、約10%が死亡するというデータもあります」

とは、栄養整形外科医の大友通明さんだ。

骨折で動けなくなり、寝たきりになると、認知症のリスクが高まり、誤嚥性肺炎を誘発しやすくなるので、高齢者の骨折はまさに命取りになるのだ。

骨密度の季節ごとの変移
大友さんが患者の骨密度を定期的に測定したところ、季節によって骨密度に違いが生じることが判明した(大友通明著『栄養整形外科医の一生折れない骨をつくる「強骨みそ汁」』【青春出版社】より)
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女性は閉経後、骨密度が著しく低下

高齢者の骨折は、骨密度が低下して骨がもろくなる「骨粗しょう症」が原因で、特に女性の場合は、閉経が大きく影響する。骨の形成を促し、骨の吸収(古い骨の破壊)を抑える働きがある女性ホルモン・エストロゲンの分泌が激減するからだ。そのため、エストロゲンの代わりとなる栄養素・大豆イソフラボンなどの摂取が推奨されるが、併せて骨自体をつくるのに不可欠な栄養素も摂る必要がある。

栄養不足が骨密度低下の一因に

「栄養不足も骨密度の低下に関係します。骨に必要なのはカルシウムだけではありません。土台となるのは、たんぱく質、鉄、ビタミンCからつくられるコラーゲン。これらの栄養素が不足すれば、骨密度は低下します。骨をつくり替えるのに必要な細胞があっても、材料となる栄養素がなければ、骨はつくれませんから、バランスよく栄養を摂る必要があります」(大友さん・以下同)

過度なダイエットで骨に必要な栄養素が不足すると、年齢に関係なく骨密度が低下することからも、その大切さがわかる。

「食事を通して骨に必要な栄養素を積極的に取り入れれば、骨卒中の予防につながります。しかし、いまの時期は暑さで食欲が落ち、必要な栄養素を充分に摂りづらくなるため、骨密度が1年でいちばん低下します」

食べやすいからとそうめん(糖質)ばかり食べている人は特に要注意だと続ける。

「糖質もある程度は必要ですが、摂りすぎると老化を促進する糖化(※たんぱく質と反応して老化物質AGEs<終末糖化産物>を生成する現象)が起きて、骨を黄ばませ、質を低下させることがわかっています」

骨卒中を防ぐために、効率よく栄養が摂れるレシピを検討し、たどり着いたのが、みそ汁だという。

「骨に必要な栄養素をバランスよく詰め込んだみそ汁を『強骨みそ汁』と名付け、患者さんたちにすすめたところ、不調が改善したケースも見受けられました」

栄養と運動が必要!「骨卒中」を予防する簡単筋トレ

骨卒中を防ぐには栄養はもちろん、つまずいても転ばない筋肉をつけることも重要。特に、もも上げと立ち上がりに必要な筋肉は落とさないこと!

「もも上げ」と「立ち上がり」ができない人は始めよう!

まずやってみよう!

足の間をこぶし1つ分くらいあけて立つ。足を上げてひざを90度に曲げながら、その場で足踏みをする。ひざが90度に曲げられず、足をしっかり上げられない場合は、腰から足の付け根まで伸びている腸腰筋が弱っている証拠。下のトレーニングを行おう。

足を上げる女性のイラスト
足を上げてひざを90度に曲げながら、その場で足踏み(イラスト/さややん。)
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これができなかったら下のトレーニングへ。

「腸腰筋を鍛えるトレーニング」

壁に両手をつき、足の間をこぶし1つ分くらいあけてまっすぐ立つ。足を上げてひざを90度に曲げながら、その場で足踏みをする。

壁に両手をつけ、足を上げる女性のイラスト
壁を支えにして足踏みにチャレンジ(イラスト/さややん。)
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《できるようになったら…》

壁に片手だけをついて足踏みをする。目標は手をつけずにできるようになること。最初は10回ほど、足踏みを繰り返すことから始め、最終的に朝・昼・晩にそれぞれ30回ずつ行えるよう、徐々に回数を増やしていく。

まずやってみよう!

いすに腰かけ、ゆっくり立ち上がる。テーブルなどに手をついて体を支える、あるいは勢いをつけないと立ち上がれない場合は、下のトレーニングを行おう。

いすから立ち上がる女性のイラスト
いすに腰かけ、ゆっくり立ち上がる(イラスト/さややん。)
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これができなかったら下のトレーニングへ。

「大腿四頭筋のトレーニング」

いすに腰かけ、テーブルに両手をついて立ち上がる。

女性のイラスト
支えがないと難しい場合は机を活用(イラスト/さややん。)
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《できるようになったら…》

テーブルに片手だけをついて立ち上がる。目標は手をつかずに立ち上がれるようになること。最初は10回ほど、立ったり座ったりすることから始め、最終的に朝・昼・晩にそれぞれ30回ずつ行えるよう、徐々に回数を増やしていく。

◆教えてくれたのは:大友外科 整形外科・院長 大友通明さん

医学博士。整形外科に栄養療法を取り入れた「栄養整形医学」を実践。著書に『栄養整形外科医の一生折れない骨をつくる「強骨みそ汁」』(青春出版社)。

取材・文/土田由佳

※女性セブン2025年9月4日号