
資産家一族が集まって莫大な遺産を奪い合う──多くの人が抱く「相続」のイメージだが、現実は違う。うちは普通の家庭だからと「遺言書」をつくらずにいる人ほど、相続争いや相続税に苦しむことになる。誰も後悔しない「最強の遺言書」をつくるための家族会議の開き方を解説する。【全3回の第3回。第1回から読む】
「公正証書遺言」を選ぶべき理由
ひととおりの家族会議を終えたら、いよいよ「遺言書」作成に入る。最強をめざすなら、自分で書く「自筆証書遺言」ではなく、公証役場で作成する「公正証書遺言」を選ぶべきだ。作成には専門家に依頼する費用も含めて10万〜30万円ほどかかるが、確実な法的効力を持ち、家族会議で話し合った内容をムダにせず盛り込むことができる。司法書士で行政書士の太田昌宏さんが言う。
「“同居して介護してくれたので自宅を渡したい”“教育資金は平等に出してきたので、法定相続分どおりに分ける”など、家族会議の肝となった分け方の理由や背景は、遺言書の『付言事項』に盛り込みます。
遺言者である親の思いを具体的に言葉にし、受け取る側が理解できるようにすることが、最強の遺言書の秘訣。法的な不備もなく、遺言者の思いを込めてつくれるのは、専門家に依頼する公正証書遺言でしょう」(太田さん・以下同)

併せて財産目録などを遺言書と一緒に保管しておくと安心だ。
「銀行口座なら通帳、生命保険なら保険証券、不動産関連なら権利証など、財産の資料を整理し、保管場所も明確にしておきましょう。いざ遺言を実行するときに探し回るのは大変。遺言の内容と併せて実務の準備まで整えておくことが、家族の安心につながります」
相続手続きを行う「遺言執行者」や、葬儀やお墓にかかるお金についても決めておくといい。
「どんなに完璧な遺言書でも、実際の手続きを誰が行うのかを決めておらず、そこでもめるケースも少なくありません。信頼できる家族を指定するか、専門家に依頼するかなど、方向性を決めておくだけでもスムーズさが違います。また、葬儀などの費用を誰がどこから出すかも意外ともめやすいので、あらかじめ決めておきましょう」
何度でも会議して何度でも書き直す
家族会議を経て作成した遺言書は、その内容と保管場所を会議に共有しなければ最強とはいえない。相続実務士で夢相続代表の曽根惠子さんが言う。
「“遺言書はこっそりつくって隠しておくもの”というイメージは間違いです。つくったら相続人全員に共有しておかなければ、いざ相続となったときに“私は遺言書なんて知らない、偽造したんでしょう”などと、たとえ法的に有効であっても、争いのもとになります」(曽根さん)

遺言書は一度つくったら終わりではなく、必要に応じて何度でもつくり直すことができる。このとき、家族会議も、第2回、第3回と重ねて行ってほしい。
「遺言書をつくった後に遺言者が再婚し、内容を見直さなかったことで前妻の子と後妻がもめるというケースもあります。また、遺言書には長男に自宅を相続させると書いたのに、事情があって自宅を売却し、相続する財産を失った長男とほかのきょうだいでもめるといったケースもよくある。家族構成や財産状況、生活環境、心境などに大きな変化があれば、都度会議を。前回からの変更点に絞れば短時間で済みます」(太田さん)
そうしてつくり直したら古い遺言書は破棄し、そのこともすべて、相続人に共有しておくこと。
「法的に有効であれば公正証書か自筆証書かにかかわらず、新しいものが優先されます。つくり直した際も、そのことを共有しておかないと、せっかくつくり直した遺言書がもめごとの種になります」(曽根さん)
遺言書は、家族に残す最後の贈りもの。それがもとで争ったり、損したりしたら、後悔してもしきれない。いまからできる限りの準備をしておこう。


※女性セブン2025年9月25日・10月2日号