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生前葬を行った棺桶デザイナー、布施美佳子さん「みんな詩人かってくらいすてきな言葉をくれて棺の中で号泣しました」

生前葬を体験した布施美佳子さん
写真3枚

その日は突然やってくるかもしれない。そうしたら、残された大切な人に別れを告げられずに旅立つことになる。しかし、「生前葬」をすればきちんと感謝を自分の言葉で伝えられると、実際に経験した人たちは言う。「生前葬」を行って何を感じ、これからの生き方についてどう考えるようになったのか、体験談を語ってもらった。

《2年後の50才の誕生日に生前葬をやろうと思っています》

親しい知人にSNSでこう呼びかけた、オーダーメードの棺桶や骨壺をデザインする葬儀ブランド「GRAVE TOKYO」代表の布施美佳子さん(52才)。

2023年8月に迎えた50才の誕生日、彼女は有言実行で生前葬を開催した。

「人生100年時代、後半を前向きに生きるためにも50才で区切りを付けようと思いました。結婚時に披露宴をしなかったのが心残りだったので、生前葬は“人生の披露宴”と銘打ちました」(布施さん・以下同)

ホテルの披露宴会場に120人を集めて行った式は3部構成。1部は入棺体験や葬儀グッズを紹介する終活フェアさながらで、2部は食事をしながら布施さんの人生のスライドショーを流した。

「メニューは“人生の最期に食べたいものランキング50代編”をもとに、お寿司、ステーキ、ラーメン、カレー、白飯と豚汁という人気料理のフルコース。お腹いっぱいになったと喜んでもらえました(笑い)」

当時、中学2年生だった布施さんの娘も参加。「私も大人になったら生前葬をやりたい」と口にしたという(写真提供/布施美佳子さん)
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ハイライトは3部。納棺師が布施さんを厳かに棺に納めたのち、参加者全員が1分ずつ彼女へのお別れのメッセージを読み上げた。

「みんな詩人かってくらいすてきな言葉をくれて、棺の中で号泣しました。私は横たわって死んでいる状態でしたが、みんなの言葉が若返りのシャワーのようで、浴びると自己肯定感が爆上がりして、間違いなく生まれてからいちばん幸せな時間になりました」

うれしかったのは若い世代の心に届いたこと。最後に順番が回ってきた高校2年生の男子は、「周りの大人は忙しくつまらなそうだけど、ここにいる人たちは楽しそうで、大人になるのも悪くないと思えた」と語り、会場をドッと沸かせた。

「私の中2の娘も生前葬に参列したことをきっかけに、バリバリの反抗期が終わったんです。参加してくれたみんなが、娘の知らない外での私の姿を話してくれてそれに感銘を受けたようで、終了後に“すごくよかった”と言ってくれてうれしかった」

布施さん自身も生前葬を経て、さらにポジティブになったと振り返る。

「50年生きてきて、ふとした瞬間に嫌な記憶がフラッシュバックしていたのがまったくなくなり、心が広くなりました。褒められると人は幸せになることに気づき、あまり関係がよくない人に優しい言葉をかけられるようにもなった。生前葬で、自分自身が変わることができました」

【プロフィール】
布施美佳子(ふせ・みかこ)/2015年に骨壺をデザインする日本初の葬儀ブランド「GRAVE TOKYO」を立ち上げ、2022年より棺桶も制作。ショールームでもある「終活スナックめめんともり」で「入棺体験」などのワークショップを開催。

※女性セブン2025年9月25日・10月2日号

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