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日本人が知っておくべき「ありふれた病気“がん”」を長尾和宏医師が解説 がんは苦しむ期間が最も短い病気、“治療のやめどき”に注意すれば自宅で理想の最期を迎えられる

医師・医学博士の長尾和宏さん
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日本人の2人のうち1人が生涯で一度はがんになり、日本人の死因は3人に1人ががんである。

「つまり、日本人にとってがんは最もありふれた病気です」

そう語るのは、医師で医学博士の長尾和宏さん。

「がんで死にたいかどうかの前に、日本人はがんで死ぬ確率が最も高い。だから自分は大丈夫だとは思わず、がんで死ぬかもしれないとの覚悟を持って腹をくくって生きることが大事です」(長尾さん・以下同)

誰もが命を奪われかねない病気だからこそ、まずは「がんを知る」ことが求められる。

今年7月に公開され、長尾さんが製作総指揮を務めた映画『「桐島です」』は、連続企業爆破事件で指名手配犯となった桐島聡の約50年に及ぶ逃亡生活が描かれている。そこには「がん終末期の経過のリアル」が垣間見えるという。

「桐島は逃亡の果てに末期の胃がんで死にました。彼は偽名で生きていたので健康保険証もなく、医療を受けられなかったが、死の数日前まで社会生活をしていた。がんは痛いとか苦しいとのイメージがあるけど、自然に任せると、最期はつるべ落としのように1〜2週間ほどで亡くなる。

桐島のように、社会生活を営めるがん患者を多く看取ってきました。実は苦しむ期間が短い病気だという事情を知っているから“がんで死にたい”と話す医師が多いのです」

理想は家で普通に生活をすること(写真/PIXTA)
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長尾さんの理想は「がん終末期になっても家で普通に生活をする」ことだ。

「人生の終わりをどこで過ごすかは人それぞれですが、在宅医として700人以上のがん患者を看取った経験からいうと、自宅で亡くなったかたはほぼ全員が理想的な枯れるような最期でした。多くの家族も納得し、“こんなに楽だとは思わなかった”と話しています。自宅でもモルヒネなどの医療用麻薬を使って緩和ケアを提供できるし、家族がいないおひとりさまのがん患者でも自宅で過ごすことが可能です」

がんは苦しむ期間が最も短い──そう強調する長尾さんが特に注意を促すのが、「治療のやめどき」だ。

「どこから治療の手を緩めるのか、どこから自然に任せるのかが最大のカギになります。本人の意思表示の書面がなければ家族や医師の意向で胃ろうや経鼻栄養など、いわゆる延命治療が始まります。実際に日本の終末期医療の意思決定は大半が家族や医療者がしており、本人の意思で決まるのはわずか3%ほど。どういう最期を迎えたいのかを本人と家族、医療者が繰り返し話し合って、元気なうちに書面に残して意思表示をすることが重要です。

過剰な医療を控えて自然な経過に任せれば、がんは最後に苦しむ期間が最も短い病気なので、ぼく自身もがんで死にたいと思っています」

【プロフィール】
長尾和宏(ながお・かずひろ)/医師・医学博士。東京医科大学を卒業。聖徒病院、市立芦屋病院の内科勤務を経て、1995年に尼崎市に外来診療と在宅医療を提供する長尾クリニックを開業。『痛くない死に方』、『「平穏死」10の条件』など著書多数。

※女性セブン2025年10月9日号

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