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《本の文化を残すための挑戦》八戸市は離島以外で全国初「自治体直営書店」を設立、個人経営店は“セレクトショップ化”…それでも「普通の街の本屋」を貫く店主が見る希望 

セレクトショップ化する書店で「自分だけの書店」を見つける

 リアルな書店だから得られる体験、本の質感、重み、紙のにおい──東京都台東区で「ひるねこBOOKS」を経営する小張隆さんは「本は五感で味わう」ものだと話す。手に取ったときに感じる重さ、厚み、質感、時にはにおいといった、二次元では感じ取れないさまざまな魅力が本には詰まっている。

「だからこそ、できることなら書店を訪れて実際に本を手に取ってほしい」(小張さん)

 最近は五感で味わう本について、バラエティーに富んだフルコースではなく、シェフが厳選したスペシャリテを陳列する「個人商店」のような書店が増えている。

 その多くは小さなスペースを店主がひとりで切り盛りして、人文学やアート、カルチャーや歴史など、思い思いのジャンルのこだわり本を棚に並べる。決して広くはないが、訪れるだけでワクワクして、店主とのコミュニケーションを楽しめる居心地のよい空間だ。

 個人の価値観が多様化する中、個人経営の書店からは店主の個性がにじみ出て、書店の形態そのものがどんどん変化している。そうした流れがあることはわかったうえで、二村さんはあえて独自のコンセプトに沿ったセレクトショップ化を選ばなかった。

「実は父が亡くなる前に、店を改装してセレクトショップにしようと考えていたんです。でも、幼年誌や学年誌を毎月買ってくれる親御さんがいるのに、店主が選んだ書籍だけ並べて内装を洗練されたものにしたら、子供や幼児向けの雑誌が似合わない雰囲気になってしまいます。

 私は隆祥館の歴史を考えて、子供たちが歩いて来れる普通の街の本屋のままでいることに意味があるのだと思いました。それに、遠くにある本屋になかなか行けない高齢のかたやベビーカーのお母さんにはハードルが高くなるかもしれないと考え、お店をセレクトショップにするのはやめました」(二村さん・以下同)

「CCC蔦屋書店カンパニー」は「書店ゼロの街をなくす」というビジョンを掲げ、名古屋、銀座などにアートを融合した書店を出店(写真/PIXTA)
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 それでも既存の書店の枠にはとどまらない。二村さんは幼児や子供向けの本を残しつつも、店主自らできるだけ読書を重ねて、お客さんに読んでもらいたい本を店に置いている。

「そのためにお客さんとすごく会話をします。趣味や、いま読みたい内容、悩んでいることなどをお聞きして、読んでもらいたい本を選んでいます。だから隆祥館は普通の街の本屋ですが、置いてある本はかなり厳選した品揃えになっています」

 そのうえで、いまの本をとりまく環境にはまだまだ問題があると二村さんは続ける。

「本屋への配本はいまだにランク配本という制度のもと、書店の規模に応じて配本がなされます。例えば、藤岡陽子さんの『満天のゴール』は、私が日本一単行本を売っていても、文庫の配本はゼロなんです。ランク配本ではなく実績配本になれば、著者や出版社にとってもいいことですし、何よりも本屋さんの個性や推しがもっともっと光って楽しくなると思います」

 お客さんに読んでもらいたい本を棚に並べる——現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう』の主人公で“江戸のメディア王”と呼ばれた蔦屋重三郎の時代から、書店の心意気は変わっていないのかもしれない。

 書店離れが唱えられて寂しいニュースが流れるが、二村さんは書店の未来を悲観することはなく、むしろ希望が見えると語る。

「私の店だけかもしれませんが、最近若いお客さんが増えているんです。それこそ10年くらい前までは年齢層が高くてどうなるか不安でしたが、最近は、18才や20才くらいの若い子が本を買いに来てくれるので、思わず年齢を聞いちゃう(笑い)。学校での朝読などの成果が、これからますます出てくるだろうと思っています」

 本の中には、いくつもの世界が詰まっている。誰とでも、どこででも、いつでもつながれる時代になったいま、むしろ私たちの視野はせまくなっているのではないだろうか。

 視野を広げて過去を知り、いまを見つめて、未来を生きるために必要なものは本に、そして、本が並ぶ書店にあるのだ。

書店の数は20年で半減した
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(前編から読む)

女性セブン2025116日号