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「アニメ声の女はおいしいところを全部持っていく」オバ記者が考える“声”の影響 奥深いのは「作れる」ということ 

声は相手に与える印象を大きく変える(写真/イメージマート)
写真2枚

 声によって、その人の印象が大きく変わる。女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子氏も、声の影響を強く感じることがあるという。オバ記者が、日頃から“声”について感じていることをつづる。

りりちゃんのことを頭に浮かべると、腰から下の力が抜ける

 顔を合わせれば「オバ記者〜」と声をかけてきてくれる事件記者の宇都宮直子さんが、このたび『渇愛』で小学館ノンフィクション大賞を受賞した。事件記者としての苦闘ぶりを見てきた私は、心からの賛辞を贈りたいと思う。

 受賞作は、マッチングアプリなどで知り合った男性たちから総額約1億5000万円を騙し取ったばかりか、その手法をマニュアル化してオンライン販売し逮捕された渡真衣受刑者(27才)、通称「頂き女子りりちゃん」を取材したものだ。

 いや、取材したなんて生易しいものじゃないね。なにせ宇都宮さんは名古屋拘置所にいるりりちゃんに20回以上も面会し、そのために名古屋市内に部屋まで借りちゃったんだから。そうした熱量が一文字一文字を紡ぎ出して訴えてくる。圧巻の一冊だ。

 そうなんだよね。何かを成し遂げようとするとき、ものをいうのが“熱量”なのは疑いようがない。だけど、りりちゃんのことを頭に浮かべると、私は腰から下の力が抜けるんだわ。理由はあのアニメ声よ。舌足らずで甲高くて小さな女の子のように従順そうで、早い話、男ウケのいい声。いや、男だけじゃないね。マウントの取り合いをしなさそうだから、女ウケも悪くない(と思う)。

 いま秋葉原に住んでいる私は、毎日、家から出たらこうした声をシャワーのように浴びている。アニメのキャラになりきって客引きをしている女性たちが揃いも揃ってこの声を出すんだもの。そうそう、最近の流行りは、タレント・あのちゃんのマネをしてか、目の下にミエミエの2本線をくっきりと入れること。オバちゃんから見たら「何してんの?」だけど、流行ってなんでもそう。潮流に乗れない世代にしたら、みんな「ヘン」の2文字で片付くんだよね。

前橋市長にギャップ萌えしない方がどうかしている

 そういえば、いま話題の前橋市長の小川晶さんも声は低めだけど、鼻のかかり具合はアニメ声のケがあると私はみている。このところ出回っているストローをくわえた写真なんか、“ペコちゃん”そのものよ。その顔とあの声で「前橋市政を変えたい!」なんて演説されてごらんなさいって。弁護士といういかつい肩書もある。ギャップ萌えしない方がどうかしているよ。

人によって声は作れてしまう(写真/イメージマート)
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 ウワサの男性職員はラブホ会談をした理由の1つに「市長として未熟と感じるところがあったので」という事情説明書を市議会に提出していたけど、もし、彼女が低いドスのきいた声を出していたらどうよ。職員は血迷った行動を起こしたかしら。市民の付託を受けて市長になった人を公然と「未熟」なんて言わなかったんじゃないの?

 もっと言えば、ラブホで話そうなんて発想は出てこなかったと思う。しかも10回以上。いやさ、そんなところに出入りしなくなって何十年も経つ私が言うのもナンだけど、ラブホの主目的はラブ行為でしょうよ。ベッドがドーンと部屋の半分以上を占めていて、みな、健全にいやらしくしていれる。そこにうっすらアニメ声の上司と2人きり。そこに3時間いて、市長と職員の立場のまま、市政の話だけできたら、これはもう令和の偉人として崇め奉っていいと思うわ。

 なんてね。生まれたときからアニメ声の人からは「独断と偏見もいい加減にしろ!」と叱られそうだけど、“声”の奥深いところは作れる、ってことなのよ。

ほんの一瞬テレビで流れたある皇族の生声

 たとえば、声優の人はキャラクターに合わせていろんな声色が出せるというじゃない? そういう能力が生まれながらに備わっている人がいるんだって。その最たる例を、私は見たことがあるんだよね。

 ある皇族で、特徴的な話し方をするおかた、と言えばわかると思うけれど、その昔、なんの間違いか、ほんの一瞬、生声がテレビから流れたことがあるの。テニスコートでテレビ取材を受けるかどうか迷っていたのね。「マジ? やだぁ」と言った彼女は、どこにでもいる20代の女性そのものよ。その前にいかにもという受け答えを聞いていた私は「えっ? こんなのホントに流していいの?」とテレビのこっち側で慌てた覚えがある。ま、彼女なりに声で“あるべき姿”を演出しているのかもしれないけどね。

 それやこれや、人の声についてあれこれ考える時間が長い私は、いつの間にか「アニメ声の女は、人を油断させて、おいしいところを全部持っていくよ」が口ぐせになった。そしたら先日、「年を取ると決めつけが激しくなるかもぉ」と40代女に笑われた。ゲッ、そういえば彼女、人によって作りアニメ声を出す人だっけ!

【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。

女性セブン2025116日号 

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