
夏の疲れが取れないうちに、早くも全国各地でインフルエンザの感染者が激増している。ひと足早くやってきた「感染症の季節」に負けずにこの冬を乗り切るためには、「いつもの感染症対策」「ふつうのうがい」では不充分かもしれない。
意外と盲点になりがちなのが「鼻」
急激な秋の深まりとともに体調を崩す人が急増している。都内在住の会社員、Aさん(46才)もその1人。
「風邪ぎみで病院に行ったら、インフルエンザ。子供の予防接種もこれからと思っていたのに、もう流行り始めているんじゃ遅いかもしれませんね…」
厚労省の調べでは、10月13日から19日までの1医療機関あたりの季節性インフルエンザの患者報告数は3.26人と、昨年よりも1か月早いペースで増加中だ。流行は来年2月頃まで「早く・広く・長く」続くとされており、時期によっては薬不足も懸念されている。
手洗い・うがいや換気、加湿、マスクの着用などの対策が例年以上に重要になる中、意外と盲点になりがちなのが「鼻」だという。
医療法人モクシン堀田修クリニック院長の堀田修さんが説明する。
「口の粘膜は食べ物が通ることを前提としているので表面がツルツルの扁平上皮で覆われている一方、鼻の粘膜は空気だけの通り道なので、空気を浄化するフィルター作用などのある繊毛上皮で覆われています。
フィルターや加湿の役割の根幹となるのが、鼻の奥にある『上咽頭』という場所。新型コロナでのPCR検査の際に綿棒でこすられる場所といえば想像しやすいでしょう。細かい繊毛がびっしりと生えているため、鼻呼吸で入ってきたウイルスが付着しやすいのです」
「鼻の奥」を洗えば免疫力もアップ
こうした鼻からのウイルス侵入を防ぐと注目されているのが「鼻うがい」だ。通常のうがいとは違い、上咽頭についたウイルスを洗い流すことができる。インフルエンザだけでなく花粉症などによる鼻づまりの改善や、免疫力向上効果も期待できるという。
「ただの水だと浸透圧の関係でツンとした痛みを感じ、粘膜を傷つけてしまうので、食塩水を使います。塩分による浸透圧の作用で、鼻の粘膜のむくみが改善され、鼻の通りがよくなる効果も得られます。鼻呼吸がしやすくなれば口呼吸をしなくてすむため、口からウイルスが入るのを防ぐことができ、風邪やインフルエンザの予防につながります。
まだ研究段階ではありますが、塩分には体内でのウイルスの増殖を抑える可能性があると指摘する研究もあり、鼻うがいを続けることで免疫力アップにつながると期待されています」(堀田さん・以下同)
実際に、イギリスのエジンバラ大学が行った研究では、新型コロナ感染時に1日6回の鼻うがいをした人は、1回もしていない人と比較すると、症状が出ていた期間は22%、市販薬の使用量は33%、また家族に感染させる可能性が35%減少している。
お風呂のついでで毎日の習慣に
やり方は簡単。水道水に食塩を溶かしてつくった洗浄液を、片方の鼻の穴から流し込むだけだ。

「“どうしても痛そうで、怖い”と不安がる人もいますが、人間の体液に塩分濃度が近い食塩水なら鼻に入れても刺激や痛みはまったくありません。
分量は40℃くらいのぬるま湯に対し、1~2%の食塩を溶かすのが鼻洗浄液としていいでしょう。予防なら1%、すでに感染しているなら2%が目安です。塩分濃度が高いほど効果が得られるような気がするかもしれませんが、3%以上だと海水に近い濃度になってしまい、粘膜にしみて痛みが出る可能性があるため、おすすめしません」
殺菌効果を高めようと、洗浄液にうがい薬などを入れるのはNG。有効成分であるポビドンヨードは、過剰に摂取すると甲状腺機能を弱め、かえって免疫力を下げる恐れがある。
洗浄液をドレッシング容器のような、やわらかく中身を押し出しやすい容器に入れて行うと便利。100円ショップなどでも手に入るので、鼻うがい専用に購入するのがおすすめだ。
「上咽頭をピンポイントで、より手軽に洗浄するには、弁当用のしょうゆ差しなども活用できます。片方の鼻の穴に容器の口を差し込み、頭を60度くらい後ろに傾けて、片鼻につき2mlほどをゆっくりと流し込むだけ。のどに流れ落ちてきた洗浄液は、飲み込んでしまっても問題ありません」
ドレッシング容器を使えば、大量の洗浄液を流し込める。目安は200mlほどを一度で使い切ること。
「このときは、頭が左右に傾かないように気をつけながら少しうつむき、片方の鼻の穴に容器の口を差し込んで、『エー』と声を出しながら指でぐっと洗浄液を押し出して洗いましょう。勢いよく流し込むと耳へ流れ込んでしまうので、あくまでも優しく押し出して」
鼻に入れた洗浄液は、反対側の鼻の穴から自然と出てくるが、出しきれなかった洗浄液が後から垂れてこないよう、終わったら軽く鼻をかむ。決して、勢いよくかんではいけない。
「鼻に洗浄液が残っている状態で思い切り鼻をかむと、洗浄液が耳に回って中耳炎を招く恐れがあるので、必ず優しくかんでください。鼻をかむことさえできれば、小さなお子さんでもできます。感染予防なら1日1回、すでに感染してしまっている場合は1日2回以上が推奨されます。
使い終わった容器はサッと水洗いを。汚れが気にならなければ、基本は水洗いで大丈夫。毎日の入浴のついでに行えば、うがい後はお風呂でサッと洗えて便利でしょう」
堀田さんは「インフルエンザはもはや“冬の風物詩”ではなくなりつつある」と話す。
「今年は流行の早さが取り上げられていますが、ここ数年は一年中感染者がいて、年間を通した予防が必要になってきています。それ以外の感染症にも備えるべく、ぜひ鼻うがいを習慣化してほしい」
強まる寒さに年末年始の人混みや忘年会、帰省などのイベントが重なる今年の冬は、いままで以上の対策が必要。2025年を最後まで元気に乗り切るためにも、今日から取り組んでみて。
手軽にインフル予防!「鼻うがい」のやり方

《材料》
水(40℃くらいの温かさ、水道水でOK)…50~200ml 塩…水に対して1~2% 容器(弁当用のしょうゆ差しなどがおすすめ)
《作り方》
【1】塩を水に溶かして洗浄液をつくり、容器に入れる。
【2】頭を後ろに60度くらい傾け、片方の鼻の穴に洗浄液を入れる。
・のどに流れてきた洗浄液は飲み込んでも問題ない。
・たっぷり洗いたいときは下を向いて「エー」と声を出しながら指で押して洗浄液を流し入れ、反対側の鼻の穴から出す。コップで行う際は指で片方の鼻の穴を押さえ、反対側から吸い込む。
・予防なら1日1回、感染している場合は1日2回以上がおすすめ。
※女性セブン2025年11月13・20日号