
現在、65才以上女性の約5人に1人がひとり暮らしで、その数は年々増加中(内閣府調べ。統計は2020年のもの)。2050年には約3人に1人がひとり暮らしになると見込まれている。たとえいま家族がいても、夫が認知症になったら? 子供と連絡が取れなくなったら?誰もがひとりになる可能性がある。そのときのために準備しておくべきことを専門家に聞いた。
誰にも迷惑をかけないための手続き5
60代になったら、家族や子供の有無に関係なく、晩年や死後について考え始め、どんな手続きを誰に、あるいはどこに頼めばいいのか、そして費用はいくらかかるのか、調べよう。基本的な必要契約は以下で紹介する。体が元気なうちから手続きや契約を済ませ、費用を積み立て始めると安心だ。
まずやるべき「身元保証人」選び
・住居の賃貸契約、入院時などに活躍
住居を借りる、入院する、高齢者施設に入所するといった際、家族や親族に代わって手続きしてくれるのが「身元保証人」。身元保証人代行サービスといった専門の事業者やNPO法人、友人知人などにも依頼できる。費用は事業者や契約内容で異なるが、50万~150万円が相場だ。
「特に賃貸物件の借用時と入院時に必要となります。本人が死亡した場合、身元保証人が未払いの家賃や治療費、荷物の処分をすることになるので、友人や知人に頼むとトラブルになることも」(司法書士の太田垣章子さん・以下同)
認知症などに備えて「任意後見契約」を結ぶ
・理想の老後のため欠かせない対策
認知症のほか脳梗塞やくも膜下出血などで意識を失ったり、病気の後遺症で判断能力を失ったりした場合、必要となるのが「成年後見制度」。法律で定められた後見人に財産管理や適切な介護を受けられる環境を整えてもらう制度だ。
「成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度があり、意識がしっかりしているときに契約を締結できるのが前者で、判断能力を失ったら申し立てするのが後者です」
資産の使い道を自分で決められるのが任意後見制度のメリットだ。契約するには公正証書の作成が必要。司法書士などの専門家に頼むと費用はかかる(約20万円~)が、大切な契約なので、作成は専門家に依頼した方がよい。制度の開始は認知症などを発症してからとなる。
任意後見人には、信頼できる親族や友人知人、司法書士・弁護士・社会福祉士といった専門家、専門業者に依頼できる。報酬相場は、月額約3万~5万円。
【法定後見人との違い】
法定後見人とは、本人が認知症などを発症した後に家庭裁判所が決める後見人。親族や法律・福祉の専門家、福祉関係の公益法人やその他の法人などから選ばれる。決定に本人の意思は反映されない。
死後の手続きはすべてお任せ「死後事務委任契約」を結ぶ
・費用の支払いは死亡保険金でも可
「死後事務委任契約」とは、喪主代行や納骨代行、病院や施設、役所における各種手続き、相続財産の手続きなどについて代理で行ってもらうために、元気なうちに結ぶ契約だ。
弁護士や司法書士などの専門家、NPO法人や民間企業などの専門業者と契約を結び、費用は委任する内容によるが、約80万~300万円が相場とされる。
「希望する葬儀はもちろん、墓じまいも依頼できます。生前に墓を購入しても、こうした契約をしておかないと、その墓に入れないケースもあります」(終活サポートセンター理事長の水上由輝徳さん・以下同)
死後の後処理をすべて故人の思い通りにしてくれるわけだが、それなりの費用がかかる。
「費用は預託金として、『死後事務委任契約』を結んだ受任者が預かるのが一般的です。死亡保険金を充てる手段もありますが、保険会社との協議が必要となります」
【公正証書遺言とは】
遺言者が証人2人以上の立ち会いのもと、公証役場で公証人に口頭で内容を伝え、文章化した遺言書。無効になるリスクが低く、紛失や偽造も防げるので、トラブルの心配がある場合は作成を。
終末期医療については日本尊厳死協会へ
・延命措置を希望しないなら手続きを
「『延命措置はしない』『胃ろう(腹部に開けた穴にチューブを通して、胃に栄養剤などを直接流し入れる方法)は望まない』などの希望は、意識がはっきりしているときにしかるべき人や団体に伝えておかないと、望まない治療を受け続けることになります」(太田垣さん・以下同)
伝えておくべき団体のひとつが「日本尊厳死協会」だ。
「この団体では、治る見込みのない病気にかかったときにどうしたいかを書面にまとめた『リビング・ウイル』の発行を行っています。入会後は会員証を健康保険証と一緒に持っておき、病気になったら『リビング・ウイル』を医師に提示するか、友人知人と共有しておいて、必要なときに医療機関に提示するよう頼んでおきます」
満15才以上で意思表明能力のある人なら入会でき、年会費は2000円(終身会員は7万円)。
相続人がいるならデジタル終活を
・スマホのパスワードは共有しておこう
「デジタル終活」とは、デジタル遺品(インターネットサービスのアカウントなど)によるトラブルを予防するために、スマホのログインパスワードなどを残しておくことをいう。
そうしないと、残された遺族や相続人が故人のスマホを開けず、故人の資産やサブスク契約などを把握できなかったり、相続などの対応ができなくなったりする可能性がある。
「エンディングノートや遺言書にすべての財産を網羅的に書き出すことに抵抗がある人ほどデジタル終活をしておき、万が一の際、遺族に自分の財産の所在やサブスクなどの契約状況がわかるようにしておいた方がいいでしょう」(弁護士の伊勢田篤史さん)
契約者の死後、パスワードなどを相続人に伝えるサービス『デジタルキーパー』(有料)や、家族と必要な情報を共有できるサービス『まもーれe』(無料)の活用もおすすめ。
契約内容に重複がないか確認を!
リアルケースに登場した「身元保証人」「任意後見人」「死後事務委任契約」「公正証書遺言」とは―
「それぞれの詳細は上記で解説していますが、特に大切なのは、身元保証人、任意後見人、死後事務委任契約の3つ。これらは検討しておくべきです。ただし、契約する団体や企業によって、身元保証人が担う役割と死後事務委任契約でできる内容が重複することがあります。契約内容が多岐にわたれば契約料も高くなるので、重複する部分がないか細かく確認しましょう」(太田垣さん・以下同)
こうした確認をするのは労力がかかるので、体力も気力もある60代のうちに済ませておくと安心だという。
人生はいつ終わるかわからない。早めに準備をしておかないと、家族や親族に迷惑がかかる。何も用意をしておかず、誰も助けてくれなければ、行政が最低限の手続きをし、死後は無縁仏になる。よき人生を送り、理想の最期を迎えたいなら、家族の有無にかかわらず考えておこう。
リースバック、リバースモーゲージとは
得と便利の裏を見抜き、持ち家の処分方法は慎重に…
継ぐ人がいない持ち家は家主の死後、最終的には国庫に帰属されるが、そこまでの手続きが煩雑なため、結果的に空き家は増え続けている。ならば、生前に売って老後資金として活用したい―そんなとき、選択肢に挙がるのが、「リースバック」や「リバースモーゲージ」だ。
「リースバックは家の売却後も家賃を払ってその家に住み続けられるシステム。リバースモーゲージは、自宅を担保に借り入れし、生存中は利息を払い、死後に自宅を売却するなどして一括返済する高齢者向けの融資制度です」
どちらも住み慣れた家で生活できる上、家を処分できるメリットがあるが、リースバックの場合、売却金額が通常より低い上、家賃を払えなくなることも。リバースモーゲージは、金利が上がる可能性と長生きによるリスクがある。
家の処分については、お得そうなシステムがあっても飛びつかず、信頼できる専門家に相談を。
◆教えてくれたのはこの人:司法書士・太田垣章子さん
「合同会社あなたの隣り」代表。人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活を支援。頼るべき親族がいない、頼りたくない高齢者のサポートにも注力。講演会も積極的に行う。著書に『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)など。
◆教えてくれたのは:弁護士・伊勢田篤史さん
「相続で苦しめられる人をゼロに」を理念にデジタル遺品トラブルの予防対策に関する講演を中心に活動し、デジタル終活評論家としても活躍。共著に『第2版 デジタル遺品の探しかた しまいかた 残しかた+隠しかた』(日本加除出版)など。
◆教えてくれたのは:NPO法人 終活サポートセンター理事長・水上由輝徳さん
介護、葬儀、墓、相続など、終活に関するさまざまな悩みごとについてアドバイス。終活を学ぶための講義形式の相談会「終活大学」などを開催。
取材・文/上村久留美
※女性セブン2025年12月4日号