
終わりのない家事、気の合わないあの人との仕事、ふと頭をよぎる老後の不安…。生きるうえで、ストレスを感じない人はいないだろう。しかし、健康寿命を延ばすためには免疫力を下げるストレスは大敵。ストレスを解消し、うまくつきあうポイントを名医10人に聞いた。
ストレスが免疫力の低下を招く大きな要因
人生100年時代が到来し、健康寿命の延伸が目指される中でストレスが心身に与える影響が注目されている。
ストレスが過剰になると、自律神経やホルモンバランスの乱れから、イライラや不安、気分の落ち込みといった心の不調、頭痛や肩こり、食欲不振などの体の不調も起こりやすくなることがいくつもの研究で明らかになってきた。
特に問題視されているのは、ストレスが免疫力の低下を招く大きな要因となること。免疫力が下がればインフルエンザや新型コロナにも感染しやすくなるうえ、肌荒れやシミなどの原因になって美容にも悪影響を及ぼすことに。
では、健康のスペシャリストである医師たちは、どうストレスと向き合い、どうやって解消しているのか。10人の名医に自らが実践している方法を取材した。
「没頭」「無心」「整う」で頭がスッキリ
「私たちはもう起きてしまった過去のことや、まだ起きない未来のことを考えて、すごくストレスを感じてしまっています。その解消に役立つのが、過去や未来の心配事を離れて、“いまこの瞬間”に没頭するマインドフルネスです。“忘れる瞬間”が脳のストレスを軽減することには、医学的エビデンスがあります」
こう話すのは、イシハラクリニック副院長の石原新菜さんだ。「没頭」は自分に合った方法で得られると石原さんは続ける。

「私は運動が好きなので、走ってストレスを解消しています。サウナも効果的で、サウナと水風呂を繰り返すとスカッとして、本当に“ととのう”感じがしますね。何に没頭しやすいかは人それぞれなので、ガーデニングでも編み物でも、それこそゲームに没頭するのでもいい。5分でも10分でも、すべてを忘れて集中できる時間を作ることが大切です」
消化器病専門医の工藤あきさんは、マインドフルネスに瞑想を取り入れている。

「家事や子供の面倒、仕事の対応など同時進行しなければならないマルチタスクの状態が続くと、どうしてもイライラしたり興奮気味になったりします。そんなときは、意識的に自分ひとりの時間を作って瞑想をしています。まだ初心者なので、アプリを使って1~5分程度から試していますが、それだけでも頭がスッキリします」(工藤さん)
「無心に料理をする」のが自身のストレス解消法だと話すのは、成城松村クリニック院長の松村圭子さん。

「切ったり洗ったりという単純作業は無心になってできるので、“なんであんなことを言ってしまったのだろう”というような負のスパイラルを断ち切ることができます。また料理は段取りや盛りつけを考えながら手を動かすなど、とても集中して行うので、ストレスが入り込むスキがない。料理の後にキッチンをピカピカに磨くとか、拭き掃除をするとか、私は家事でストレスを発散しています」(松村さん)
自分が無心になって没頭できることを見つける。それがマインドフルネスの第一歩といえそうだ。
即効性がある睡眠は強い味方
ストレス解消に役立つ実践法は、マインドフルネスだけではない。兵庫医科大学病院診療部長・脳卒中センター長の吉村紳一さんは「睡眠・運動・人とのつながりが、ストレス対策の三本柱」だと話す。

「運動が睡眠の質を高め、良質な睡眠が人とのコミュニケーション能力を高めるというように、この3つは個別に機能するだけでなく、互いに補強し合う関係にあります。三本柱を上手に生活に取り入れることが、効果的なストレス対策につながるのです」
吉村さん自身、「患者さんの経過が思わしくないとき」「充分な睡眠が確保できないとき」「体調不良でも休めないとき」などに強いストレスを感じるというが、その際に実践するのがこの「三本柱」だ。
「運動として10~20分程度外を歩くと、光の効果も加わって気分が改善し、即効性と持続効果が期待できます。睡眠では仮眠も効果的で、10~20分程度で脳疲労が回復してスッキリします。人とのつながりでは、仲間や家族に話を聞いてもらうことでストレス解消につなげています」(吉村さん)

ストレス解消法として「睡眠」を挙げた名医は多い。久留米大学学長の内村直尚さんは「睡眠が最も効果的で、即効性がある」と話す。

「何も考えない時間を確保することが私のストレス解消法です。どこでも行えるという意味でも、睡眠がいちばん。散歩や音楽を聴くこともリフレッシュにつながります」(内村さん)
二本松眼科病院副院長の平松類さんも「睡眠不足がストレスを増大させる」という理由から、睡眠時間の確保と、昼寝をすることを実践。さらに、「緑茶を飲む」ことも心がけているという。

「緑茶に含まれるテアニンという成分は、交感神経を抑制して心身をリラックスさせ、ストレス軽減に役立ちます。睡眠の質を向上させる効果があり、睡眠中に目が覚めることが少なくなり、朝もスッキリ起きられます」(平松さん)
“不測の事態”が生じたときは「肩の力を抜く」
産婦人科専門医の高尾美穂さんは、なるべくストレスが強くかかる状態を避けることを心がけているものの、「例えばタクシーで移動中に工事渋滞で約束の時間に間に合わないといった“不測の事態”や、身近な人との“気持ちのズレ”からストレスを感じることもある」と言う。そんなときによく行うのが「肩の力を抜く」こと。

「ただなんとなく力を抜くのではなく、意識的に肩に力を入れてギュッと持ち上げ、それをパッと手放すように脱力します。これは漸進的筋弛緩法といって、精神科領域では認知行動療法のひとつとして行われています。気持ちのズレに関しては、『仕方ないよね』と口にして、自分のなかでひと区切りつけるようにしています」(高尾さん)
言葉にすることで、ひとつ節目を迎えたという意識を持つことができ、次の一歩を踏み出しやすくなるそうだ。
スポーツによって抑うつや不安が軽減
「休日は、アウトドアスポーツに出かけます」と言うのは、アオハルクリニック院長の小柳衣吏子さん。アウトドアスポーツは、2つの面から効果が期待できるという。

「自然と触れ合うことでストレスホルモンであるコルチゾールが低下します。またスポーツによって抑うつや不安が軽減することは、医学的に確認されています。
休みが取れないときは、お風呂にゆっくりつかり、ストレッチをして、なるべく早く就寝する。睡眠不足は集中力低下やイライラを引き起こすことが知られており、睡眠を充分に取ることでストレスを回避できます」(小柳さん)
ストレスがかかると興奮や緊張状態のときに働く交感神経が活発になる。リラックスして交感神経を抑え、副交感神経を優位にすることが、ストレス解消の大きなポイントだ。
順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんが副交感神経を優位にするために、毎朝行っているのが「コップ1杯の水を飲む」こと。

「朝に水を飲むと副交感神経が刺激され、自律神経が整います。また、ガムを噛むことも、副交感神経を優位にすることがわかっています。3秒鼻から吸って6秒口から吐く『1対2呼吸法』も有効で、いずれも私たちが研究でエビデンスを示しました」(小林さん)
池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さんがストレスを感じたときに実践しているのは、「口すぼめ呼吸法」。

「呼吸リハビリテーションで行っている呼吸法で、2秒で吸い、唇をすぼめて6~8秒かけて吐く。呼吸を長くすることで副交感神経が優位になり、リラックスできます。
イメージとしては、目の前にあるロウソクの火を消さないように、ゆっくり息を吐く。気管支の内側に圧力がかかるので、気管支がつぶれずに効率よく息を吐き出すことができます」(大谷さん)
自分に合った解消法を見つける
名医たちのストレス解消法は、医学的な根拠にもとづく共通点がある一方で、具体策はそれぞれ異なっている。平松さんが言う。
「一般的にいいといわれていることでも、それが自分に合っているとは限りません。気になる方法があったらまず試してみて、“自分視点”で取り入れることが大切です」
松村さんもこう続ける。
「ストレスは人間にとって必要なもので、完全になくそうとしてはダメ。適度なストレスは脳を活性化させ、人生のスパイスにもなります。過剰にならないようにするのが重要で、上手な解消法を見つけることが心身の健康につながります」
まずは、自分のストレスや生活と向き合うことがポイントになりそうだ。
そして、名医たちの解消法を参考に、この1年でたまったストレスを「断捨離」しよう。
名医10名人が実践する健康寿命を延ばすストレス解消術
イシハラクリニック副院長・石原新菜先生
・マインドフルネス(全力で走る・サウナ・カラオケなど)
・ハッピーホルモン=セロトニン・ドーパミンが出るものを探す
・感情を出す
消化器病専門医・工藤あき先生
・マインドフルネス瞑想
・知人との会話
・1時間ほどの筋トレ+有酸素運動

(写真/PIXTA)
成城松村クリニック院長・松村圭子先生
・お酒を気にせず飲む
・無心で料理をする
・掃除をして心と頭をスッキリさせる
兵庫医科大学病院診療部長・脳卒中センター長・吉村紳一先生
・外を10〜20分歩く
・仲間や家族に話を聞いてもらう
・短時間寝る(10〜20分の仮眠)
・問題点を見つけて次に生かす計画をする
産婦人科専門医・高尾美穂先生
・肩の力を抜く(漸進的筋弛緩法)
・自分でストレスから解放される流れを作る
・「仕方ないよね」など区切りがつけられるアクションを入れる
アオハルクリニック院長・小柳衣吏子先生
・休日のアウトドアスポーツ
・早めに寝て充分な睡眠の確保
・仏壇の前でお経を唱える
久留米大学学長・睡眠専門医・内村直尚先生
・睡眠
・散歩
・音楽を聴く

二本松眼科病院副院長・眼科専門医・平松類先生
・睡眠時間をしっかり取る、昼寝をする
・マインドフルネスや呼吸法によって、ストレス軽減
・緑茶を飲む
順天堂大学医学部教授・小林弘幸先生
・毎朝コップ1杯の水を飲む
・1対2呼吸法
・ガムを噛む
・階段を上る
池袋大谷クリニック院長・大谷義夫先生
・気持ちの切り替え
・口すぼめ呼吸法を実施
・ウオーキングを毎日1万歩以上
※女性セブン2025年12月18日号