「特攻隊の記憶」を持つ少年が流した涙
大門さんによれば、転生前の記憶として現れる前世の人物には、非業の死を遂げた人が極めて多いという。特に印象深いのが、2014年生まれの「ジョウくん」の持つ記憶だ。
ジョウくんは鬼ごっこをしているときに友達の代わりに自分がつかまったり、意地悪を言われても絶対に怒らず、大人の対応ができたりと、幼少の頃から優しく、ほかの子供たちと比べて少し大人びている一面もあった。
ジョウくんは、1才頃から「戦闘機」の絵を描くようになっていき、博物館の戦闘機のコーナーから離れなかったこともある。
そんなジョウくんが小さい頃から大切に思い続けている謎の人物が「ちえこ」という女性だった。あるとき、母親が好奇心から「好きな子はいるの?」と尋ねると「ちえこ」と答えた。小学校の課題で書いた「大切な人への手紙」も、「ちえこ」に宛てたものだった。
謎が解け始めたのは、2022年。ジョウくんが8才を迎え、2月にウクライナ侵攻が始まった年だ。戦火の広がりは連日ニュース番組で報道されるようになった。するとジョウくんは市街攻撃の映像に強い興味を示し、インターネットで検索することを覚えたのだ。

そして9才になった翌年、思い続けた名前「ちえこ」「戦争」と検索したときに見つかった画像が、1945年4月12日、太平洋戦争の特攻隊員として帰らぬ人となった穴澤利夫さんとその婚約者・智恵子さんの写真だった。見つけたとき、ジョウくんは「これがしっくりくると思った」と話している。
福島県生まれの穴澤利夫さんは、子供たちのために図書館を開くことを夢見る、心優しい青年だった。交際中の智恵子さんに婚約を申し込んだのは、出撃のわずか23日前。「智恵子 会ひ度(た)い、話し度(た)い、無性に」という遺書を残していた。
「ご両親は10才になったジョウくんを、穴澤利夫さんらの遺品を展示している鹿児島・知覧特攻平和会館に連れて行きました。そこでジョウくんは、穴澤さんの命日のたびに智恵子さんが知覧を訪れていたと知り“智恵子がずっと自分を思ってくれていた。戦争で智恵子が死ななくてよかった。長生きできていてよかった”と、涙を流して喜んだのです。
前世の記憶を持つ子供たちの多くに、記憶だけでなく、それに伴う感情や思考、スキルなども一緒に備えているケースが見受けられます。ジョウくんも、戦闘機の操縦の仕方を鮮明に覚えており、元航空自衛隊空将のかたに動画を見せて意見を求めたところ“実際に操縦したことのある人でなければ身につくはずのないことができている”とおっしゃっていました」(大門さん)
実際に前世を持ち、“転生”しているのでなければ持っているはずのない記憶、知識、そして感情。これらの真偽を亡くなった人に確かめることはできない一方で、幼い子供が外国語を話したり、小学生が会ったこともない高齢女性を思って涙したことは、まぎれもない事実。彼らの記憶が妄想や偶然でないことを見極めるため、バージニア大学の知覚研究所では、「自発的で、一貫性のある発言か」「実際に起きたことや生きていた人と合致しているか」「絵で表現することができるか」など、12の項目を細かく検証している。

そもそもなぜ、こうした前世の記憶を持って生まれてくるのか。池川さんによれば、前世の記憶は、生まれてくる瞬間に消えるのが通常なのだという。
「生まれてくるときの低酸素状態において、赤ちゃんの体ではオキシトシンやコルチゾールといったホルモンが大量に分泌され、これらには記憶を消す働きがあるとされています。なんらかの原因でホルモンが分泌されなかったり、少なかったりすると記憶が残り、その1つが帝王切開。陣痛が来る前に切開するためホルモンが分泌されず、胎内記憶や前世の記憶が残りやすいと考えられます」(池川さん)
一方で、脳科学的には、2才より前の記憶は残らないか、あってもほんのわずかだとされている。しかし、理論上は“ありえない記憶”だとしても、実際に「0才の頃の記憶」を持っている人は存在しており、三島由紀夫は生まれた直後の産湯体験が最初の記憶だったと自伝的小説『仮面の告白』に記している。それならば、生まれる以前、すなわち「前世」の記憶が残っている人がいてもおかしくない。
人が生まれるときはしばしば「“前世の記憶”の消し忘れ」が起きているのかもしれない。

(後編に続く)
※女性セブン2025年12月18日号