
かつては「不治の病」というイメージもあった“がん”だが、医療技術の発展や新薬の研究などにより、いまや「がんと共存」する時代になっている。しかし、がんといってもひとくくりにはできない。がんが発症した部位、そして発見したタイミングによって運命を大きく分けることになる。最新データで明らかになったがんの新事実を紹介する。【前後編の後編。前編から読む】
早期における治療の有効性が明確に
11月19日、国立がん研究センターは2012〜2015年にがんと診断された患者の5年生存率を発表した。5年生存率とは、がんと診断された人が診断から5年後に生存している割合を示す。
今回のデータからは早期発見の重要性も導き出された。早期がんと、原発からは離れた臓器に転移している進行がんを比べると、胃では早期がんであれば92.4%の生存率が転移がんでは6.3%、大腸がんでは92,3%が16.8%、肺では77.8%が8.2%、乳がんは98.4%が38.5%までに低下する。国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長の小川朝生さんが言う。
「やはり転移してしまうとその先では、どうしても予後が厳しくなってしまいます。転移や浸潤がない、もしくは少ない早期で発見できれば、外科的な部分切除などの治療が可能になる。
データではそうした早期における治療の有効性を明確に示しているとみています」(小川さん・以下同)
その意味では、がん検診の重要性が改めて高まったともいえる。
「早期発見によるメリットが期待できるのは、乳がんや大腸がんです。乳がんは、検診で体にかかる負担もそこまで大きくなく、早期で発見できれば部位によっては切除できます。消化器系の大腸がんの検診は内視鏡の有効性が期待されます」
ただし、やみくもに検診を受けることが「正解」ではない。
「断言することは非常に難しいですが、がん検診全体を見た場合、受けたことで生命予後が絶対によくなるとは言い難い。
乳がんや大腸がんも早期発見にメリットはありますが、検診による予防効果ははっきりしておらず、肺がん検診も予後をよくするのかはわかりません。加えて検診自体が早期発見にどれだけ寄与しているかも疑問の声があります」

特に年齢によっても、検診のメリット・デメリットには差がある。
「60代までであれば受けるメリットはまだありますが、70才、75才を超えると検診そのものが体に負担をかけます。例えば、内視鏡検査を高齢者に実施すると穿孔(せんこう)といって腸に穴があいてしまうケースもある。そういうリスクをとってまで、健康に問題を感じていない人が体に負担をかけて検診を受ける必要があるかどうかは、まだまだ議論されるべきだと思います」
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんも、がん検診にはかえって体に害を与えるものもあると続ける。
「がん検診の普及で早期発見が進んでいるのは事実です。昔に比べ精度も上がり、がんと診断がつきやすくなった部位もあります。
とはいえ注意すべき点もあります。肺がん検診で行われる胸部X線検査にはかねて被ばくリスクや精度への疑問が指摘されています。女性のがんの場合、卵巣がん検診は偽陽性になることも少なくなく、さまざまながん検診の有効性を評価しているアメリカの予防医学専門委員会では“遺伝子異常がない多くの女性にはいかなる方法でも不要”とされています」
大切なのは日頃から自分自身の体と向き合うこと。少しでも不調や異変を感じたら、検診ではなく病院を受診することが早期発見、早期治療につながるだろう。体が発するサインを見逃さないことが、生存率を大きく変えるのだ。室井さんが続ける。
「インターネットやSNSが発達したことで、誰もが国内外を問わずさまざまな情報にアクセスできるようになりました。ネット上の情報は治療の妨げになるとの声もありますが、私は逆だと思っています。自由に情報を入手できるからこそ、よりよい薬、治療法を自分で選べるようになっている。それは早期治療にも役立つはずです」

他方、どれだけ医療技術が発展しても生存率が大きく向上しないがんもある。前立腺や乳がんの5年生存率が80%を超える一方、すい臓がんは10.5%にとどまる。
「すい臓がんはどうしても発見しづらく、症状が出たときにはステージが進行してしまっていたり、転移していることが多い。薬についても、開発はなされているものの、大きく生存率を上げるには至っていません」(小川さん)
すい臓がんと並んで、胆のう・胆管がんも22.1%と生存率は低い。
「すい臓や胆のうは体の奥にあるため、初期のうちは周りの臓器に影響が及びづらく早期で見つかりにくい特徴があります。また血液が豊富に通っていないというのも特徴で、がんが発見されても薬が届きにくく、抗がん剤がうまく効かないケースが見受けられます。それにもかかわらずがんが増え始めると、周囲に広まってしまい大きな影響を与えるため治療が非常に難しいのです」(室井さん)