健康・医療

《高血圧、不眠症、認知症の予防も》“第二の心臓”ふくらはぎのエクササイズを医師が伝授!血流改善、筋肉と骨を刺激、体を根本から整える

ふくらはぎ
ふくらはぎを鍛えて維持することで血流が改善し、疲労の回復も早まる(写真/PIXTA)
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“第二の心臓”といわれる「ふくらはぎ」は、下半身の血液を心臓に戻すポンプのような役割を担う。ふくらはぎを鍛えて維持することで血流が改善し、疲労の回復も早まり、全身が整うのだ。

ふくらはぎは全身の血流を支える「第二の心臓」

ふくらはぎの役割は大きく2つ。姿勢の維持や、歩く際に地面を蹴って体を前に進める推進力を生み出す役割と、筋肉を動かすことで下半身の血液を心臓に押し戻す役割だ。整形外科医の歌島大輔さんが解説する。

◆整形外科医・歌島大輔さん
整形外科医・歌島大輔さん
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「ふくらはぎの主な筋肉は下腿三頭筋といい、内側と外側にある2つの『腓腹筋』と、『ヒラメ筋』で構成されています。

人は立ち姿勢をとると、重力で下半身に血液がたまりますが、ふくらはぎの筋肉(特にヒラメ筋)が収縮することで、血管の弁が開いて血液は下から上へと送り出されます。逆に筋肉が弛緩すると弁が閉じ、血液の逆流を防ぎます。

ふくらはぎが“第二の心臓”といわれるのは、この働きによるもの。心臓が全身に血液を送り出すのに対し、ふくらはぎの『筋ポンプ』は下半身から心臓へ血液を押し戻す働きを担っているのです」

ふくらはぎの筋肉と血液の流れ
ふくらはぎの筋肉と血液の流れ
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血液を送るポンプの働き
血液を送るポンプの働き
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血液には酸素や栄養素を全身に運び、免疫機能にかかわる働きがあるため、ふくらはぎの筋力が低下して血流が滞ると、さまざまな不調や疾患の原因となり得る。

「この働きが悪い人の5年後、10年後、15年後の死亡率がそうでない人に比べて高かったという研究報告(※Halkar M, et al. Vasc Med.2020;25(6):519-526.PMID:32975489))もあり、ふくらはぎの筋力は心血管系の疾患リスクを下げるカギになるといわれています」(歌島さん・以下同)

ふくらはぎの太さは筋肉量と関連しており、その変化は重要なサインとなる。

「世界各地の研究を分析してみたところ、ふくらはぎが細い高齢者は、標準的な太さの人に比べて死亡リスクが2.4倍も高いことがわかりました。つまり、ふくらはぎの筋力を保つことは寝たきりを防ぎ、いつまでも自分の足で歩くためだけでなく、血流に関連するさまざまな疾病リスクの軽減につながります」

足ブランコで最大限の力を引き出す!5つのメリットとは?

ふくらはぎの持つ力を最大限に引き出すために、歌島さんが考案したのが以下から紹介する「足ブランコ」エクササイズだ。

「『かかと上げ』『かかと落とし』『つま先上げ』という3つの動きをリズミカルに繰り返すことで、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)と、すねの筋肉(前脛骨筋)を交互に収縮・ストレッチするエクササイズです。

単純な運動のようですが、筋肉、骨、血管に刺激を与え、体の内側から変えていくことができ、次の5つのメリットが得られます」

【1】神経と筋肉の連携をスムーズにする

「ふくらはぎとすねの筋肉を交互に動かす反復運動は、『アクセルとブレーキの連携』を司る神経回路のトレーニングになります(※Floeter MK, et al. Restor Neurol Neurosci. 2013;31(1):53–62.)。続けるうちに無駄な力が抜け、筋肉の動きはより滑らかになります」

【2】疲れにくい筋肉を作る

「回数を重ねることで筋肉の持久力がつき、筋肥大効果も得られます」

【3】筋肉を柔軟にする

「筋肉をリズミカルに伸縮させる動きにより、血行を促進しながら柔軟性を高めます」

【4】血流を改善する

「ふくらはぎのポンプ機能を最大限に活性化し、下半身の血流を改善できます」

【5】骨を強くする

「かかと落としで衝撃が骨に加わり、骨密度の維持、改善につながります」

最初は体のバランスが保ちやすいよう、壁に手をつき、10回から始めてみよう。足元が不安な場合は椅子に座ってもOK(以下参照)。慣れてきたら、回数を30回、50回と増やしたり、どこにもつかまらずに行ったり、片足立ちで行うと、より効果が上がる。

高血圧、不眠症、認知症の予防や改善も

ふくらはぎの筋力が衰えると全身の血流が滞り、体はバランスを失って、さまざまな不調がドミノ倒しのようにあらわれてくる。

「足ブランコでふくらはぎの機能を向上させれば、全身の血流が改善して筋肉と神経の『質』そのものを高め、骨を強くします。ひいては、さまざま不調の予防と改善にもつながります」

数多くの研究論文からは、次のような症状の改善効果が期待できるという。

高血圧

高血圧予備軍または、ステージ1の高血圧と診断された人が9週間のレジスタンス運動(※筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動)を行ったところ、上の血圧が平均で約8mm、下が約5mm低下したという研究報告(※Banks NF, et al. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2024;326(2):H423-H435.)がある。

「この研究では、血管のしなやかさや健康度を示す『血管内皮機能』も優位に改善したと示されました。足ブランコもふくらはぎとすねの筋肉を効果的に使うレジスタンス運動なので、血圧を下げるだけでなく、血管そのものを若々しく保つ効果が期待できると言えるでしょう」

不眠症・うつ病

うつ病に対する運動の効果に関する218の研究や、約1万4000人を対象とした分析では、ウオーキングやヨガ、筋トレがうつ病の症状を和らげるのに有効と示されている。(※Noetel M, et al. BMJ. 2024;384:e075847.)

「足ブランコのようなリズミカルな運動も脳によい刺激を与え、セロトニンの分泌を促します。さらに、深部体温が一時的に上がることで、夜にかけて体温がスムーズに下がり、入眠しやすくなります」

認知症

「筋ポンプ作用により全身の血流が促進され、新鮮な酸素と栄養をたっぷり含んだ血液が脳に運ばれて神経細胞を活性化し、老廃物の排出を助けます。有酸素運動だけでなく、筋トレも認知機能の改善に有効であると、複数の研究の分析により確認されています(※Xu L, et al. Int J Environ Res Public Health. 2023;20(2):1088.)」

このほか、ウイルス性感染症、冷え性、腰痛や肩こり、骨粗しょう症、変形性関節症(ひざ・腰)などの予防や改善も期待できる。

足ブランコは、道具を使わず、いつどこでもできるエクササイズ。運動不足で血流が滞りがちないまこそ実践し、長生きしよう!

壁に手をついて行う「足ブランコ」

【1】壁に手をついて真っすぐ立つ

壁に手をついて真っすぐ立つ
壁に手をついて真っすぐ立つ
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壁に両手をつき、足は安定しやすいようにやや開いて立つ。ひざは曲げてもOK。なるべく背筋を伸ばして立つこと。

【2】両足のかかとを上げる

両足のかかとを上げる
両足のかかとを上げる
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つま先立ちをするように、両足のかかとを上げる。腰が曲がったり、反ったりしないよう注意して。

かかとは床から数cm上げるだけでもOK。すべての足指に均等に力を入れて行おう!

【3】足をもとに戻す

足をもとに戻す
足をもとに戻す
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かかとを“ストン”と床に落とし、骨に軽い衝撃を加える。

【4】両足のつま先を上げる

両足のつま先を上げる
両足のつま先を上げる
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かかとを床につけたまま、両足のつま先をできるだけ高く上げる。腰が曲がったり、反ったりしないように注意。

【5】足をもとに戻す

足をもとに戻す
足をもとに戻す
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つま先を下ろして、直立姿勢に戻り、【1】~【5】を10回繰り返す。

足元がふらつくなら、座って「足ブランコ」

【1】上半身をやや前かがみにして座る

上半身をやや前かがみにして座る
上半身をやや前かがみにして座る
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ひざを90度に曲げ、両足裏がぴったり床につく状態で椅子に座る。両手をひざの上に置き、顔はやや下向きにして前かがみになる。手でひざ上から押すように体重をかける。

【2】かかとを上げる

かかとを上げる
かかとを上げる
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手で体重をかけたまま、両足のかかとを上げてつま先立ちの状態にする。

【3】かかとを落とす

かかとを落とす
かかとを落とす
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かかとを“ストン”と床に落とし、骨に軽い衝撃が加わるようにする。

【4】つま先を上げる

つま先を上げる
つま先を上げる
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足首を曲げて、両足のつま先を上の方向に伸ばす。【1】~【4】を10回繰り返す。

柔軟性を高めるふくらはぎマッサージ

【1】足を組む(右足を上げた場合)

足を組む(右足を上げた場合)
足を組む(右足を上げた場合)
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椅子に座り、右足のくるぶしの少し上を、左足の太ももの上にのせる。両手の親指を使って右足のふくらはぎを押す。

【2】ふくらはぎを押しながら、足首を回す

ふくらはぎを押しながら、足首を回す
ふくらはぎを押しながら、足首を回す
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右足のふくらはぎを押しながら、足首を左右に各15回ずつ回す。左足も同様に。片側を長時間マッサージせず、左右交互に行おう。

コリを感じる場所を親指で押す

コリを感じる場所を親指で押す
コリを感じる場所を親指で押す
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親指で押すのは、ふくらはぎの少し離れた2か所。硬い場所を探して押そう。強すぎず、気持ちがよい程度の力加減で。

◆整形外科医・歌島大輔さん

フリーランスの整形外科医として複数の病院で診療・手術を行い、年間の手術件数は約400件。情報発信を行っているYouTubeチャンネルの登録者数は22万人超。著書に『長生き ふくらはぎ』(高橋書店)など。

取材・文/山下和恵 イラスト/いばさえみ

※女性セブン2025年12月25日・2026年1月1日号