治療を急かす病院には注意
容体が安定するとすぐにリハビリを始めるのが、いまの脳卒中診療の流れだ。国立循環器病研究センター脳神経外科部長の片岡大治医師が話す。

「近年は急性期のリハビリが非常に重要視されています。重症度によりますが、病状が安定したら治療開始後1〜2日のうちにベッドサイドで座ったり立ち上がったりといったリハビリを始める。そして、歩行訓練ができるようになってきたら、すぐにリハビリ室に移動します。
リハビリが遅れると、その分だけ筋肉が衰えて関節が拘縮(こうしゅく)し、体を動かせなくなってしまう。日常生活に復帰するためには、早期のリハビリは不可欠です」
脳出血やくも膜下出血の場合は、外科手術が必要となることも多い。
脳の細い動脈が破れて出血する「脳出血」の場合は、血圧を下げて脳のむくみを取る薬物治療に加え、必要な場合には、手術用顕微鏡を用いて血腫を取り除く開頭手術を行う。頭蓋骨に五百円玉程度の穴を開けて細長いカメラを挿入し、内部を確認しながら血腫を吸引する「内視鏡手術」も行われている。
脳動脈にできた瘤(脳動脈瘤)が突然破裂する「くも膜下出血」については、開頭して瘤の根元にチタン製の器具を取り付ける「クリッピング術」が行われてきた。これに加えて近年は、手や足の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、瘤の中にコイル(プラチナ製の糸)を詰めるなどして再破裂を防ぐ「血管内治療」も増えている。どちらを選択するかは、瘤の状況によって異なってくる。広南病院脳神経外科部長の鹿毛淳史医師が話す。

「大きな傷を残さず、小さな穴を開けるだけで負担が少なく治療でき、再発率も以前と比べて圧倒的に減ってきているので、血管内治療を選ぶ患者さんは増えています。
ただし、瘤の形や場所によってはコイルが入れにくかったり、入れたコイルが変形し追加治療が必要となったりすることもある。そうしたリスクから、1回の手術で高い根治性が得られるクリッピング術が適している場合もあります。
当院にはそれぞれの専門医が在籍しており、意見交換して総合的な判断で治療方針を決定しています。このように、血管内治療も開頭手術も、偏らずに治療できる病院が理想です」
破裂する前の脳動脈瘤が、脳ドックや脳の画像診断をきっかけに見つかることもある。この「未破裂脳動脈瘤」に対しても、同じようにクリッピング術や血管内治療が行われてきた。くも膜下出血を起こすと、およそ3人に1人が死亡し、3人に1人が重い後遺症を残す。そう聞くと、“未破裂”のうちに一刻も早く手を打ちたいと思うだろう。だが、事はそう単純ではない。栗田医師が話す。
「未破裂脳動脈瘤の破裂率は『UCASスコア』で予測できます。年齢、性別、瘤の大きさ、部位などによって確率が算出され、瘤の大きさが5mm以上の場合や、形がいびつ、症状がある、徐々に大きくなるといった場合に治療が検討されます。しかし、それ以外は破裂率が高くないので、手術の負担を考えて経過観察となることが多いです。
リスクの低い人には、『野球場でファウルボールが当たる程度の確率です』と伝えると、安心してもらえることが多い。それでも不安が拭えず、何かしらの処置をしたいという人もいます。しかし、医療側から治療をすべきとか、しない方がいいと言うべきではない。できるだけ正確な情報を伝えた上で、ご本人やご家族に時間をかけてじっくり考えてもらうことが大切です」
治療を急かす病院があったとしたら、注意した方がいいだろう。片岡医師もこう助言する。
「いまはセカンドオピニオンを受けられる制度が整っています。当院にも毎日のように希望者が来ますし、他院で意見を聞きたいという人に病院を紹介することもあります。セカンドオピニオンを推奨してくれるかどうかは病院選びの重要なポイント。それを嫌がるところは、避けた方がいいと思います」
脳卒中の急性期治療が終わると、1〜2週間から1か月程度で回復期病棟やリハビリ専門病院へ転院することになる。
「急性期病院を退院してからも、リハビリを継続することが大切です。幸いなことに、当院のある大阪北摂地域にはリハビリの専門病院が複数あります。そうした地域の施設とどれだけ連携ができているかも、脳卒中の病院選びでは重要なポイントです」(片岡医師)


(後編に続く)
【プロフィール】
鳥集徹(とりだまり・とおる)/同志社大学大学院修士課程修了(新聞学)。新著『妻を罵るな』が発売中。
※女性セブン2026年1月22日号