
なんとなく疲れが抜けない、風邪をひきやすくなった、若い頃より太りやすい――。こうした変化には、腸内環境の乱れが大きく影響している。そしてこの腸の調子を左右するのは約1000種類、100兆個ほどの「腸内細菌」だ。細菌がそれぞれの働きを発揮することで健康や美容を保っている。腸活を制するには「菌」を理解することが不可欠。「菌活」について理解を深めよう。
腸を内側から整え、外敵をバリアする
年齢を重ねても健康的で美しくいるために「腸活」がマストになったいま、特に注目したいのは腸内にすむ「菌」だ。イシハラクリニック副院長の石原新菜さんが話す。
「腸には体の免疫細胞の約7割が集まり、腸内細菌がその働きを支えています。善玉菌が減ると免疫力が低下し不調が起きやすくなりますし、お肌のトラブルも増えます。腸内で菌をバランスよく保つことが“老けない腸”を作る基本です」

犀星の杜クリニック六本木院長で消化器病専門医の川本徹さんは、腸の老化について「加齢による変化」と「生活習慣による劣化」の両面があると指摘する。
「年齢とともに全身の機能は衰え、腸も生理的に老化していきます。働きが鈍くなって便秘になりやすく、善玉菌も減少する。善玉菌の代表であるビフィズス菌は、40代で20代の約半分、60代で10分の1程度まで減るといわれています。一方、若くても腸に負担をかける生活を続ければ、善玉菌が減って悪玉菌が増え、腸は“劣化”します」
腸の老化や劣化による悪影響は、便秘や下痢にとどまらない。京都府立医科大学大学院教授の内藤裕二さんが言う。
「腸粘膜の表面を覆っている『上皮細胞』は、栄養を吸収しつつ有害物質をブロックする“門番”の役割を担っています。その門番をするのに必要なエネルギーが不足して細菌の働きが弱まると、腸の細胞間の結合がゆるんで外部から異物が入り込む『腸漏れ』が起きやすくなります」
腸のバリア機能が低下し、有害物質が体内に侵入しやすくなれば、影響は全身に及ぶ。
「血管に吸収された有害物質が全身を回ると、慢性炎症や動脈硬化の原因となり、老化を加速させます。免疫機能が低下し、風邪などの感染症にかかる率や、がんの発症リスクも高まってしまう」(石原さん・以下同)
腸を老化させず、若返らせるために意識したいのが「菌活」だ。それはすなわち、善玉菌を増やし、腸内フローラを整えること。
内藤さんは、菌の「数」だけでなく「多様性」も大事だと説く。
「腸には約1000種類、40~100兆個もの細菌がいるといわれ、それらの集合体が腸内フローラ(腸内細菌叢)と呼ばれています。最近の研究では、高齢になるほど細菌の多様性が失われ、老化を早める一因になるとわかってきました。健康長寿を目指すなら、特定の善玉菌だけを増やすのではなく、多様な菌ができる環境を維持することです」

注目すべき菌について石原さんが続ける。
「腸内の菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の大きく3つに分類され、理想的なバランスは2対1対7です。腸内を健康に保つ善玉菌にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴が違います。例えば代表的なのは『ビフィズス菌』。乳酸や酢酸を作り出して腸内を酸性に保ち、アルカリ性を好む悪玉菌を抑えます。ビフィズス菌は大腸をケアしてくれますが、小腸をケアするのが『乳酸菌』。小腸を整え、腸壁にいる免疫細胞を刺激して免疫の活性を促します。
そして『酢酸菌』。私たちの免疫細胞には“免疫の起動スイッチ”が約10種類あり、基本的に多くの菌は1種類のスイッチしか押せません。ところが酢酸菌は2種類のスイッチを押すことができるため、腸のバリア機能をほかの菌より高めます。脂や糖の代謝もよくしてくれる有能な菌です」
また、同じく腸のバリア機能を高め、腸のぜん動運動を促したり悪玉菌の増殖を抑えるなどの働きを持ち整腸を大きく助ける『酪酸菌』にも注目だ。
かけ合わせてパワー増大
では、加齢とともに減少する善玉菌を増やし、悪玉菌の増殖を抑える方法は何か。川本さんは、善玉菌を増やすなら、まず発酵食品を取り入れてほしいと話す。
「手軽で栄養価が高いのは納豆。納豆菌自体が善玉菌として働き、腸内細菌のエサにもなる。たんぱく質やビタミンKも豊富です」
日本伝統の麹菌で作られた「甘酒」や「みそ」も、善玉菌を活性化させる。
「甘酒は“飲む点滴”といわれるほど栄養が豊富です。酒粕に含まれる麹は善玉菌のエサになり、腸の環境を整えてくれます。独特の甘さは砂糖ではなく、麹菌由来のもの。砂糖の摂りすぎは悪玉菌を増やしますが、甘酒は善玉菌を活性化します」(川本さん)
石原さんは、みそを選ぶときは「生」にこだわってほしいと言い添える。
「加熱処理された一般的なみそは、菌が死んでいます。死んだ菌もエサにはなりますが、生みそなら生きた菌が摂れる。みそ汁を作るときは、具材を煮たら火を止め、70℃くらいに冷ましてからみそを入れるのがコツ。生きた菌が体に届きます」
「にごり酢」と「ナタデココ」も推す。
「昔ながらの製法で作られるにごり酢には、酢酸菌がたっぷり含まれています。この酢酸菌をココナッツの果汁に加えて作られるのが、ナタデココ。お酢が苦手な人は、ナタデココを取り入れるといいでしょう」(石原さん)
菌は単独で摂るよりも、相性のよいもの同士を合わせることで、そのパワーがより高まるという。
「ヨーグルトの乳酸菌と酢酸菌を一緒に食べると、免疫活性力が高まります。納豆菌と酢酸菌の組み合わせもいい。いつものヨーグルトにナタデココやにごり酢を加える、納豆ににごり酢をちょい足しするなど、ちょっとした工夫で変わります。あわせて食物繊維やオリゴ糖など、菌のエサになるものも忘れずに摂ってください」(石原さん)

一方、「何を食べるか」以上に「何を避けるか」という引き算の視点も必要だ。
「塩分や砂糖、超加工食品、動物性の脂肪やたんぱく質の摂りすぎは、腸内環境に悪影響を与えることが明らかになっています。これらを控えつつ、食物繊維を積極的に摂取して、多様な菌がすみやすい環境を整えましょう」(内藤さん)
日本人に不足しがちな果物も、菌活にはポイントになる。
「食物繊維が豊富なりんごやグリーンキウイ、バナナは特におすすめ。りんごは、食物繊維やポリフェノールが多い皮ごと食べるのがベストです。ただし加糖されたジュースは避けましょう。生の果物を食べるのを習慣にすることが、腸内細菌の活動をサポートしてくれます」(内藤さん)


腸を温めることで免疫力が5倍に
善玉菌が増えるような生活習慣も菌活には欠かせない。川本さんは、まず基本に立ち返ることだと強調する。
「朝食を含めた1日3食をしっかり食べ、たばこやお酒の飲みすぎ、暴飲暴食を避ける。夜は充分な睡眠をとり、ストレスをためないよう行動をする。こうした規則正しい生活を守るとともに、腸を温めてぜん動運動を改善することも忘れないでほしい。夏でも冷たい飲み物を控え、毎日湯船につかり体を温めましょう」
石原さんも、体を温めることの重要性を強く訴える。

「私たちの体内で『酵素』がもっともよく働くのは、体の内臓の体温である『深部体温』が約37℃のときです。酵素とは、体の生命維持や新陳代謝に欠かせないたんぱく質で、数えきれない種類の酵素が、毎日私たちの体で働いています。最近は低体温の人が増えており、深部体温が36℃程度しかない人も珍しくありません。わずか1℃違うだけで免疫力が5倍になるくらい細胞の働きに大きな差が生じるので腹巻をして、腹部を温めるなど、温活も意識するといいでしょう」
特別なことは必要ない。すぐに始められる毎日の積み重ねが、菌を育て、“老いない腸”をつくるのだ。
※女性セブン2026年3月19日号